第135話「あの~…… アメリー様、一緒に暮らすわけじゃないっすよ」

「うむ、では話そうか」


グレゴワール様は「ふっ」と笑い、愛娘達を見つめた。


「お願い致します」

「拝聴致します」


厳しく戒められたせいか、ジョルジエット様とアメリー様は緊張気味。

おとなしくしている。


俺も、とりあえずグレゴワール様の話を聞く事にした。

何かあれば、補足すれば良い。


「お前達が耳にしたというロイク君が『偉業を成し遂げたらしい』という噂だが、本当だ」


「そ、そうなのですか、お父様」

「グレゴワール様はご存知なのですね?」


「うむ、かん口令を敷いていたようだが、漏れてしまったようだな」


こういう言い方が、グレゴワール様は上手い。

どこが漏らしたという具体的な対象を言わず、事実のみを伝える。


俺も見習おう。


ジョルジエット様、アメリー様は可愛らしく首を傾げる。


「かん口令を?」

「敷いていた?」


「……うむ、単刀直入に言おう。ロイク君は、ドラゴンを討伐したのだ」


「ええええ!!?? ド、ド、ドラゴン!!??」

「ほほほ、本当でご、ございますかっ!!??」


「ああ、本当だ。私はこの目で見たよ。触ってもみた」


「………………」

「………………」


グレゴワール様の告白に、ジョルジエット様、アメリー様は絶句。

口あんぐりで、呆然としていた。


そして俺をそのままの眼差しで、信じられないというように眺めた。


「驚くのはまだ早いぞ、ジョル、アメリー。ロイク君はな、一度に10体ものドラゴンを討伐したのだ。そんな偉業は伝説の勇者でさえ、成し遂げてはいない」


「え!!!??? じゅ、じゅ、10体ぃぃぃ!!!???」

「あわわわわわわわわわぁぁぁ!!!???」


とどめを刺され? 超が付く驚愕という雰囲気のジョルジエット様、アメリー様。


「ははははは、で、ここからが本題だ」


「本題?」

「で、ございますか?」


「うむ、ロイク君は、文句なくドラゴンスレイヤー、それも超が付く竜殺し。このままでは、ジョルジエット、アメリーお前達が手の届かない存在となってしまう」


「え? 私達が手の届かない存在?」

「ロイク様が?」


「うむ、何もせず放置していたら、王国により勇者法が制定され、ロイク君の人生、衣食住、結婚相手等々、全てが決められてしまうだろう」


「ロイク様の人生」

「全てをですか?」


「ああ、そうだ。しかし……もしもそんな事になったら、ふふふ……」


真面目な表情で話していたグレゴワール様は、苦笑。


「ロイク君は、このファルコ王国を捨て、出奔してしまうに違いない。どこかへ、幽閉しても、楽に破壊して、……なあ、ロイク君」


俺を見るグレゴワール様の言葉は当たり。的を射ている。


勇者法で縛られたら、

100%俺はこの国を見限り、脱出する。

稼いだ金を持って。


たとえ牢獄へ収監されても、ぶち破って、脱走する。


なので、ノーコメント。

無言を貫くしかない。


「…………………」


「そうならないよう、私は各所へ手を打ち、陛下にもご了解を頂いたのだよ」


無言の俺を見て、グレゴワール様は大きく頷いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


し~んと静まり返るグレゴワール様の書斎。


沈黙を破ったのは、やはりグレゴワール様だ。


「ジョルジエット、アメリー。ロイク君はな、私グレゴワール預かりで、アレクサンドル陛下直属の王国執行官となった。先ほど陛下より、正式に任命書にサインを頂いた」


俺、ジョルジエット様、アメリー様は黙って聞いている。


「…………………」

「…………………」

「…………………」


「王国執行官として、ロイク君の報酬など、待遇も決まった。また冒険者ギルド、ルナール商会の顧問にもなり、3つの肩書を持つ事となった」


「…………………」

「…………………」

「…………………」


「それゆえ、勇者法は制定されず、いくつかの縛りはあるが、基本自由に行動出来る。お前達の護衛をする事も可能。お前達がロイク君との結婚を望み、結ばれる事も可能だ」


「…………………」

「お、お父様!? ほ、本当ですか!?」

「グレゴワール様!!」


俺は相変わらず無言だったが……

グレゴワール様の言葉に、ジョルジエット様、アメリー様は大きく反応した。


更にグレゴワール様は、にっこりと笑う。


「そしていろいろな横やりが入らぬよう、ロイク君は、便宜上、このリヴァロル公爵家邸内の別棟に居住する事となった。お前達にとっては朗報だろう」


「わあお! やったあ!」

「最高ですわ! ロイク様と一緒に暮らせますわ!」


あの~……

アメリー様、一緒に暮らすわけじゃないっすよ。


でも、改めてあいさつはしておこう。


「はい、ジョルジエット様、アメリー様、何卒宜しくお願い致します」


ここまでは良い。

予想通り。


さっきグレゴワール様が本題と言ったが、

俺にとって本題はここからだ。


大喜びするジョルジエット様へ、グレゴワール様は言う。


「で、ジョルジエット」


「は、はい」


「本日謁見した際、陛下から、私達へお願いがあった」


「え? お父様。私達へ陛下からお願い……ですか?」


「ああ、次回のロイク君が務める護衛に関して、妹君ルクレツィア様も入れて欲しいとおっしゃられたのだ」


グレゴワール様が告げると、ジョルジエット様の顔色は血の気がす~っと引き、

みるみるうちに青ざめたのである。

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