第162話「おいおいおい! トリッシュさんは、俺をとんでもなく『神格化』していないか?」

冒険者ギルドの職員食堂で、たまたまサブマスターのエヴラール・バシュレさんの秘書、クロエ・オリオルさんに会い、懇親した俺と秘書3人。


笑顔のクロエさんからは最後に……

「私で出来る事なら、ご協力致します。お気軽にご連絡ください」

と言われ、


「こちらこそ、何でもおっしゃってください」


と、俺は返した。


そんなこんなで、昼食を終え、顧問室へ戻った俺達。


とりあえず、仕事再開までちょっと、ひと休み。


トリッシュさんが言う。


「もう職員は皆、知っていますけど……ウチのギルドで、ロイク様の顧問就任の公式発表って、一体いつになるんですかね?」


対して、シルヴェーヌさん。


「ロイク様が、国王陛下直属の王国執行官に就任すると、王宮で公式発表した後だと思うわ」


すると、シャルロットさんも。


「ウチの商会の全社員も、ロイク様の顧問就任を知っておりますわ。かん口令が敷かれていますから、表立って口にはしませんけど……」


最後に俺が、


「まあ、そういう決め事は希望を言えるくらいで、陛下やグレゴワール様のご意向もある。俺達がどうにか出来るものじゃあないからなあ。今やれる事を手を尽くして行うしかないよ」


と言えば、秘書達は納得。


ここでシルヴェーヌさんが俺の顔を見てしみじみと言う。


「ロイク様って……」


「ん?」


「見た目は若輩の少年でいらっしゃるのに、中身はまるで私と同じ年齢か、それ以上、社会経験を積まれた大人の男性のようですわ」


「うお!?」


いきなりの突っ込み。

『ど』が付く直球。


び、びっくりした!


焦ったぞ。

どきっとした。


鋭いなあ、シルヴェーヌさん。

女子の直感って奴だろうか。


でも、ロイク・アルシェの中身は、異世界人ケン・アキヤマ25歳と彼女が知る由はない。


「ま、まあ良いじゃないか。さあ、そろそろ午後の仕事をしよう」


俺が話題を変えようとしたのに、


「あ、それ、分かりますわっ! 見た目は少年なのに、大人のような落ち着きと包容力がロイク様の魅力ですね♡」


「はあい! ギャップ萌えって事ですよね♡ クロエさんもおっしゃってました!」


などと、シャルロットさん、トリッシュさんがノリノリで追随したから、

シルヴェーヌさんも、


「ああ、皆、そう思っていたのね! 私こうも思うんだけど!」


などと、またも女子会が復活。


その後、30分以上も続いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


職員食堂における『女子会』が終わり、仕事を再開。


食事前から、ず~っと気になっているのは……

トリッシュさんがギルドの業務部から持ち帰った、

俺へ提案したいらしい超が付く高難度の依頼。


「トリッシュさん」


「はあい♡ ロイク様あ!」


「俺の為に集めてくれた依頼……見せてくれる?」


「かしこまりましたあ! 喜んでえ!」


まるで前世の居酒屋店員ノリで、言葉を返すトリッシュさん。


当然ながら、シルヴェーヌさん、シャルロットさんも興味津々。


「トリッシュさんが選んだ、ロイク様に遂行して欲しい依頼……ぜひ! 拝見したいです」

「ルナール商会の……ウチで出した依頼と比べ、どうでしょうか?」


「OKでえす! こんなん出ましたあ!」


書類入れから、どさっと依頼書を出すトリッシュさん。


え?

と思ったが、件数は少なくとも、条件、注意事項などなど、

添付する補足説明書がやたら多いそうだ。


「私のいち推しはこれでっす」


身を乗り出し、書類を渡して来るトリッシュさん。


一読する俺。


「ええっと……何々……南方の火山に出現した凶悪なファイアドレイクの討伐。推定で体長30m強。性格は凶暴で人間嫌い。怒らせると吐く火の息で、周囲数kmが火の海になるので注意。完全討伐条件で報酬は金貨3,000枚。はあ!?」


「はあい! ファイアドレイク1体討伐なんて! 一度にドラゴンを10体倒したロイク様にとっては、昼寝しても完遂出来る楽勝案件でっす♡」


いやいやいや!

1体とはいえ、上位のドラゴン、ファイアドレイクだぞ!

いくら俺だって、昼寝しても完遂出来る楽勝案件じゃないって!


「……………………」


苦笑し、無言で応える俺。


すると、トリッシュさん。


「あらあ! 物足りないですかあ! じゃあ、こっちはどうでしょ?」


再び身を乗り出し、書類を渡して来るトリッシュさん。


同じく、一読する俺。


「ええっと……何々……西方にある放棄された古城に潜むと噂される吸血鬼の始祖と約500体の配下たる吸血鬼軍団の討伐。完全討伐条件で金貨4,000枚って!? と、とんでもねえ!」


「はあい! ロイク様はまだ不死者アンデッドと戦った事がないですよねえ?  私、ロイク様が吸血鬼とどう戦うのか、わくわくしまあす! でも、相手が弱すぎますかねえ?」


「……………………」


おいおいおい!

トリッシュさんは、俺をとんでもなく『神格化』していないか?


複雑な顔つきの俺に対し、トリッシュさんは、いつもの通り、

うふふ♡と、無邪気な笑顔を向けて来たのである。

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