第185話「ただひたすら笑顔。 且つ無言になってしまう」
騎士が扉を開けると、広い応接室が見えた。
向かい合ったふたつの豪奢な
その上座に、ファルコ王国第81代国王、アレクサンドル・ファルコ陛下がお座りになっていた。
「ははははは! おう、ふたりとも近う寄れ。そこの
「陛下のお許しが出た。先日とお会いした時と同じ並びで座ってくれ」
グレゴワール様の指示により、
俺達は、アレクサンドル陛下の座った向かい側の長椅子に座る。
陛下の対面にグレゴワール様。
その隣に俺。
アレクサンドル陛下は壁にかかった魔導時計を見た。
時刻は、もう少しで午前2時となる。
完全に真夜中である。
「このような時間に、わざわざ私を起こし、その上、ロイクまで引き連れ、会いに来たとは……何か、特別な報せ、なのかな?」
「はい! 陛下がおっしゃる通り、特別な報せにございます!」
グレゴワール様が、きっぱり言い切ると、
アレクサンドル陛下は身を乗り出した。
「おお、そうか! グレゴワール! 早速聞きたい! 報告してくれ!」
「は! 今回の殊勲者ロイク・アルシェから直接ご報告させても宜しいでしょうか?」
「今回の殊勲者とな! うむ! 構わない! 許す!」
「お許しが出たぞ。ロイク! 私へ告げたのと全く同じく! 陛下へ申し上げてくれるか」
「は!」
俺は大きな声で返事をし胸を張り、
「はい! 朗報です! 今回の大破壊は収束。オーガども5千体はすべて討伐完了。被害はボドワン・ブルデュー辺境伯家兵士の軽傷者3名のみ。住民は全て避難済み。当然、ブルデュー辺境伯も無事です」
と、はきはきした口調で報告を入れた。
「おお!」
と小さくうめいて、目を大きく見開くと、満足そうな笑顔となった。
ほぼグレゴワール様と同じ反応。
ここでそのグレゴワール様がフォロー。
「ロイク・アルシェは昨日夕方、王都を出発。約1,000kmをひと晩かけて走破し、朝方にボドワン・ブルデュー辺境伯の居城へ到着。居城を取り囲む首魁オーガキング以下5千体が、正門を打ち壊そうとしているのを見過ごせず、召喚した使い魔とともに突撃。オーガキングを見事撃破! 大混乱に陥ったオーガどもを殲滅! 見事にブルデュー辺境伯と騎士、兵士全員を救いましたあっ!」
ああ、グレゴワール様が語る語る、熱く熱く語ってる。
身振り手振りまで入っている。
対して、アレクサンドル陛下も大興奮。
「おお、おお!! 目に浮かぶようだっ!! ロ、ロイク・アルシェ!! お前ひとりで5千体ものオーガを討伐したのか!? よ、よ、よ、良くぞ!! 良くぞやってくれたあっ!!」
俺は淡々と言葉を戻す。
「はい、陛下。何とか、なって良かったです」
ここでまた、グレゴワール様がフォロー。
「ロイクは、ブルデュー辺境伯立ち合いの下、現場の検分を行い、オーガどもの完全討伐を確認。その後、辺境伯と念入りに打合せをし、またも睡眠をほとんど取らず、王都へ戻ってまいりました。そして、陛下。こちらがその報告書です」
グレゴワール様はそう言うと、俺とブルデュー辺境伯が連名でサインをした報告書を、アレクサンドル陛下へ渡したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アレクサンドル陛下は、じっくりと、受け取った報告書を読んだ。
そして大きく頷く。
「おお、ロイクよ。討伐したオーガどもの死骸5千体も、空間魔法で持ち帰って来たか!」
「はい。倒したオーガどもの死骸を、大破壊発生で不安に陥った王国民達へ見せれば、気持ちが安堵し、晴れやかになると思いまして。討伐を疑う方に対しても、論より証拠という事にもなりますし」
「うむうむ! ロイク・アルシェ! 何から何までお前はしっかりしておる! 強いだけでなく、深謀遠慮も相当なものだ! ほめて遣わそう!」
「…………………」
やんごとなき方から、褒められて、えっへん! とか、『どや顔』で返せる人が居るかもしれないけど……俺は絶対に無理。
ただひたすら笑顔。
且つ無言になってしまう。
しかし!
問題が残っている。
連合部隊を率いるフレデリク・バシュラール将軍、
そして率いられた3万人の事をどうにか上手く収めないといけない。
グレゴワール様がこうなった場合もシミュレーションしていると言ったけど、
対応出来る妙案はあるのだろうか?
少し渋い表情をした俺の雰囲気を見て、グレゴワール様はすぐに感づいたみたい。
すぐアレクサンドル陛下へ呼びかける。
「陛下! ご相談が」
「うむ、どうしたグレゴワール」
「はい、出撃準備を終えたフレデリクと騎士、兵士、3万人の件ですが……まあ出撃前で幸いというか、振り上げた拳をおさめて貰わないといけません」
「まあ、そうだな。ロイクのお陰で人命が失われず、戦費も準備分のみの少額で済んだからな。後は、大破壊収束を命じられた将軍たる誇りのみの問題だな」
アレクサンドル陛下とグレゴワール様は、顔を見合わせ、にっこりと笑ったのである。
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