第161話「はい! ロイク顧問に大きな刺激を受けたのですわ」
冒険者ギルド本館4階、職員食堂。
秘書3人を連れた俺へ声をかけて来たのは、
すらっとした金髪碧眼の美女。
サブマスターのエヴラール・バシュレさんの秘書、
クロエ・オリオルさんだった。
ロイク・アルシェに転生し、初めて冒険者ギルドに赴き、
案内をして貰ったのが、クロエさんだった。
あの頃を思いだすと、懐かしいなあ……
「ああ、クロエさん、こんにちは!」
俺があいさつすると、「はい!」とトリッシュさんが挙手。
「ロイク様! 私がおふたりを、クロエさんへご紹介しても宜しいでしょうか?」
自分の『庭』だから、仕切りたいのだろう。
でも、俺にうかがいをたてるとか、でしゃばらず、
トリッシュさんは、自分の立場をわきまえている女子である。
当然俺はOKする。
「ああ、構わないよ。クロエさんにふたりを紹介してあげて」
「はいっ!」
元気よく返事をしたトリッシュさん。
「と、いう事でクロエさん、私がご紹介致しますねっ!」
「はっ、はい」
トリッシュさんの『元気』には、クロエさんも押され気味って感じ。
「おふたりは、私と同じくロイク様の秘書を務めていらっしゃいます。まずは王国執行官秘書のシルヴェーヌ・オーリクさん」
「初めまして! シルヴェーヌ・オーリクと申します。王国執行官たるロイク・アルシェ様の秘書を務めております。何卒宜しくお願い致します」
「そして! ルナール商会顧問秘書を務める、シャルロット・ルナールさんです!」
「初めまして! シャルロット・ルナールと申します。ルナール商会顧問ロイク・アルシェ様の秘書を務めております。何卒宜しくお願い致します」
トリッシュさんからシルヴェーヌさん、シャルロットさんを紹介され、
クロエさんも声を張り上げる。
「初めまして! クロエ・オリオルと申します。冒険者ギルドサブマスター、エヴラール・バシュレの秘書を務めております。こちらこそ何卒宜しくお願い致します」
秘書4人、女子達の声が職員食堂に響いた。
全員が美女だけに、食事中の職員達も一斉に注目する。
職員食堂全ての視線が集中したと言って過言ではない。
しかし、紹介の儀式が終わった女子達には関係ないみたい。
トリッシュさんがつなぎ役となって、初対面のクロエさんを、
リラックスさせたようだ。
傍から見ても、みるみるうちに4人が仲良くなって行くのが分かる。
そのトリッシュさんが叫ぶ。
全員頼む料理が決まったみたい。
「ロイク様あ! Aセットで宜しいのですよねえ!」
「OK!」
「じゃあ、食券買いますねえ! クロエさん、今日はロイク様のおごりですよお」
「はいつ」
嬉しそうに返事をするクロエさん。
同じくトリッシュさんも嬉々として、5人分の食券を購入したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
トリッシュさんから、食券を配られ……
俺達全員は各自の料理引き換えコーナーへ。
料理を持ち帰った俺達は、テーブルの一画に陣取る。
美女4人に囲まれ、男は俺ひとりの食事。
街中のように、あからさまに「リア充爆発しろ」という嫉妬の罵声さえないものの、「羨ましすぎる!!!」という羨望の眼差しが、ぐさぐさぐさと、俺の全身に突き刺さる。
しかし、先ほどの会話で、俺がロイク・アルシェという事ははっきりと認識されてしまった。
かん口令は敷かれているものの、俺がドラゴン10体を討伐した強者だという事を、
ギルドの職員全員が知っている。
加えて、幹部職員の顧問である俺に対し、変なアプローチをして来る者はさすがに居なかった。
一方、女子達はといえば、クロエさんを中心に話が盛り上がっていた。
ここで俺はクロエさんへ尋ねる。
「今日、エヴラールさんはどうしたのでしょう?」
「はい、ウチのサブマスターは、修行の為、1週間の予定で魔物の討伐に出ておりますわ」
「え? エヴラールさんが魔物の討伐?」
「はい、気心のしれたメンバーとクランを組み、いくつかの依頼を受諾。自分を鍛え直す! と言い切り、出撃して行きました」
「それって……」
「はい! ロイク顧問に大きな刺激を受けたのですわ。他のサブマスターも、いえ、ギルドマスターさえも、ロイク顧問に刺激を受けていますわ」
「そうなんですか」
「はい、ウチのサブマスターに話を戻しますと、戻ったら、絶対に模擬戦の借りを返す! と気合が入っていましたわ」
ここで「はい!」と挙手をしたのがシャルロットさん。
「え? 模擬戦? それ、詳しく話を聞かせてください。王都に来たばかりのロイク様が、剣聖に勝ったとしか、祖父から聞いていないのです」
「それ、私も詳しく聞きたいですわ」
と、シルヴェーヌさん。
そして、トリッシュさんまでが、
「クロエさん、その時、現場にいらしたんですよね? ロイク様って、どんな感じでしたあ?」
と、尋ねた。
こうして女子4人は、俺が冒険者登録した時の話で大いに盛り上がったのである。
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