第139話「当然です! そんな事は致しません!」

「王国執行官としての秘書は、私の第三秘書が適任だと思う。話は通してあるし、いずれ、ロイク君へ紹介しよう」


グレゴワール様は、そう言うと、柔らかく微笑んだ。


すると、秘書就任を却下されたジョルジエット様、アメリー様がすかさず反応。


「お父様の第三秘書って! シルヴェーヌですわね!」

「シルヴェーヌ・オーリクが、ロイク様の秘書に?」


ふうん……シルヴェーヌ・オーリクさんって言うんだ、俺の秘書さん。


うん? 待てよ?

シルヴェーヌ・オーリク?


ええっと……オーリクって、聞いた事のある苗字だぞ。


オーリク……オーリクって、そうだ!


リヴァロル公爵家警護主任騎士、バジル・オーリクさんの苗字と同じだ!


ここでグレゴワール様が、たぐった俺の記憶を裏付けるが如く、


「そうだ! 現私の第三秘書、バジルの妹シルヴェーヌが、王国執行官たるロイク君の秘書となる」


うわ!

やっぱ、バジル・オーリクさんの妹さんか!


一体どんな人なんだろ?

お兄さんと同じく、真面目で仕事が出来る人な人なら、良いんだけど。

可愛いと、更に万全だ。


グレゴワール様は、2枚の書類を渡して来る。


「これが、シルヴェーヌの経歴書だ。後で読んでおきたまえ」


「はい」


俺が書類を受け取ると、ジョルジエット様が、


「シルヴェーヌは元騎士で、アンヌ・ベルトゥの前任者。私の護衛担当でした。

文武両道のお父様に憧れ、引退して秘書となりましたの」


アメリー様も言う。


「シルヴェーヌ殿は、美しく真面目で、バジル殿に匹敵する強さの騎士でしたわ」


成る程。


ジョルジエット様、アメリー様、情報のご提供、ありがとうございます。


お陰で、何となく、シルヴェーヌさんのイメージが出来上がる。


美人で真面目、強い。

文武両道な男子が好き。


端麗な顔立ちの、きりっとした、女子騎士って感じ。


更にグレゴワール様は、俺へ言う。


「ロイク君。冒険者ギルド、ルナール商会の秘書雇用に関しては、君の判断で、先方と進めて構わない。但し、採用者の経歴書を受け取り、正式決定前に、私の手元へ届けるようにしてくれ」


ここで俺は、ぱっと思いつく。


すぐに提案する事にした。


「グレゴワール様。シルヴェーヌさんも含め、承諾が得られたら、俺が住む別棟へ住み込みって勤務形態は取れませんか? 秘書3人がそろえば、情報共有がしやすいと思いますが」


「ふむ、もう少し詳しく聞かせてくれるか」


「はい。基本的な俺の勤務形態は変えませんが、情報共有にタイムラグが生じないよう、秘書さん達には別棟で一緒に居住して貰います。俺と秘書さんは、基本的に朝と晩に情報のすり合わせをします」


「成る程」


「はい、そして秘書さんには、俺が出勤しない日でも、それぞれ王宮、冒険者ギルド、ルナール商会へ出勤して貰い、先方の情報を持ち帰って貰うのです」


俺の提案を聞き、グレゴワール様は満足そうに頷く。


「うむ、それは名案だ。最新の情報が共有出来る。よし、秘書雇用の打合せをする際、私が了解したという言い方で先方に伝えてみたまえ」


やった!

グレゴワール様からOKが出た!


これで、スケジュール管理がより上手く行きそうだ。


俺は思わず、全員の前でガッツポーズをしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ガッツポーズをした俺を見て、ジョルジエット様の表情が曇る。


ええっと、どうしたのですか?


俺が不思議に思えば、ジョルジエット様、


「秘書を同じ屋根の下に住まわせるって……ロイク様、手をお出しになるつもりですか?」


え?

俺が秘書に手を出す?


ジョルジエット様、そんな心配をしてるの?


ないないない!

そんな事、絶対にない!


貴女とアメリー様が目と鼻の先に居るんですよ。

そして王女ルクレツィア様の事だってあるんですよ。


これ以上、守備範囲を広げるなんて、ありえない!


と思ったら、意外にアメリー様も、


「ファルコ王国の貴族で、妻が居ても邸内の使用人に手を出す……そのようなふらちな方は多いと聞いております。グレゴワール様は違うらしいですが……」


対してグレゴワール様は、


「う、うむ。私は亡き妻一筋である!」


と、少し噛んだが、きっぱりと言い放った。


すると、ジョルジエット様、アメリー様は、


「ロイク様も」

「そんな事、しませんよね?」


と、ダメを押して来た。


ここは、グレゴワール様と同じく、きっぱり言うしかない。

既に尻に敷かれている予感はするけど。


「当然です! そんな事は致しません!」


俺の物言いを聞いたジョルジエット様、アメリー様は、


「安心致しました。ロイク様を信じておりますわ」

「はい、私達が許容するのは、ルクレツィア様だけですわ」

「アメリー、その通りよ!」

「ですね! ジョルジエット様!」


そう言い合い、満面の笑みを浮かべ、互いにハイタッチしていたのである。

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