第160話「俺と秘書3人は目立つ。 たくさんの視線を感じる」

作業を少し開始したところで、トリッシュさんが挙手。


「そろそろ、マスターと幹部へ、ごあいさつに伺いましょう」


ただいまの時刻は、午前10時30分過ぎ。


成る程。

朝いちの、いきなりで伺うと、いかがなものかだが、

これくらいの時刻が、あいさつのタイミングとしては、ちょうど良いという事か。


と、いう事で。

トリッシュさんへ連れられ、各所を回る。


しかし、いきなりの訪問で在室している方がまれ。

マスターのテオドールさんは居たものの、

サブマスター、エヴラール・バシュレさん他のサブマスター5人は、

秘書も含め、全て不在か、会議中。


仕方なく、トリッシュさんは、

俺達があいさつに伺ったという伝言だけを残しておく。


ちなみに、顧問職は俺だけだそうだ。


……あいさつを終え、顧問室へ戻った俺達4人は作業を再開する。


シルヴェーヌさんがとりまとめた資料とは、


5W1Hに基づいて、


Who……誰が、When……いつ、Where……どこで、What……何を、


Why……なぜ、How……どのようにを、

王立闘技場のトーナメントへ当て込み、確認事項を箇条書きにしたもの。


更に、エキシビションマッチ。

俺の魔物退治も入る。


それらの箇条書きされた項目を全て、4人で手分けし、確認して行く。


顧問室に備え付けの資料で確認出来ない不明なものは、トリッシュさんが、

ギルド内の各部署へ出向き、確認し、控えを持ち帰る。


立ち入りは許可されたものの、さすがに、まだ部外者扱いの、

シルヴェーヌさん、シャルロットさんは、

ギルド内のオフィスへ立ち入りは出来ないから。


そんなこんなで、作業は順調。


シルヴェーヌさんの箇条書きが、どんどん補足されて行く……

このぶんなら、本日中に確認作業が終わりそうだ。


午前11時15分になったところで、トリッシュさんが挙手。


「はあい! じゃあ、私、こちらの作業は、一旦皆様にお任せして、業務課へ行き、トレゾール公地以外で、ロイク様のトレーニングになりそうな、超高難度依頼をピックアップして来ますねえ」


ああ、魔物退治の方も詰めておこうって事か。

相変わらず気が利くなあ。


「お手数ですが、トリッシュさん、お願いします」


「はあい! ロイク様にお願いされましたあ! でもでも! トレゾール公地以上に超高難度で凶悪な依頼って、中々ないんですよねえ♡」


「いやいや、超高難度で凶悪な依頼って……むりくりそんなのピックアップしなくても良いからさ」


これは俺の本音。

黙ってスルーすると、とんでもない依頼を持って来そうな気がするもの。


しかし!

トリッシュさんは、笑顔。


「でもでもお! 私は超が付く困難に立ち向かい、克服して、明日へ力強く歩き出すロイク様に、すっごく、しびれちゃうんですう♡」


「超が付く困難に立ち向かい、克服して、明日へ力強く歩き出すって……あのね」


俺は苦笑し、更にトリッシュさんへ、ブレーキをかけた。


すると、


「うむ、私もトリッシュさんに賛成。天下無敵、無双のロイク様が好ましいと思う♡」


「あ! 私も私も! 誰もが口をはさめないくらい、お強いロイク様が大好きです♡」


シルヴェーヌさん、シャルロットさんは、トリッシュさんを後押し。


3対1……数の論理に負けた……


ああ、今後もこういうパターンが多くなりそうだ。

ジョルジエット様、アメリー様が加わったら、5対1だし。


「じゃあ、ちょっち、行ってきま~す」


という事で、トリッシュさんは、業務部へ出かけて行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


……12時少し前にトリッシュさんは、業務部から戻って来たが、

持ち帰った依頼の中身の精査は、「午後行う」と話しているうち、お昼となった。


ギルド外へ食事に行っても良かったが……

ここでも女子3人の意見が通り、

ギルド本館内の職員食堂へ行く事となったのだ。


冒険者ギルドの職員食堂は、本館の3階にある。


実はロイク・アルシェに転生してからは、初めて行く。


しかし前世で、アラン・モーリアとしてプレイしていた時には良く行った。


ギルドの職員食堂は、セルフサービス方式。

料理別に引き換えコーナーがあり、職員は食券を購入し、

引き換えに料理を受け取るという形。


紅茶もセルフサービスで、ポットとカップが置かれていて、飲み放題となっている。


俺と秘書3人は目立つ。


たくさんの視線を感じる。


しかし、俺はまだ正式に顧問就任のあいさつを全職員の前でしていないし、

シルヴェーヌさんは冒険者ギルド2回目の訪問、シャルロットさんは、初見参。


職員としてトリッシュさんだけが、認識されるが、

彼女が、顧問就任したドラゴンスレイヤーたる、

俺の秘書になった事も知れ渡っていないらしい。


不幸中の幸い、懸念した、「わっ!」と職員が押し寄せる事態は起こらなかった。


さてさて!

今日のランチは俺のおごり。

先にトリッシュさんへ、金貨を渡してある。


なので、


「私が食券を購入しますから、好きな料理をおっしゃってください」


そう、トリッシュさんが言うと、


「分かりました」

「どれにしましょう」


と、シルヴェーヌさん、シャルロットさんは、うきうき気分で、

メニューを見始めた。


と、そこへ、


「あら、ロイク・アルシェ顧問じゃありませんか」


声をかけて来たのは、20代前半、紺色のスーツっぽい仕事着に、

かっちりと身をかため、すらっとした金髪碧眼の美女。


サブマスターのエヴラール・バシュレさんの秘書、

クロエ・オリオルさんだったのである。

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