第167話「そろそろタイムリミットです。日付が変わってしまいますわ」

ジョルジエット様、アメリー様は、既にルクレツィア様と話をつけていた。


3人一緒に、俺と結婚するのだと……


更にジョルジエット様は、今度は俺へではない。

3人の秘書達を見据える。


「シルヴェーヌ! シャルロット! そしてトリッシュ!」


びし! びし! びし!


凛とした声で秘書達の名を呼ぶジョルジエット様。


対して、ジョルジエット様へ呑まれたように臆して返事をする秘書3人。


「は、はい!」

「はいい!」

「は、はい!」


「先日、貴女達3人と話をしました。その時に貴女達は言いましたね?」


え?

何?

何を言ったっていうの?


「私とアメリーが、ロイク様と結ばれ、添い遂げると告げたら、憧れると!」


え?

ジョルジエット様とアメリー様が俺に添い遂げるのを憧れる?


そういえば……以前、トリッシュさんが俺へ片思いとかいう話から、

秘書達が盛り上がった事があったっけ。


その話を、ジョルジエット様、アメリー様ともしていたんだ。


「貴女達が言うロイク様に『憧れる』『好き』と言う言葉はどこまで本気……なのでしょう?」


ジョルジエット様の問いかけに対し、3人は無言である。


「……………………」

「……………………」

「……………………」


しかし3人は対照的だ。

顔を少ししかめ、むっつりしているのは、シルヴェーヌさんのみ。

シャルロットさん、トリッシュさんは、にこにこしてしていた。


そんな3人を見ながら、ジョルジエット様は言う。


「私とアメリーは、ロイク様が大好きですわ! 心よりお慕いし、愛しております。そして! 運命に翻弄されるお可哀そうなルクレツィア様のお相手として、ロイク様は最高の殿方だと確信しております」


ジョルジエット様の言葉を聞き、アメリー様は「うんうん」と頷いた。


秘書達はといえば……3人とも変わらずといった感じ。


「……………………」

「……………………」

「……………………」


「ロイク様は、私とアメリー同様、ルクレツィア様も必ず幸せにしてくれると信じております!」


「……………………」

「……………………」

「……………………」


「私とアメリーは、王女ルクレツィア様をお迎えし、3人で妻となり、ロイク様とともに歩いて行きます。そうなったら私は第二夫人、アメリーは第三夫人です。正室にはなれませんが、覚悟の上です!


「……………………」

「……………………」

「……………………」


「今! まさに人生のターニングポイントが来た! そう言えるでしょう」


「……………………」

「……………………」

「……………………」


「現在の貴女達は秘書という名の部下に過ぎません。もっと踏み込んで近しい間柄になるのか、否か、決断の時なのですよ」


「……………………」

「……………………」

「……………………」


「私は、決して強制はしませんわ。秘書に徹するのも、ひとつの道。公私の区別をつけるという意味で、プロとして良き選択かもしれません」


「……………………」

「……………………」

「……………………」


「今すぐ、答えを出せとは言いません。しかし、その事を踏まえてロイク様に仕え、しかるべき時が来た際、求められたら、はっきりとした答えを戻してくださいね」


「……………………」

「……………………」

「……………………」


相変わらず……3人の表情は変わらない。


シルヴェーヌさんは、むっつり。

シャルロットさん、トリッシュさんはにっこにこ。


だが3人とも、結局返事は『保留』となったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ジョルジエット様の話がひと段落した、その時。


とんとんとん!


書斎の扉がノックされた。


「皆様、夜分、恐れ入ります。家令のデルフィーヌ・ブルジェでございます」


ああ、ジョルジエット様、アメリー様を連れて来た後、

「失礼します」と退室したデルフィーヌさんか。


「そろそろタイムリミットです。日付が変わってしまいますわ。いくら閣下にご許可を頂いたとはいえ、ジョルジエット様、アメリー様は、そろそろお引き取りくださいませ」


ああ、もうそんな時間か。

かかっている魔導時計を見たら、確かに午前0時を回る寸前だった。


「分かりました。アメリー、本館へ戻り、休みましょう」

「はい! ジョルジエット様」


さすがにジョルジエット様、アメリー様は、忠告に従う。

このまま俺の部屋へ泊まる!

とか言われたら、嬉しいけれど、やはり困る。


でも、このまま「さようなら」というわけにはいかない。


俺は秘書達に断り、

護衛のアンヌさん、ジュリーさんとともに、

ジョルジエット様、アメリー様を本館まで送ったのである。

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