第105話「この依頼は、俺にはぴったりだ!」

翌朝、俺は午前6時に起床。


本日、王都を出発し、請け負った新たな依頼の完遂を目指す。


赴く先は王都ネシュラから北へ200kmにある、

ファルコ王国所有の、トレゾール公地。

俺は公地の資源の採集、採掘と魔物の討伐を行う。


前世ケン・アキヤマである俺が、ステディ・リインカネーションをプレイしていた際、アラン・モーリアとして何度も赴いたので勝手知ったる場所だ。


さてさて!

起床した俺は朝風呂へ入り、念入りに身体を洗い、

最後にシャワーを浴び、しゃきっとする。


これから赴くトレゾール公地には、素泊まり用のロッジはあって寝泊まりは可能だ。


だが、風呂はない。


付属の井戸で汲むか、俺自身が水属性魔法で出す『水』で身体をごしごし拭く事となる。


部屋着に着替え、7時になってから階下へ降り、レストランで朝食。

テイクアウトの弁当も大量に買う。


部屋へ戻り、いつもの装備に。


革鎧、兜だけはルナール商会が用意してくれたものを着用するが、

それ以外は、俺が購入したものである。


腰の右から提げる剣は、やや長めのスクラマサクス。

左肩には着脱可能なバックラーっぽい小型盾。


左の腰から提げるのは、こん棒を兼ねた強化ミスリル製の魔法杖。

任意の魔法を打ち出せる。


指輪は、大盗賊の指輪を右手の人差し指へ。

覇者の指輪を同じく右手の中指へ。

ウンディーネの指輪を左手人差し指へ、それぞれ装着した。


ベルトのポーチには、所属登録証や魔導時計など最低限必要なものだけ入れた。

それ以外の、弁当を含めた食料、水、宿泊セット、

ポーション等道具、資材は、左腕に装着した魔法の収納腕輪へ放り込む。


さあ!

準備完了!

いよいよ出撃だ!


支度を整えた俺は部屋を施錠し、フロントへ。


フロントへカギを預ける際、1週間から10日出張だと伝えておく。

俺への連絡は、『全てホテルあて』となっている。

以前と同じく、手紙、伝言をしっかりと預かってくれるはずだ。


「ロイク様、お気を付けていってらっしゃいませ!」


というスタッフさんの声を背に受け、俺はホテルを出た。


時刻は午前8時。

王都ネシュラは、既に活気づいていた。

俺は街中を軽快に歩く。

さすがに王都の街中を高速で走ったりはしない。


冒険者も多い。

ギルドへ向かう者、俺のように依頼を受諾済みで勤務地へ赴く者など様々だ。


今日はいつもと違い、北正門。

門番もいつもの人とは違う。


なので、


「おはよう! 俊足あんちゃん!」


とは言われない。

しかし今日、北方方面も高速で走る事となる。

こちらも何か別のあだ名がつくかもしれないな。


北正門を出た俺。

街道がまっすぐ延びている。


天気は今日も快晴。


空には千切れ雲がいくつか。


さわやかな風が頬を撫でるのが心地よい。


いつもの通り、最初はジョギングレベル。

途中から、速度を上げて行こう。


「さて! 行くか!」


自身に告げた俺は、軽やかに駆け出したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ジョギングレベルの時速7kmでしばらく走り……

俺は徐々に速度をあげてゆく。

人影が少なくなった頃に、俺は巡航速度時速70kmで走り出す。


馬並みの速度で走る俺に行きかう人は、驚愕の目で俺を見る。


ここで、俺が赴く、ファルコ王国所有の、トレゾール公地……

別名『魔の公地』について説明をしておこう。


トレゾール公地は、ファルコ王国でも有数の資源エリアである。


金、銀、銅、鉄の鉱石、各種宝石の原石がざっくざく!

数多採取、発掘が可能だ。


であれば、ジェム鉱山のように事務所と採掘場を造り、本格的に操業すれば良いのではと思うがそうはいかない。


討伐依頼が出たので分かる通り、このトレゾール公地には魔物がうじゃうじゃ居る。

それも不可思議な次元の裂け目から、際限なく出て来るというゲームらしいエリアなのだ。


魔物はゴブリン、オーク、オーガはもとより、コカトリス、リザードマン、ミノタウロスなども現れる。


じゃあ、護衛も含め、採集、採掘の人数を増やせばいいのに、という考えに至るだろうが、それもNG。


何かとんでもない呪いがかかっているらしく、

採集、採掘者が2人以上になるとワイバーンが、10人以上になるとドラゴンが際限なく10体ずつ現れるのだ。


次元の裂け目は、何度となくふさごうと試みられたが……

土木工事的な物理的試みも、魔法による試みも一切成功しなかった。


ならば大量動員でと、1回、王国軍兵士が1,000人超で赴いた事がある。


すると!

どうなったのかと言えば……ドラゴンの上位種が数百体もの大群で現れ、

赴いた兵士達は、あっという間に全滅させられてしまった。


この大失敗に懲りたファルコ王国は以降、所有権は手放さず、

冒険者ギルドに採集採掘を委託し、ひとりずつ派遣する事になったのである。


そしてこれまた不可思議な事に、大量発生した魔物どもは、

数日経過すると、消滅してしまう。


まるで、リスポーン……ゲーム画面中にプレーヤーキャラクターや他のキャラクターが再登場するのとは、真逆である。


トリッシュさん曰はく……

俺の前にトレゾール公地へ赴いたシーフの冒険者は、金塊、宝石を数個見つけると、

襲って来たゴブリン、オークをあしらいながら、無理には戦わず、

撤退したという。


無論ロッジには宿泊せず、日帰りだったらしい。

ちなみに宿泊する猛者は、上位広範囲攻撃魔法を行使可能な魔法使いが多い。


囲まれても魔法で魔物を吹き飛ばし、その間に鉱石、宝石を採集、採掘するのだ。


アラン・モーリアも俺ロイク・アルシェも、韋駄天で上位広範囲攻撃魔法も行使可能。


それゆえ、この依頼は、俺にはぴったりだ!


採集、採掘は運の部分も大きいが、はまれば大儲け出来る。

そして魔物をガンガン倒せばレベル&パラメータアップもいける。


今回はどれだけ稼げるだろう……

まあ、用心はしないとな。


つらつら考えながら、俺は街道を走り続けたのである。

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