第179話「何故、君は命じられた以上に戦ったのだ?」
「な、な、何い! お、お、王国執行官御免状おお!!??」
書類を受け取ったボドワン・ブルデュー辺境伯は更に驚いた。
「むむ……王国執行官ロイク・アルシェは、任務遂行の際、王国宰相グレゴワール・リヴァロルに準ずる裁量を与える……な、な、何ぃぃ!」
ブルデュー辺境伯が驚くのも無理はない。
俺は宰相に準ずる権限を持たされたからだ。
補足しよう。
御免状は、許し状ともいう。
『何かすることを許します』という意味があるのだ。
そもそもこの御免状は、俺が王国執行官の任務を遂行する際、
円滑に完遂出来る事をグレゴワール様へ相談し、誕生したものだ。
つまり、王国執行官として赴いた現場で、
身分、立場、事情などで面倒なしがらみが生じた場合、それらを解消する力。
反対し、不満を言う者に従って貰う為、
俺に王国宰相グレゴワール・リヴァロル公爵に準ずる権限を与えるという事だ。
グレゴワール様は、ジョルジエット様と結ばれ、リヴァロル公爵家を継ぐ俺の未来を見越し、この権限を与えてくれたのだと思う。
王国執行官ロイク・アルシェとして実績を積んだ上、
リヴァロル公爵家を継げば、誰も文句を言わないという深謀遠慮だ。
何故、ここまでするのか?
今回のオーガキング以下、5千体討伐という武功はあまりにも大きい。
よくあるパターンが、安全を確保したら欲が出て、
俺とケルベロスが成しえたこの武功を横取りする事。
まあ、さすがに、これだけ目撃者が居れば、自身が戦ったという偽装は不可能。
ただ、現場で俺へ命じたとか、作戦を立てて指揮をしたとか、
何か適当な理由をつけて、手柄を自分のものにするよう工作するのだ。
俺の前世ケン・アキヤマが勤務していたダークサイド企業でも、そんな上司が居た。
アラン・モーリアとしてプレイしていたステディ・リインカネーションの世界でもそんな貴族は大勢居た。
疑うなどはしたくない。
しかし俺は『性善説』を信じない。
脇を甘くして付け込まれたくないし、俺のせいで誰かが傷つくのも嫌だ。
打てる手は全て打つ。
その上で、ブルデュー辺境伯が尊敬に値する人物ならば、
何らかの形で、報いてあげれば良いのだ。
果たして、ブルデュー辺境伯はどう出るだろうか?
「分かりました。王国執行官の指示に従いましょう」
ああ、良かった。
ブルデュー辺境伯が放つ波動に悪意はなかった。
……俺の強さに驚いているのに加え、アレクサンドル陛下、グレゴワール様には、
忠誠を誓っているみたい。
俺は安堵し、胸をなでおろしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
オーガキング以下、
約5千弱……
ケルベロスを先導させ、俺はブルデュー辺境伯を伴い、現場を検分して回った。
当然、俺の指示なのだが……
この検分は、間違いなく大破壊が終結した証として、辺境伯に立ち会って、
確認して貰うのだ。
「いかがでしょう? 辺境伯閣下」
「うむ、ロイク君の手並みは見事だ。召喚した使い魔も大した強さだ。全ての個体が絶命、見事に討伐されておる! 実感する! 大破壊は……終わったのだな」
「はい、終わりました。そして、申し訳ございません」
「ん? 大きな災厄が終わり、めでたいのに何故謝るのだ?」
「はい、閣下がおっしゃった通り、城を取り囲むオーガどもを、後方から攻撃し、出来る限り倒す。もしくは牽制するのが王国執行官ロイク・アルシェたる自分の任務でした」
「ふむ、そうだな。公爵閣下の連絡書にはそう記されていた。何故、君は命じられた以上に戦ったのだ?」
「はい……閣下の城の正門が今にも打ち壊されそうとしていたからです」
「ふむ……まあ、そうだな。正門が破壊されるのは時間の問題であった。オーガどもがいつ来ても良いように、騎士、兵士とも戦闘態勢はとっていたが……」
「でしょうね。しかし、オーガどもが城内へ乱入したら、ただではすみません。そうなる前に俺は戦わねばと思いました」
「ふむ、確かにオーガどもが乱入したら、我々は無傷ではすまなかった。だが城内で我々がオーガどもと戦い、奴らが数を減らしてから戦おうとは思わなかったのだな? 計算高い男なら、そうするはずだぞ」
「そんなセコイ事、全然思いません。王国民を逃がす為、この地に留まり、ご自身自らが盾となった閣下の男気に、自分は報いようと思いました」
「む? 男気? 聞いた事がない言葉だ。ロイク殿、どういう意味だね?」
「はい、正しき者が苦境に立っている事を見のがせない気性。義侠心といえるものです」
「ふむ、 それは騎士道に含まれる。忠誠、公正、勇気、武芸、慈愛、寛容、礼節、奉仕の8つのうち、勇気、慈愛、寛容に当てはまろう。盾となるのは領民の為、戦う者たる私の義務だ」
何だ、この人、すっごく良い人じゃないか!
俺とブルデュー辺境伯の会話は、思った以上に弾んだのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます