第155話「あら、ロイク様。もうお昼。ランチタイムですよ」

午前9時50分。

全員で行う朝の合同連絡会議が終わり、俺達4人は出勤する。


リヴァロル公爵家の馬車で、各自の勤務先へ送って貰うのだ。


公爵家邸からの位置関係で、まずはルナール商会へ。

ここでシャルロットさんを落とす。

次に冒険者ギルド、ここでトリッシュさんを落とす。


最後に、俺とシルヴェーヌさんが王宮へ、という順番。


という事で、王宮へ到着したのが、10時15分くらい。


執務室へ入る前に、秘書経由でグレゴワール様へあいさつする。


王国宰相よりも後の重役出勤って、いかがなものかと思うが致し方ない。


俺は3か所の役職を兼務している。


各所の情報をすり合わせする、朝晩の合同連絡会議を欠かす事は出来ないのだ。


そんなこんなで、王国執行官専用執務室へ入り、

朝話し合ったひとつめの課題、王国執行官となった、

俺のお披露目イベントの件に関し、シルヴェーヌさんといろいろ話す。


シャルロットさん、トリッシュさんが降りた馬車の中、

俺とふたりきりになった時点で、

シルヴェーヌさんから、先に話を聞きたいと要望があったからだ。


「ロイク様がお持ちの仮案とは一体どのようなものでしょう? 凄く気になります」


何だか、シルヴェーヌさんが昨日とは全く違う。

全員でコミュニケーションを取った事、筆頭秘書として尊重した事、

そして、朝の訓練で俺が実力を見せた事などが、やる気になった理由なのだろうか。


「分かった、話そう」


「ありがとうございます、ロイク様」


「ああ、まず確認だ。……グレゴワール様とも、改めて話し合うけれど、お披露目イベント最大の目的としては、王国の内外に、俺の強さを広く周知するという意図があると聞いている」


「ええ、その通りだと思います」


「つまり国王陛下から平民、国外の方にまで、俺の強さをはっきりと見せるのなら、王立闘技場のトーナメントを使いたいと思うんだ」


「え? 王立闘技場のトーナメントとは、国内外から数多の戦士が集い、力と技を競い合う、ファルコ王国王家主催の武術大会ですよね」


「ああ! 俺も出場してぶっちぎりで全勝し優勝する!」


「成る程! 兄バジルから聞きましたが……騎士達と戦ったリヴァロル公爵家における模擬戦の再現ですね。今朝の訓練の模擬戦も凄かったですし」


「だな! 更にエキシビションマッチで、魔物と戦うんだ。そして倒した魔物とともにドラゴンの死骸も展示する」


「ナイスアイディアです! トーナメントにおいて、全ての戦士に圧勝。加えて、ロイク様が魔物も圧倒し、最後にトレゾール公地で倒したドラゴンも披露すれば、国王陛下を始め、闘技場に居る観衆の目には、王国執行官たるロイク様の強さがはっきりと認識されるって事ですね」


「その通り! どこからも文句は来ないだろう」


「ええ、そうですね! 文句など言えるはずがありません!」


「ちなみに、エキシビションマッチ用の魔物の捕獲は俺がやるし、運搬も俺がやる。ドラゴンを仕舞ってある空間魔法で危険がないように、王都まで運んで来るよ。まあ、さすがにドラゴン捕獲はやめておくけど」


「完璧です。私は賛成ですが、今夜シャルロットさん、トリッシュさんとも話し、明日、グレゴワール様へご提案致しましょう」


俺のプランを聞き、シルヴェーヌさんは大いに同意。

柔らかく微笑んでくれたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺のプランに大賛成したシルヴェーヌさん。


早速確認事項のとりまとめ資料作成に着手した。


5W1Hに基づいて、

Who……誰が、When……いつ、Where……どこで、What……何を、

Why……なぜ、How……どのようにを、王立闘技場のトーナメントに当て込み、

確認事項を箇条書きにするという。

更に、エキシビションマッチ。

俺の魔物退治も入る。


そして箇条書きされた項目を全て、4人で手分けし、確認して行くのだ。


やがて……資料は完成。

今夜は俺と秘書達全員で、分担の打合せをしよう。


この企画にグレゴワール様が難色を示す可能性はゼロではない。

まあ99%は大丈夫だと思うけど。


万が一、反対されたら、ちゃんと代案を出して貰おうと思う。


ここで、シルヴェーヌさんが声をあげる。


「あら、ロイク様。もうお昼。ランチタイムですよ」


おお、そうか。


でも、あれ?


そういえば、王宮に居る時、食事ってどうするんだっけ。


業務の確認ばかり頭にあって、聞くのを忘れてた。


先日は、食事を摂る前に外出してしまったし。


と思ったら、シルヴェーヌさんは、さすがグレゴワール様の元第三秘書。

王宮の勝手は分かってる。


秘書や使用人が、王宮の厨房へピックアップしに行くのだそうだ。


「では、行って来ますね。何かご希望の料理はありますか?」


「いや、俺は好き嫌いはないし、シルヴェーヌさんへ任せるよ」


「かしこまりました」


という事で、シルヴェーヌさんは王宮の厨房へ行き、

専用のカートで、ふたりぶんの料理を持ち帰って来た。


「私は秘書の控室で食事を摂りますね」


というシルヴェーヌさん。


王宮の要人は、配下を同席させず、ひとりで食事を摂り、

必要があれば、そのたびに使用人を呼ぶのが通例だそうだ。


でも、食事はひとりもありだが、

誰かと一緒に摂る方が楽しいというのが、俺の持論。


「いや、一緒に食べようよ」


という事で……

俺は美しい秘書とふたりきりで、楽しい食事を摂ったのである。

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