第125話「ふうむ、しかし困った事になった」

俺は、冒険者ギルドの業務担当トリッシュさんから託された書類を、

グレゴワール様へ提示した。


「これが、冒険者ギルドから出されたオファーの内容を記載したものです。ご覧になって頂けますか」


「うむ、拝見しよう」


グレゴワール様は、俺から書類を受け取ると、じっくり丹念に読んで行く。


そして……遂に例の件が記載してある部分に目が行った。


その瞬間、グレゴワール様は驚愕し、目を「かっ!」と大きく大きく見開き言う。


「な、な、何!!?? こ、こ、これはっ!!?? ほ、ほ、本当か!!??」


さすがの鬼宰相も俺が成し遂げた事の重大さに、戸惑い、噛みまくっていた。


「はい、本当です。俺、使い魔と協力して、ドラゴンを10体討伐しました」


「う~むううう……ド、ドラゴンを10体……か」


「はい! 10体のうち、1体は冒険者ギルドへ納品しましたが、残りの9体は空間魔法でしまってあります」


「お、おお!!」


「もし宜しければ、グレゴワール様へ、討伐したドラゴンをご覧に入れます。この屋敷内にある大闘技場が宜しいと思いますので、『貸し切りという形で人払い』をして頂けますか」


「わ、分かった! ぜひドラゴンを見てみたい! 『ロイク君の根性をふたりきりで再び試したい!』という名目で、大闘技場の人払いをしよう!」


と、いう事で……

俺と革鎧に着替えたグレゴワール様は本館を出て、闘技場へ。


ふたりとも革鎧姿という、俺とグレゴワール様へ注目が集まる。


普通ならいつも護衛がつく超VIPのグレゴワール様だが、


今回の打合せも含め、俺とふたりきり状態は、もう何度も発生している。

なので、騎士達も全然心配していない。


念の為、闘技場内に第三者が居ない事を確かめる。


大丈夫!

俺とグレゴワール様以外は居ない。


ちなみに、ジョルジエット様、アメリー様は学校で勉強中。

現在この屋敷には不在。

乱入される心配はナッシングだ。


さあ!

準備完了!


「では、グレゴワール様、ドラゴンをお見せします」


「お、おう! わくわくするな! 本当に楽しみだ!」


トリッシュさんと同じ。

グレゴワール様は、子供のように目を輝かせた。


搬出!


俺がイメージし、収納の腕輪を作動させると、

でででで~ん!!

と、ドラゴンの死骸が現れた。


体長20mもある巨体はさすがの迫力だ。


「お、おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


すると!

グレゴワール様は大喜び!


激しく雄たけびをあげ、ドラゴンの近くへ猛ダッシュ。


先ほど提示したギルドの書類とは比較にならないくらい、

じっくりと丹念に見て回ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


1時間を超えても、グレゴワール様は、ドラゴンを見続けていた。


そろそろ……頃合いだろう。

これ以上、ふたりで闘技場へこもっていたら、騎士達、使用人達から変に思われる。


俺は、グレゴワール様へ声をかける。


「ええっと、グレゴワール様。そろそろ……」


見物終了を促され、グレゴワール様は、大闘技場の時計を見た。


時間の経過を認識したらしい。


「う、うむ! 分かった!」


「じゃあ、空間魔法で仕舞いますね」


「よし、後、ドラゴンの周りを1周する。それで終わりだ!」


「また、お見せしますよ」


「うむ! 頼むぞ! また見たい!」


にっこり笑ったグレゴワール様は、ドラゴンの死骸をじっくり見ながら1周。


満足したように、大きく頷いた。


搬入!


俺が言霊を心の中で唱えれば、


瞬間!


搬出した時と同様、ドラゴンの死骸は煙のように消え失せた。


「おお、見事なものだ。ロイク君の力は計り知れんな」


「はあ……まあ……」


いえ、これ……実は違います。


ステディ・リインカネーションのゲーム知識をフル活用してゲットした、

超レアアイテム『収納の腕輪』のお陰なんですけど。


ま、いいか、この際。


そんな俺に向けるグレゴワール様の顔が曇っていく。


「ふうむ、しかし困った事になった」


あの、もしかして、昨夜の俺の懸念と同じ事を考えてます?


「困った事って、グレゴワール様……」


「うむ! そうだ! 今はまだ冒険者ギルドがかん口令を敷いていても、知れ渡るのは時間の問題だな」


「知れ渡るって、俺がドラゴンを倒した事が……ですかね」


「当然! そしてだ! ギルドが名付けなくとも、ロイク君はドラゴンスレイヤー、竜殺しの名を冠する事となる! 加えて勇者! 否! 単なる勇者ではなく! 10体も倒したなら! 伝説たる! 救世の勇者の名を賜る事となるだろう!」


「うっへえ! 伝説たる! 救世の勇者ああ!!??」


拳を突き上げ、どや顔で叫ぶグレゴワール様の声は、

人払いした大闘技場に、大きく轟いていたのである。

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