第138話「ふたりともまだ学生だろう。少なくとも、卒業するまでは無理だよ」

『王女の宿命』って奴かもしれないが……

愛のない結婚を強いられるルクレツィア様は、本当にお可哀そうだ。


他人の運命ながら同情し、渋い表情をする俺。


当然、グレゴワール様も同じお気持ちだと思う。


「ルクレツィア様の件は、私が明日以降、陛下とお話ししてから、お前達と改めて相談する。……この件は、とりあえずペンディング、夕食がてら、休憩しよう」


グレゴワール様のお言葉で、打合せは一旦、中断となる。


「はい、分かりました」


「夕食後、ロイク君が勤務する王宮の執務室等準備の段取り、冒険者ギルドやルナール商会との打ち合わせに関し、話をしておこう」


うん!

今日は朝から、いろいろあって、さすがに疲れた。


まあ、体力的なHPは、魔法で回復が可能だ。


しかし、リヴァロル公爵邸における朝早い時間からの打合せ、

王宮においての王国執行官任命、王女ルクレツィア様の件、

そして、ジョルジエット様、アメリー様との結婚の決意等々、

精神的な負荷、プレッシャーは相当なものだった。


脱力し、「ふう」と息を吐く俺。


そんな俺へ、グレゴワール様は微笑む。


「はははは、さすがのロイク君も、今日は疲れただろう?」


「ええ、体力的には大丈夫ですが、精神的に疲れました」


「うむ、そうだろう、そうだろう。今夜はウチで夕食を摂り、その後、少し話したら、そのまま泊まって行くと良い。もう夕食の準備は出来ているはずだ」


と気遣いしてくれた。


いやいや、グレゴワール様は、本当にお優しい方だ。

ご自分こそ、お疲れだろうに。


ここ数日間は、忙殺レベルたる普段の政務を後回しにして、

『俺の件』に振り回されていた。


グレゴワール様は、アレクサンドル国王陛下、

冒険者ギルドマスターのテオドールさん、ルナール商会会頭のセドリックさんと、

会って交渉し、折り合いをつけ、『王国執行官』という道筋を作ってくれた。


もしもこの落としどころがなければ、俺はファルコ王国を去っていただろう。

そして名前を変え、どこかへ目立たないよう隠れ住むとか。


でも、そんな事には、ならなかった。


グレゴワール様には、本当に感謝の気持ちしかない。


将来ジョルジエット様と結婚したら、義父になるし。

ここは素直に、お誘いに甘えよう。


「グレゴワール様、ありがとうございます。では遠慮なくご馳走になります」


「おお、そうか。じゃあ早速、食事にしよう。ジョルジエット、アメリーも一緒にな」


「当然ですわ! 私はロイク様の右隣に座ります」

「では! 私は左隣に座りますわ!」


と、いう事で……俺は、グレゴワール様達と、夕食を摂る事となったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺、グレゴワール様、ジョルジエット様、アメリー様

4人一緒に、夕食を摂る為、1階の大広間へ……


先日摂った朝食と同じである。


大広間には、巨大なテーブルが置かれ、

最奥に当主グレゴワール様が座り、当主に準ずるナンバーツーの席に、

やはり俺が座らされた。


先ほど宣言した順番通り、右わきにジョルジエット様。

左わきにアメリー様が座り、ふたりとも満面の笑み。


やがて……料理が運ばれて来る。


さすが、リヴァロル公爵家のディナー。


前菜、スープ、魚料理、口直しの氷菓子、メインの肉料理、そしてデザート。


最上級の素材が最高級の料理人により調理されている。


マナーとか厳しそうだが……


しかし、先日同様、

ジョルジエット様とアメリー様は、新妻のように、

かいがいしく、俺の世話をしてくれる。


分からない事。

食べ方やマナーなども優しく丁寧に教えてくれたのだ。


そしてそして!

必殺の「あ~ん」攻撃!

それも両側左右からだ。


「ロイク様、あ~ん」

「あ~ん」


「ロイク様、あ~ん」

「あ~ん」


傍から見れば、てめ~、燃えてしまえ!

という、リア充爆発、ハッピーアワー。


セバスチャンさん始め、使用人達はスルーだが、グレゴワール様は苦笑している。

まあ、微笑ましいという感じなのだろう。


夕食後、大広間からグレゴワール様の書斎へ移動。


打合せを再開する。


移動したのは、俺の話題において、

使用人達へ聞かせたくない秘密事項が含まれているからだ。


グレゴワール様は、俺へ言う。


「今後は、王国執行官としての、ロイク君のスケジュール管理をする秘書が必要だな」


「秘書ですか。冒険者ギルドには居ますけど」


そう、多分冒険者ギルド顧問の秘書は、トリッシュさんこと、

パトリシア・ラクルテルさんが務める事になるだろう。


本当は秘書ひとりにスケジュール管理して貰ったら楽。

だけど、王宮、冒険者ギルド、ルナール商会にまたがって、ひとりの秘書とか、

そういうわけにはいかないと思う。


ここで、すかさず!


「はい! 私がやります!」

「私も秘書をやりますわ!」


ジョルジエット様、アメリー様が挙手をし、身を乗り出して立候補。


しかし、グレゴワール様は豪快に笑う。


「ははははは! ふたりともまだ学生だろう。少なくとも、卒業するまでは無理だよ」


「ぶ~」

「ぶ~」


グレゴワール様に却下され、ぶーたれるふたりの女子。

可愛いなあ。


そんなふたりをスルー。


「王国執行官としての秘書は、私の第三秘書が適任だと思う。話は通してあるし、いずれ、ロイク君へ紹介しよう」


グレゴワール様は、そう言うと、柔らかく微笑んだのである。

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