第165話「何か、とんでもないくらい、話が大きくなっちまった……」

「そうか! じゃあ、こちらからも話す事がある。……王女ルクレツィア様の事だ」


グレゴワール様はそう言うと大きく息を吐き、俺を見つめた。


いよいよ来たか!


アレクサンドル陛下が、ルクレツィア様と話をして、

次はアレクサンドル陛下が、グレゴワール様と話をする。

そういう段取り……だったはずだ。


秘書達も息を呑み、無言で聞いている。

ルクレツィア様の件は、筆頭秘書のシルヴェーヌさんが、

シャルロットさん、トリッシュさんへ話していた。


そんな中、グレゴワール様は言う。


「ルクレツィア様はな、ご自分のお立場をお考えになって、お覚悟をお決めになっていらっしゃる」


覚悟?


俺はグレゴワール様へ問う。


「という事は?」


「うむ、アレクサンドル陛下のご指示に、お従いになるそうだ」


「それって……」


「うむ、陛下の仰せのままに……隣国でもどこへでも、誰へでも嫁げと命じられたら全てを受け入れられる、とな」


「う~ん……」


ふるき時代、中世あたりの後継者以外の王族、貴族でよくあるパターンだ。

男でも女でも、政略結婚の道具となる。

故国や家の為、自身を『駒』としてささげる覚悟って事か。


ステディ・リインカネーションの世界は、一応中世西洋風異世界。

価値観が、俺の生きていた前世とは違う。


でもステディ・リインカネーションは現代人が造ったゲーム。

それを具現化した異世界って事で、

現代の価値観を受け入れて貰う余地はないだろうか?


まあ、相手がどこぞの王子でも、この俺でも、

ルクレツィア様には恋愛する自由はない。

だから同じかあ。


「ルクレツィア様のお考えは理解しました。兄君である陛下のお考えはいかがでしょう?」


「変わらぬ……限られた道の中で妹君ルクレツィア様が最も幸せになる道を示したい。そうお考えになっていらっしゃる」


「で、俺は何をすれば宜しいでしょう?」


「……うむ。今から話すのはあくまで私見だ。陛下と私の一致したな」


国王陛下と王国宰相の一致した意見って……

そういうのは、私見と言わないと思うけどな。


まあ、良いや。

お聞きしましょう。


「出来るものなら、ルクレツィア様は国外へ出さず、故郷のファルコ王国で幸せに暮らすようにしてあげたい」


「………………」


おいおい……それって!

じゃあ、ルクレツィア様を『俺』もしくは『家臣』の誰かへ嫁がせるって事か!


ここで『とどめ』の一撃。


「そして、陛下と私はロイク・アルシェに大いに期待しているのだ」


え?

やっぱ俺?


「………………」


「陛下と私が何を言いたいのか、君に対し、何を望んでいるのか……分かるな?」


念を押すように、俺へ問い質した。


はいはい、分かりますって。

ルクレツィア様を嫁がせても、どこからも文句が出ないよう、有無を言わさないよう、俺が巨大な付加価値をつけ、内外へしっかりアピールしろ! って事だ。


つまり、俺のお披露目イベント、王立闘技場のトーナメント、

ファルコ王国王家主催武術大会を大成功させろって事。


俺のお披露目イベントの件も、アレクサンドル陛下の耳へ入っているのだろう。


ここは、「はい」と言うしかない。


「………………はい!」


「勿論! ロイク君がルクレツィア様に気に入られる事は必須だ! そうじゃなければ、この話は完全にナシだ!」


そりゃ、まあ……当然でしょう。

ルクレツィア様に嫌われたら、結婚云々どころじゃない。


でもさ、わざと嫌われたら……ルクレツィア様は、俺と結婚しないで済む。

その代わり、ルクレツィア様はどこかの国外の王族か、国内の上級貴族と愛なき結婚をする。

そうなったら、陛下とグレゴワール様の、俺への好感度はダークサイドへ堕ちる。


だから俺は、成り行き任せで、ひたすら頑張るしかない。


「頑張ります!」


ここまで来たら……

俺は決意を述べるしかなかったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


陛下とグレゴワール様から、とんでもなく大きい期待をかけられ、

重い宿題も出されてしまった。


秘書達へも、


「君達も、ロイク君を全力で支え、バックアップしてくれたまえ」


とグレゴワール様からはお達し。


そして更に、


「改めて、ジョルジエット、アメリーとも、いろいろ話し合ってみようと思う」


そんなコメントも飛び出した。


えええ?


じゃあ!


ジョルジエット様、アメリー様との結婚も白紙? 見直し?


何か、とんでもないくらい、話が大きくなっちまった……


俺が、そっと見れば、秘書達も、ひどく真剣な顔つきをしている。


そんなこんなで、夜の打合せは終了した。


「お疲れ様でした。失礼致します」


「お疲れ様でした。失礼致します」

「お疲れ様でした。失礼致します」

「お疲れ様でした。失礼致します」


時間は午後10時……いつもなら、今日の仕事は終わりだ。


しかし、

本館を出てから、シルヴェーヌさんが言う。


「ロイク様、別棟へ戻ったら、4人全員で1時間ほど打合せを致しましょう」


「了解だ」


俺は文句なくOKし、シャルロットさん、トリッシュさんもすぐ同意したのである。

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