第134話「俺は黙って、グレゴワール様の出方を見よう」
俺とグレゴワール様が、書斎で打合せ、話がまとまったその時。
どんどんどんどんどん!!!
と、書斎の扉が乱暴に叩かれた。
「ははは、そろそろ来る頃だろうと思ったよ」
想定内かという感じで、グレゴワール様は苦笑。
……俺も、魔力感知で、扉を叩いたのが誰なのか、知っている。
放つ魔力で分かる。
叩いたのは、ジョルジエット様。
その傍らには、アメリー様が居るのだ。
今日は平日。
今の時間は午後4時30分。
通学しているロジエ女子学園の授業が終わり、帰宅したに違いない。
「お父様! 開けてくださいませ! ロイク様がいらしているんでしょ!」
「グレゴワール様! お願い致します!」
ああ、久しぶりに聞く、ふたりの声だ。
ちょっと懐かしいって感じかな。
「ロイク君、開けてやってくれたまえ」
「了解です」
俺はすっくと、長椅子から立ちあがり、扉の前に行き、ノブを回す。
かちゃと音がし、扉が開いた。
開いた扉の向こうに居たのは、やはりジョルジエット様とアメリー様。
金髪碧眼の超美少女の貴族令嬢、栗色髪のリスみたいな可憐な女子、
ふたりとも俺の顔を見て、ぱああっと、目が輝く。
「ロイク様っ!」
「ロイク様っ!」
大きな声で、俺の名を呼んだジョルジエット様とアメリー様。
がばっ! がばっ! と、俺へ抱きついた。
ええっと……
グレゴワール様が居るので、困惑する俺だが……
ジョルジエット様とアメリー様は、おかまいなし。
まるで、ぼっちでお留守番していた猫みたいな、さびしんぼう状態である。
更にぎゅうぎゅうと、俺を抱きしめる。
そんな俺達3人を見て、グレゴワール様は大笑い。
「ははははははははははははははははははは!!!!!」
しかし、ジョルジエット様とアメリー様は、やはりおかまいなし。
更に更に! ぎゅうぎゅう、ぎゅうぎゅうと、俺を抱きしめる。
ひとしきり笑った、グレゴワール様。
「うむ、3人とも、ここへ来て、一緒に座りなさい」
「分かりました」
俺が『代表』で返事をし、
「さあ! ジョルジエット様、アメリー様、一緒に参りましょう」
と促せば、意外にも……
「はい」
「はい」
と、ふたりとも素直に返事をし、うるうるした目で俺を見つめる。
おいおい! 可愛いじゃないか!
ああ、可愛い女子達に、こんなに慕われるって……最高だな! 幸せだな!
と思いつつ、俺はジョルジエット様、アメリー様を抱きかかえ、
「両手に花」状態で、グレゴワール様の前に座ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ジョルジエット様、アメリー様は、
俺の両脇に座ると、開口一番。
「お父様! 何か『偉業を成し遂げたらしい』と、お友達から聞きましたが、ロイク様は、どうなるのでしょう?」
「グレゴワール様は、何もおっしゃっらないから、とても気になりますわ」
ふたりの言葉で、分かった。
冒険者ギルドは、ドラゴン討伐に関し、『かん口令』を敷いた。
だが、それが誰かから漏れて、
ジョルジエット様は、友人から何か、『噂』を聞いたようなのだ。
でもここ数日の『俺の事情』を、
ジョルジエット様、アメリー様はご存じないらしい。
多分、グレゴワール様は、ふたりにせがまれても、何もしゃべらず、
教えなかった。
しかし、アレクサンドル陛下の妹君、王女ルクレツィア様の一件がある。
この件に関しては、ジョルジエット様は重要な役割を果たすキーウーマンだから。
というか。
そもそも、ジョルジエット様が、ルクレツィア様へ口を滑らせなければ、
このようにややこしい事にはならないのだが……
でも、この場で「わいのわいの」責めない方が良い。
まあ後で、優しく注意するぐらいに留めておこう。
俺は黙って、グレゴワール様の出方を見よう。
そのグレゴワール様は、
「分かった、分かった。ある程度めどがついたし、お前達にもかかわる話もある。差しさわりのない範囲内で、順を追って話そう」
「お願いしますわ、お父様」
「グレゴワール様、お願い致します」
「うむ、但し、これから私が話す事は、お前達から第三者へ話してはならない。もしも話したら、ロイク君との護衛契約は解除し、彼との交際は勿論、接触さえも一切禁止する……創世神様に誓い、しっかりと約束できるか?」
いつもと全く違い、真剣かつ冷え冷えとしたグレゴワール様の表情。
これぞ鬼宰相の真骨頂?
セリフもこのステディ・リインカネーション世界の必殺技、
「創世神様に誓うか?」が出たし。
まるで俺の持つスキル『威圧』にあてられた敵のように、
ジョルジエット様、アメリー様はびく!っと震える。
「わ、分かりました! や、約束致します!」
「そ、創世神様に誓い、けっして口外致しません!」
震えながら、嚙みながら、ジョルジエット様、アメリー様は、約束してくれた。
「うむ、では話そうか」
グレゴワール様は「ふっ」と笑い、愛娘達を見つめたのである。
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