第154話「ロイク様、皆様、ひとつ提案です」

リヴァロル公爵家の恒例、騎士達による朝の訓練が終わった。


俺の能力は突出していると改めて感じたが、

やはり騎士相手に訓練すると、良きメンテナンスとなる。

出来る限り続けて行こう。


一方、シルヴェーヌさんの護身術指導も上手く行ったようだ。


シルヴェーヌさんの教え方は、親切で丁寧。

それゆえ、ジョルジエット様、アメリー様、シャルロットさん、トリッシュさんは皆、訓練を楽しんでやっていた。

シルヴェーヌさんがとりまとめ、護身術を一緒にやる事で、

5人の女子が仲良くなってくれる事を願おう。


そして予定では、訓練が終わったら着替えて、

別棟の大広間で朝食となるのだが……少し予定を変更した。


現在、俺が朝食を摂っている場所は、俺が住むのとは違う別棟。

騎士達の宿舎にある『大食堂』である。


一緒にメシを食っているのは、警護主任騎士のバジルさん。

相変わらず律儀で礼儀正しい人である。 


「閣下のご意向とはいえ、妹がロイク様の秘書になるとは……兄妹ともども宜しくお願い致します」


と、丁寧に頭を下げられ、言われてしまった。


そんなバジルさん以外にも、男女問わず、大勢の騎士が俺の周りでメシを食っている。


バジルさんと少し話した後……

俺は、誰彼となく話しかけ、どの料理が好みとか、訓練はどうとか、

休みの日は何をしているとか、他愛もない話をする。

地道だが、これが大事なのだ。


前世で営業職をやっていた俺は、クライアントや協力会社さん、スタッフさんと

何回もメシを一緒に食べて、徐々に仲良くなり、終いには親しくなった。


実は……

先ほど思いついたのが、騎士達と一緒にメシを食べて仲良くなる事。


身体を一緒に動かす『訓練』とともに、楽しく摂る『食事』が心の距離を縮める、

良いコミュニケーションの方法になると考えたからだ。


そして以前、ジョルジエット様、アメリー様護衛担当のアンヌさん、ジュリーさんから、「朝食を一緒にいかがですか」と誘われた『約束』も果たしたといえよう。


この大食堂は、自分で好きな料理や飲み物を取り、好きに食べる。


つまり、俺が暮らしていたルナール商会のホテルや、

以前ジョルジエット様、アメリー様を連れて行った居酒屋ビストロ

『メルカートゥス』と同じビュッフェ形式なのである。


そして俺の秘書、シルヴェーヌさん、シャルロットさん、トリッシュさんの3人はといえば……ジョルジエット様、アメリー様と、仲良く食事をしていた。


俺が『メルカートゥス』へ連れて行った時の話題で盛り上がっているらしく、

ジョルジエット様とアメリー様が、身振り手振り入りで話したり、

全員でお代わりしに行ったりしている。


朝食が終わった際、女子5人からは、ぜひ『メルカートゥス』へ連れて行ってくれと、せがまれてしまったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


食事が終わり、午前8時前に、

ロジエ女子学園へ通学するジョルジエット様、アメリー様を見送った俺達。


俺や以前警護役だったシルヴェーヌさんだけでなく、

シャルロットさん、トリッシュさんにも、名残惜しそうに大きく手を打ち振る、

ジョルジエット様、アメリー様。


その後は別棟の俺の書斎へ戻り、全員で朝の合同連絡会議を行う。


うん!

ここまでは予定通り、順調、順調。


ここで俺から議題をふたつ出す。


ひとつは、グレゴワール様から命じられた、

王国執行官となった俺のお披露目イベントの件。


このイベントは、王国の内外に、俺の強さを広く周知するという意図があるという。

これに関しては、俺にアイディアがあるが、

秘書達へ『宿題』として投げておこうと思う。


もうひとつは、ルクレツィア様の件だ。

先ほど、3人の秘書は、『メルカートゥス』へ連れて行った時の話を、ジョルジエット様、アメリー様より聞いただろうから、話が早い。


ルクレツィア様が、うらやましがり、同行したいという話を聞き、

大いに納得していた。


ただ、こちらはグレゴワール様が、アレクサンドル陛下と話をして、

それ次第という事もある。


ここで「はい!」と挙手をしたのが、シャルロットさんだ。


「ロイク様、皆様、ひとつ提案です。私達秘書は、王宮、冒険者ギルド、そしてルナール商会の情報を共有します。現状では、それぞれの業務窓口は、担当の秘書が対応致しますが、作業自体はロイク様を中心に全員で協力しながら行うと、私は認識しています」


うん!

その通りだ。


俺が同意すると、シルヴェーヌさん、トリッシュさんも同意した。


「で、あれば! 私達3人の秘書は守秘義務の遵守を徹底するという前提で、全ての勤務先へロイク様とともに、もしくは個人で赴けるよう、グレゴワール様にお願いすべきだと思います。その方が、何かあった際、バックアップが出来、かつ効率的でもあります」


お嬢様ちっくな見た目と違い、熱く語るシャルロットさん。


すると、トリッシュさんも大きく頷き、


「確かに! ただそれは王宮、冒険者ギルド、ルナール商会3者の調整が必要ですね」


最後にシルヴェーヌさんが、


「ええ、私も賛成です。一番ハードルが高いのは王宮だと思いますが、グレゴワール様へ、全員でお願いすると致しましょう」


と、真剣な眼差しを向け、提案して来たのである。

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