第190話「使い魔を召喚したロイクは! 何と!何と!何とっ! 単身! オーガ5千体へ突っ込んだのだああっ!!」
ファルコ王国の支配者アレクサンドル・ファルコ国王陛下、
王国宰相グレゴワール・リヴァロル公爵閣下、
フレデリク・バシュラール将軍は爵位が侯爵。
そして国王陛下直属の王国執行官たる俺ロイク・アルシェ。
元平民でモブだった俺はともかく、このようなえり抜きの超が付くVIP揃い。
内々の打合せが済んだから、すぐ闘技場へ移動し、
しれっと発表、はい終了というわけにはいかない。
まずは出発準備。
出発し、闘技場への移動と受け入れ。
それに伴う護衛の手配と段取りを組む等々、いろいろあるのだ。
そういった事をグレゴワール様は見越し、闘技場におけるイベント実行を、
約4時間後の、午前8時に決めた。
午前8時。
この時間ならば、非常事態宣言発令中の王都ネシュラも、完全に眠りから醒め、
起き出しているだろうから。
という事で、……なんやかんやで準備は完了。
アレクサンドル陛下、グレゴワール様、バシュラール将軍、そして俺は、
騎士100名の護衛とともに、連合部隊が野営する王立闘技場へ。
事前に連絡が行っていたので、騎士と兵士3万人で埋め尽くされた広大な闘技場フィールドの前方には、大きなステージが設置されていた。
元々このステージは、アレクサンドル陛下、グレゴワール様立ち合いのもと、
バシュラール将軍が全軍に出撃命令を出す為のものだそうだ。
で、あれば当初の予定通り。
騎士達、兵士達に戸惑いとか動揺はない。
ただ、これから5千体のオーガへ挑む戦いへ赴くという、
彼ら彼女達の悲壮な覚悟が伝わってくるだけだ。
しかし!
実際にこの場で発表される内容は、真逆のもの。
さあ!
何回も練習した通り、上手くやりましょう。
まず口火を切るのは、バシュラール将軍だ。
魔導拡声器を使い、将軍は大きく声を張り上げる。
「これから! 大破壊収束へ向け! 我らは命を懸け! 5千体にのぼるオーガとの戦いに赴く!」
将軍の言葉を、3万人の騎士、兵士は無言で聞き入っている。
「…………………」
「しかあし! 赴く前に状況が大きく変わった! それを今、君達全員へ告げたいと思う!」
状況が大きく変わった?
一体何だろう?
騎士、兵士は訝し気な表情を浮かべる。
だが、言葉を発する者は居ない。
「…………………」
「王国執行官ロイク・アルシェ! 前へ出るように!」
将軍に促され、俺は一歩前へ出た。
「知らない者も多いだろうが、このロイク・アルシェは、先日国王陛下直属の王国執行官となった強者だ。更に! とんでもない速さで、駆ける事が出来る!」
ここで、俺を見た兵士数人がひそひそ話す。
聴覚が鋭い俺の耳に聞こえて来る。
「あいつ、門番が変なあだなをつけて呼んでた奴じゃね?」
「ああ、そうだ。俊足あんちゃんとかいう奴じゃね?」
おお、門番グッジョブ。
いまいちな、あだなだと思ったが、これで話が早いぞ。
「静粛に!」
バシュラール将軍はそう言うと、話を続けたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「私は! 国王陛下、宰相閣下と話し合い、ご許可を頂き! ロイク・アルシェには特別な任務を与えた」
「…………………」
「私が与えた! ロイクの特別な任務とは! そのたぐいまれな俊足を活かし! 我々に先んじて! この王都から1.000㎞離れたボドワン・ブルデュー辺境伯の居城へ! 応援に行くというものだ!」
「…………………」
「そして! ブルデュー辺境伯の居城を取り囲むオーガどもを、後方から攻撃し、出来る限り倒す! もしくは牽制するというものだ! 我々、討伐軍の本隊3万人が到着するまで! 辺境伯の居城が落ちぬようにな!」
「…………………」
「驚く事に! ロイクは何と! 一睡もせずひと晩で1,000㎞を走り抜いた!」
ここで初めて、騎士と兵士が大きくどよめく。
「「「「「おおおおおおお!!!!!」」」」」
対して、バシュラール将軍は話を続ける。
「ロイクは、急ぎ! ボドワン・ブルデュー辺境伯の居城へ向かった! そして! 居城へ到着し! 目の当たりにしたのは! 5千体のオーガどもに取り囲まれ! 正門を打ち壊されそうになった! 辺境伯の居城だった!」
どよめいた騎士と兵士は、再び無言でじっとバシュラール将軍の話を聞いている。
「…………………」
「ロイクは、少し考えた末に決断した! このままでは辺境伯以下2,000名の命が危うい!」
「…………………」
「命令違反とはなるが! 致し方無い! ここは自分も戦い! 辺境伯へ、助力せねばと!」
「…………………」
「使い魔を召喚したロイクは! 何と!何と!何とっ! 単身! オーガ5千体へ突っ込んだのだああっ!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
最後には身振り手振りまで入り語る、バシュラール将軍の熱弁に、
3万人の騎士兵士は、大きく大きくどよめいたのである。
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