第140話「俺は、尊大になるつもりも、自分に課した方針も変えるつもりはない」

俺が3人の秘書と、別棟のひとつ屋根の下で暮らす。


そう知って浮気をしないよう、釘を刺して来たジョルジエット様とアメリー様。


俺が、「当然です! そんな事は致しません!」と約束したので、上機嫌。

満面の笑みを浮かべてハイタッチ。


こうなると、ふたりの女子の口調は滑らかになって来る。


「お父様、王国執行官って、結局ロイク様は、どのような事を為さるのですか?」

「ええ、私も気になっていましたわ」


そう、ジョルジエット様とアメリー様のおっしゃる通り、

俺も気になるんだよなあ。


対してグレゴワール様は、


「一応、ロイク君には伝えたが……定義として、王国執行官とは、王国の依頼により、事件捜査を行い、法の執行の権利、現場人員への指揮権を持つ管理職だ」


う~ん、分かりにくい。

と思ったら、ジョルジエット様とアメリー様も首を傾げる。


「あまりピンと来ませんね」

「皆目、見当がつきませんわ」


だろうなあ、俺も一緒だ。


対してグレゴワール様の答えはいかに、


「まあ、分かりやすくいえば、私の管理下のもと、ある程度の権限を与えた『何でも屋』だ」


ある程度の権限を与えた『何でも屋』……か。


う~ん、そういうしかないだろうなあ。


「ロイク様は、何でも屋でございますか?」

「何か、いろいろと、雑用を押し付けるみたいでございますね」


ああ、……俺もそう思う。


「うむ、勇者の偉業と言えるドラゴン10体討伐から、お前達の護衛のような要人警護、果ては、お使いのような事もして貰うかもしれんからな」


ああ、そうかもなあ。

実際、今までやった仕事がそうだし。


結局、俺がやって行こうと決めたフリーの自営業者という根本は変わらず、

やる事は変わらない。


王国執行官、冒険者ギルドとルナール商会の顧問という、もっともらしい肩書き、

そしてアレクサンドル陛下、グレゴワール様の強大な庇護がついたという事だ。


「ドラゴン討伐から……お使いですか」

「本当にいろいろですわね。他にもいろいろ教えてくださいませ!」


ジョルジエット様とアメリー様は、未来の妻として、未来の夫となる俺の仕事を、

いろいろ知りたいという気がありありだ。


まあ、その気持ちは健気だし、尊重したいところ、

それゆえ、グレゴワール様は、支障がないレベルで、質問に答えている。


質疑応答は遅くまで続き……お開きとなったのは、午後11を回っていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


翌朝、午前4時前に起床した俺は、この前同様、

騎士達の訓練に参加した。


前夜、グレゴワール様から聞いていた。


かん口令を敷いていて、騎士達にもドラゴン10体討伐については伏せてある。


しかし、警護主任騎士、バジル・オーリクさんにだけは、真実を伝えてあると。


加えて、俺がアレクサンドル陛下直属、グレゴワール様預かりの王国執行官に任命される事、

そして、現在グレゴワール様の第三秘書、妹のシルヴェーヌ・オーリクさんが、

俺の秘書になる事も……バジルさんだけには伝えてあるという。


「バジルさん、おはようございます! 昨日は護衛をして頂き、ありがとうございました!」


俺が朝のあいさつをし、礼を述べ、一礼すると、


バジルさんは尊敬の眼差しで俺を見つめ、


「おはようございます! ロイク・アルシェ様! 私達もリヴァロル公爵閣下同様、貴方様に忠実に仕えます。何卒宜しくお願い致します」


と言い、びしっ!と 直立不動で敬礼した。


護衛に同行した騎士達は勿論、リヴァロル公爵家邸につめる他の騎士達も、

俺の王宮行きの事実だけは知っている。


グレゴワール様を始め、冒険者ギルドマスター、ギルドマスターのテオドールさん、

ルナール商会会頭セドリックさんという重鎮のメンツで、

俺が王宮に行き、戻って来た事実のみとっても、

立場的に、何か進展があったに違いないという想像はつくからだ。


管理者のバジルさんが礼を尽くした事と、そのせいもあり、

訓練をともにした騎士達は皆更に、俺に対し、好意的となっていた。


対して俺は、尊大になるつもりも、自分に課した方針も変えるつもりはない。


「……これからいろいろあると思いますが何卒宜しくお願い致します」


と再び一礼した。


そんなこんなで……訓練を終えた俺は与えられた部屋でシャワーを浴び、

朝食に呼ばれ、大広間へ。


昨夜と同じ席に座るよう言われ、またサンドイッチで「あ~ん」状態。


今日は平日。

朝食後、ジョルジエット様とアメリー様はロジエ女子学園へ通学の為、

出かける。


俺とグレゴワール様は、時間差で王宮へ行く為、玄関でお見送り。


「ロイク様! ロジエ女子学園までご一緒致しましょう!」

「ぜひぜひ! 私達の学園を見て頂きたいですわっ!」


ジョルジエット様とアメリー様は、学園まで送って欲しいと熱望したが、


「いや、それはやめておこう」


グレゴワール様が止めたのだ。


万が一、ジョルジエット様の同級生である王女ルクレツィア様に、ニアミスし、

中途半端で変な形で、紹介する事になってもまずいと。


「分かりました」

「では、また違う機会に……」


ジョルジエット様とアメリー様は、仕方ないと納得し、元気に出発して行ったのである。

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