第178話「気が付けば、全部倒してました」
原因不明、未曾有の大災害、
大破壊によって襲来したオーガ5千体の大群は、俺とケルベロスにより討伐された。
住民を避難させる為、敢えて『囮』となり、オーガどもの猛攻に耐えていたボドワン・ブルデュー辺境伯と2,000名の守備隊であったが……
俺とケルベロスがオーガどもを全滅させたのを目撃、
声を張り上げ、安全を告げた俺が、開門を呼びかけると、ようやく正門を開けた。
まだ気を緩めず警戒しているのだろう。
まず、おそるおそる現れたのは大勢の兵士達。
数百人は居るだろう。
スローモーションのごとく、ゆっくりと出て来た兵士達は、
「「「「「!!!!!!!!!!」」」」」
とんでもないショックを受けたようだ。
こんな事、ありえね~~!!!!!
という心の波動も伝わって来る。
まあ、オーガどもが倒されるのをライブかつリアルで目撃したのは、
正門上に設置された物見やぐらに陣取った一部の兵士のみ。
後は『阿鼻叫喚』を聞いただけだもの。
兵士達の中から、指揮官らしき将校が出て来て、俺へ尋ねて来る。
信じられない事実を目の当たりにしたのと、
俺の傍らに控えた巨大灰色狼風に擬態したケルベロスにびびっているみたい。
「あ、あ、貴方様が! お、お、王国執行官! ロ、ロイク・アルシェ様ですかあ?」
「はい、そうです」
「じ、自分は! ブ、ブルデュー家従士長、デジレ・バランドですっ! 閣下より兵士1,500名をお預かりしておりますっ!」
ブルデュー家従士長、デジレ・バランドさんか。
先に様子を見て来いと言われたんだろうな。
それで安全が確認出来たら、
騎士隊に守られ、ボドワン・ブルデュー辺境伯本人が現れるって事なんだろう。
まあ、貴族としては安全第一で無理もないか。
ここはさっきまで『戦場』だったからね。
「初めまして、デジレさん、これ自分の身分証明書です」
俺は『王国執行官』の身分証明書を提示。
目を見開き、身分証明書をのぞき込む将校さん。
「はっ、はい! た、確かにい!」
「ご覧の通り、オーガどもは討伐し、安全は完全に確保されました。ボドワン・ブルデュー辺境伯閣下をお呼びいただけますか? お見せしたい書類がありますから」
「わ、私から! 閣下にお、お渡ししますう!」
成る程。
証明書を見て納得はしたが、すぐ俺を辺境伯に引き合わせたくないって事か。
「いえ、王国宰相グレゴワール・リヴァロル公爵閣下のご命令です。自分から直接お渡しするようにと、ご命令されております」
俺はきっぱり言い切り、デジレさんの申し出を断った。
補足しよう。
ステディ・リインカネーションの世界で辺境伯とは、
中央から離れて大きな権限を認められた地方長官。
爵位としては、伯爵より上位であり、侯爵に近い位置づけなのだ。
しかしさすがに公爵で王国宰相たるグレゴワール様には逆らえない。
「も、申し訳ございません! 出過ぎた真似を致しましたあ!」
デジレさんは、平身低頭し、城内へ戻ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
約15分後……
騎士100名ほどに守られ、ボドワン・ブルデュー辺境伯が現れた。
辺境伯も騎士達の反応も、デジレさんを含む兵士達と一緒だった。
「「「「「!!!!!!!!!!」」」」」
とんでもないショックを受けたようだ。
こんな事、ありえね~~!!!!!
という心の波動も伝わって来る。
俺からしたら、まさに
辺境伯も騎士達も「固まってしまった」ので、
俺は声を張り上げる。
「お疲れ様でございます! ボドワン・ブルデュー辺境伯閣下! 自分は! アレクサンドル陛下直属の王国執行官ロイク・アルシェであります! 大破壊の報をグレゴワール・リヴァロル公爵閣下から受け、援軍に参りましたっ!」
「あ、ああ……貴殿が来る事は聞いている。ま、ま、魔法鳩便で今朝、こ、公爵閣下から書面が届いておった……」
「はい! なのでこの通り! 自分は任務を果たしましたあ!」
俺が任務完遂を告げると、辺境伯はようやく落ち着いて来たみたい。
「だ、だが! ロイク殿」
「はい、何でしょう?」
「は、話が違う! き、貴殿の任務は、我が城を取り囲むオーガどもを、後方から攻撃し、出来る限り倒す。もしくは牽制すると書いてあったぞ」
「はあ、そのはずでしたが……気が付けば、全部倒してました」
しれっと言った俺に、辺境伯は驚愕。
「はあ!!?? き、気が付けば、ぜ、全部うう!!??」
「ええ、辺境伯閣下と皆さんを少しでも早くお助けしたかったものですから」
微笑んだ俺はグレゴワール様から預かった書類を、騎士隊長経由で渡した。
「な、な、何い! お、お、王国執行官御免状おお!!??」
書類を受け取った辺境伯は更に驚いたのである。
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