第159話「おいおい、皆、そろそろ仕事をしようぜ」

シルヴェーヌさんが作成した資料を基に、

王立闘技場のトーナメント企画を確認し、詰めなければならないという事で……

今日は全員で、冒険者ギルドへ行く事を決めた。


先日、勤務スケジュールは決めていたが、まだ本格スタートする前。


本日は当初、王宮へいくはずだったから

グレゴワール様へ、予定が変更になったと、伝えておいた方が良いだろう。


おい、ロイクはどうした?

どこに居る?

もしかして、さぼっているのかとか言われたりしてね。


と、ここでトリッシュさんが挙手。


「はい! 私、お伝えして来ますう!」


一番年下の秘書として、笑顔で気を利かせて言うが、

シルヴェーヌさんは首を振る。


「だめだめ、トリッシュさんがひとりで行って、閣下はお怒りはしないでしょうけど、最初は私達3人全員で、お伝えしに行った方が宜しいのよ」


成る程!

トリッシュさんは、さっき雲の上の人グレゴワール様と食事をともにし、

親しく話した事で気安くなった。

なので、単独で伝言をしに行っても問題なしと判断したんだ。


だけどシルヴェーヌさんがストップをかけた。

まずは全員で行き、徐々に……と判断したに違いない。


頃合いを見て、単独行を許すつもりなのだろう。


シルヴェーヌさん、筆頭秘書として見事に『後輩』達をまとめている。

責任感があって良い事だ。


「という事で、私達3人で、閣下へ予定変更をお伝え致します。ロイク様はこのまま書斎でお待ちください。お迎えに参りますわ」


「ありがとう。宜しく頼むよ」


……という事で、約15分後に、再びシルヴェーヌさん、シャルロットさん、トリッシュさんの3人が俺を迎えに来てくれ……


俺達4人は馬車へ乗り込み、冒険者ギルドへ出発したのである。


その馬車の車中……


シルヴェーヌさんが言う。


「私、まだ冒険者ギルドはうといのです。トリッシュさん、ご案内、先日お伺いした時同様に、宜しくお願いしますね」


するとシャルロットさんも、


「私など冒険者ギルドは、生まれて初めてですわ。トリッシュさん、いろいろ教えてくださいな」


と、初心者マークを自身でぺったんこ。


対してトリッシュさんは、自分の『庭』だけあって、余裕のよっちゃん。


「うふふふふ♡ まっかせてくださ~い。ねえ♡ ねえ、ロイク様あ♡」


トリッシュさんは、熱々の視線を送って来る。

片思い♡だと告げられた元気印の彼女に、俺は圧倒されてしまう。


まあ、良いけどさ。


「あ、ああ、そうだな!」


「はいっ! 私とロイク様が居れば、ばっちりで~っす♡」


♡マークを連発するトリッシュさん。


そうこうしているうちに……

俺達を乗せた馬車は、冒険者ギルドへ到着したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ギルドの本館1階で入館手続きを済ませてから、

魔導昇降機で幹部専用のフロアである8階へ。


俺は所属登録証、トリッシュさんは職員証があるから、手続きは不要なのだが、

シルヴェーヌさん、シャルロットさんの入館手続きが必要なのだ。


「こっちらで~すっ」


魔導昇降機を降り、先日と同じく、軽やかに歩き、

明るく先導するトリッシュさん。


その背後を、俺とシルヴェーヌさん、シャルロットさんが歩く。


4人で個室の扉のあるフロアをしばし歩き、とある部屋の前に。

扉には、木のプレートが掲出されていた。


『ロイク・アルシェ顧問室』とある。


ここが、俺の部屋だ。


「こちらが、ロイク様のお部屋で~す」


笑顔のトリッシュさんはそう言い、かちゃと、解錠した。


続いて、のぶを掴み回し、がちゃりと、扉を開いた。


部屋は、12畳くらいの広さ。

俺の事務机、椅子。

トリッシュさんの事務机に椅子。

書類入れを兼ねた書架。

ロッカーがひとつ。


テーブルをはさんだ、長椅子がふたつ。

これは応接セットだろう。


この前は以上! だった。


しかし、違うところがあった。


トリッシュさんの机の横に机がふたつ増えていた。

可愛い椅子も置いてあった。

そう、シルヴェーヌさん、シャルロットさんの席だ。


「ギルドマスターから、OKを頂きましたので、速攻で昨日のうちに、シルヴェーヌさん、シャルロットさんのお席も用意しましたあ!」


おお!

さすが、トリッシュさん。


と思いきや、シャルロットさんも胸を張る。


「ルナール商会のロイク様用の顧問室も、秘書3人勤務バージョンでセッティングしてありま~す」


おお、シャルロットさんも負けてはいない。


こうなると、シルヴェーヌさんの負けず嫌いが顔を出す。


「う~! 私も王宮の王国執行官執務室を、秘書3人勤務バージョンでセッティングしなきゃ! あ~、閣下、陛下を上手く説得してくださ~い、お願いしま~す!」


何て、言い始めた。


うんうん!

こういう張り合い方は良い事だ。


しかし、そろそろ我に返って貰おう。


「おいおい、皆、そろそろ仕事をしようぜ」


「「「はあいっ!」」」


俺の呼びかけに対し、麗しき秘書3人は応え、

本日の仕事である、俺のお披露目イベント、

王立闘技場トーナメント企画の確認を始めたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る