第186話「バシュラール将軍は「何だ、こいつは?」という感じ、無言で俺をにらみ」

大きな問題が残っている。


連合部隊を率いるフレデリク・バシュラール将軍、そして率いられた3万人の騎士、兵士達を、どうにか上手く収めないといけない。


具体的に言うのなら、将軍と3万人のメンツを保ち、出撃中止となる事を納得させれば良い。


ここでグレゴワール様が、発言を求め、挙手をする。


「陛下、私に考えがございます」


「おお、グレゴワール。何か良案があるのか?」


「はい、ございます。但し陛下のご協力が必要不可欠です。そしてロイクの協力も必要なのです」


「うむ! 私とロイクの協力が必要とな!」 


「はい! これからフレデリクをこちらへ呼びますが、話を私に合わせて頂けますか?」


「話をお前に合わせるのか? それは内々で口裏を合わせるという事か」


「御意!」


「うむ。……という事は、グレゴワール。これも一国を治める王として、今後に向けての勉強という事かな?」


「御意! ロイクも構わないな?」


「はい! グレゴワール様の策が上手く行くよう、全面的にご協力致します!」


俺はジョルジエット様から聞いた事がある。


アレクサンドル陛下が幼い頃から、グレゴワール様はリヴァロル公爵家次期当主として、親しい間柄だった。

ふたりは年の離れた、むつまじい兄弟のようであったという。


やがてアレクサンドル陛下が皇太子となってからは、

グレゴワール様は公私ともの教育係となり、ふたりの仲は更に深くなった。


そしてそんなに時間を経ずして、遂にふたりの信頼関係は、揺るぎないものとなったらしい。


まあ、さっきからのふたりのやりとりを見ていれば、第三者の俺でも分かる。


さてさて!

グレゴワール様は、警備担当の騎士を呼び、


フレデリク・バシュラール将軍を、

国王陛下専用書斎へ大至急で来るように命じた。


現在午前2時30分少し前。

非常事態宣言が発令中、こんな時間に国王陛下から緊急で呼ばれるっていかがなものか。


事情が全く分からなければ、悪い予感しかしないし、俺は絶対行きたくない。


しかし、グレゴワール様とアレクサンドル陛下は完全にリラックス。

軽口まで叩いている。


「ふむ、まあ、終わり良ければ総て良しです、陛下」


「ははは、終わり良ければ総て良しか。まあそうだな。明日……いや、もう今日か。や~っとぐっすり眠れるな」


軽口の後は、


「うむ、では陛下。将軍が来るまでに、打合せをしておきましょう」


「分かった! ロイクもな」


「はい」


と3人で打合せ。


そんなこんなで約30分が経ち……


警護の騎士が声を張り上げる。


「陛下! 宰相閣下! フレデリク・バシュラール将軍が、参られましたあ!」


おお、将軍が来たか。

果たして、どうなるのか?


俺が思うと、


「陛下! 宰相! フレデリク・バシュラール! ただいま、参りましたあ!」


呼び出されたフレデリク・バシュラール将軍の声が、扉の向こうから、

大きく響いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


対して、


「うむ!! フレデリク!! 待っていたぞ! 大儀である!! すぐ中へ入ってくれ!!」


アレクサンドル陛下の明るい大声。

いきなりの先制パンチ。


「し、し、失礼致しますっ!」


がちゃ!

と扉が開いて、フレデリク・バシュラール将軍が入って来た。


バシュラール将軍は、グレゴワール様に近い体型。

髪の色こそ栗毛で違うが、2m近い筋骨隆々な偉丈夫。


まだ俺は正式に引き合わせて貰っていない。

将軍は俺の名前と王国執行官就任は知っているだろうけど。


バシュラール将軍は、部屋へ入ると、びしっ!と直立不動で最敬礼。


表情は緊張の極致という感じ。


いくら総勢3万人とはいえ、1,000㎞を行軍し、5千体のオーガどもと戦うのは、

相当の覚悟が必要なのだ。


「へ、陛下! 宰相! このフレデリク・バシュラール! いつ出撃命令を頂いても構わぬよう! 準備は万全であります! 王立闘技場に騎士兵士3万人を、待機させてあります!」


しかし、アレクサンドル陛下は笑顔。


「ははははは! おう、フレデリクよ。近う寄れ。この長椅子ソファへ、遠慮なく座ってくれ」


そして、グレゴワール様も。


「ははは、フレデリク。長椅子ソファへ座れ。ロイク、席を開けてくれるか?」


「はい!」


俺が返事をして立ち、席を譲ると、


「………………………」


バシュラール将軍は「何だ、こいつは?」という感じ、無言で俺をにらみ、


「へ、陛下の対面とは畏れ多いですが、失礼致します」


と相変わらず少し緊張気味で、長椅子ソファの真ん中へ座った。


これで上座の長椅子ソファにアレクサンドル陛下がひとり。

対面の長椅子ソファの左端にグレゴワール様。真ん中にバシュラール将軍。

右端に俺が座る形となった。


ここでグレゴワール様が微笑み、


「フレデリク」


「は! 宰相! 何でしょう?」


「彼は、ロイク・アルシェ。この度、陛下直属の王国執行官となった。名前は知っておるだろう?」


「はあ、自分は、昨日先行して国境付近へ出撃したと報告を聞きましたが、どうして今ここに彼が居るのでしょうか?」


バシュラール将軍は、怪訝な表情で再び俺をにらみつけたのである。

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