第137話「急にルクレツィア様がお気の毒になって来た」

「はい! 俺はジョルジエット様、アメリー様を嫁にしたいです!」


決意した俺は、きっぱりと言い放っていた。


おお、言ってしまった。

今度は俺が言ってしまった。


人生のターニングポイントとなるべきセリフだ。


すると!

すかさず俺の両脇に座る、ジョルジエット様、アメリー様が反応。


「ロイク様!」

「ロイク様!」


ほぼ同時に叫ぶと、俺の右腕、左腕、ちょうど二の腕の辺りを、

がっつり、つかんだ。


そして、ぎゅぎゅぎゅ!!! と握ると、ふたりとも感極まった眼差しで、

じ~っと見つめて来た。


このリアクションは……同時に俺の嫁となる事を承知している。


金髪碧眼の超美少女。

小りすのような可憐な美少女。


ああ、ふたりとも本当に可愛い!

俺に対し、一途だ!


ひょんなことから出会って、いろいろあったけれど、

今は、心の底から、凄く愛おしく思う。


そんな俺達3人の様子を見て、グレゴワール様は、優しく微笑む。


「ふむ、ロイク君。今の言葉は、ジョルジエット、アメリー、両名と結婚したいと、私がとって構わないのかね?」


ああ、グレゴワール様は、念を押して来たのか。


ここは、きっぱりと肯定の言葉を戻さないといけない。


「はい! グレゴワール様に、そうとって頂いて構いません。申し訳ありませんが、今更どちらになど、選べません!」


きっぱり言い切った俺の言葉を聞き、グレゴワール様は、大きく頷く。


「うむ、お前達の本気、充分に分かった! 婚約、結婚を前提に正式に交際を認める!」


おお、ジョルジエット様、アメリー様、両名を嫁にしてOKって事か!


更にグレゴワール様は、アメリー様へ、


「アメリー、サニエ子爵家の後継の件は、お前の父に話すとしよう」


そう、アメリー様のお父上、サニエ子爵は公爵たるグレゴワール様、

リヴァロル公爵家の寄り子。


つまり、貴族社会、派閥の子分という立ち位置。


爵位からして、アメリー様が第二夫人という話になるのなら、

お父上のサニエ子爵へ話をしっかり通す事が必要なのだろう。


対してアメリー様は、


「はい、私からも父へ申し入れし、今回の件をお願い致します。とりあえず、私が次の当主となり、ロイク様との子を更に次の当主にするなど、いろいろやりようはあると思いますから」


おお、きりっとした眼差しでグレゴワール様を見据え、冷静に言うアメリー様。


って!

俺との子を更に次の当主?


そう聞くと、結婚という儀式がとってもリアルに感じる。


「うむ、いろいろ考えよう」


と、グレゴワール様は微笑み、


「となると、問題はルクレツィア様の件のみだ」


と言い、「ふう」と息を吐いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


グレゴワール様は、言う。


「先ほど私が話した事は、あくまでも推測だ」


推測というのは、国王アレクサンドル陛下のお気持ちの事。


可愛がっている美貌の妹君、王女ルクレツィア様の幸せを考えたら、

他国へ、愛なき政略結婚をさせたくない。


そこへドラゴン10体を倒したドラゴンスレイヤーの俺が現れた。


そもそも、ルクレツィア様に政略結婚を強いるのは、ファルコ王国の国益の為。


であれば。

ルクレツィア様を、勇者レベルの俺の嫁にするのも変わらない。


何故なら、俺を身内の王族にすれば、他国へ嫁にやるより、国益になる。

外野も「わあわあ」騒がない。

そして、結婚したルクレツィア様も、自国に留まる事が出来る。


だから、ジョルジエット様、アメリー様の護衛という名のデートへ、

アレクサンドル陛下は、ルクレツィア様を送り込んで来るのでは? 

……というグレゴワール様の推測。


「早ければ明日にでも、私が陛下とお話しし、お心の内をお聞きして来よう。それで、もしも、私の見込み違いで、他国へ輿入れさせるという事であれば……」


他国へ輿入れさせるのであれば?


「陛下がおっしゃったように、ルクレツィア様がお楽しみになられるよう、趣向を凝らせば良い」


そうか……

ルクレツィア様が他国へお嫁に行く前に、護衛という名のデートで、

故郷の王都で、非日常の楽しい時間を過ごさせてあげる。


妹の喜ぶ顔が……笑顔が見られる。

兄としての思いやり……か。


最初は、とんでもない話だと思ったが、

そう思うと、急にルクレツィア様がお気の毒になって来た。


他国へ愛のない政略結婚を強いられるのか、

いくら強いとはいえ、さえない平民の俺と結婚させられるのだから。


王女の宿命って奴かもしれないが……本当に可哀そうだ。


渋い表情をする俺の気持ちを見抜いたのか、


ジョルジエット様、アメリー様は、ふたりとも感極まった眼差しで、

俺をじ~っと見つめると、


掴んだ二の腕を、ぎゅぎゅぎゅ!!! と強く握って来たのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る