第103話「はい、心得ておきます」
ルナール商会の依頼3つを完遂。
報奨金を受け取り、俺は冒険者ギルドへ行き、受付へ。
受付の職員さんへ業務担当者のトリッシュさん宛で、
「依頼候補の選択を頼む」形で3日後のアポイントの申し入れをし、
王都の街中で買い物をしてから、ホテルへ戻った。
部屋着に着替え、ベッドに寝っ転がった俺。
つらつらと考える。
依頼は全部完遂したし、頼むからというオーバンさんの強い勧めもあったし、
しばらくホテルに居ようかな。
え?
クライアントのルナール商会に甘えすぎ?
堕落する?
超が付く怠惰な生活になるって?
うん!
それは自覚している。
だってさ、ホテルにこもりっきりで、一歩も外へ出ずとも、
衣食住が、そろっていて、超が付く快適さなんだもの。
まず全てが無料っていうのが大きい。
そして部屋が清潔なのは勿論、礼儀正しいスタッフが至れり尽くせり、
屈強な警備員も居て、防犯対策もばっちり、安全だしね。
さあて!
今後の事はおいおい考えよう。
とりあえず、ここ数日間、フルに仕事をしたリフレッシュをはかる、
そう! 自分へのご褒美だ!
決定!
どこにも出かけず、まる2日間、フルで部屋へ引きこもる。
前世でもやったけど……部屋で金使わないよう、ゲームばっかしていたから、
内容は大違い。
……と、いう事で!
俺はまる2日間、レストラン、ルームサービスで、
好きなものをおなかいっぱい3食を全てホテルで摂り、睡眠もたっぷり。
空き時間にはストレッチと読書。
たまにホテル内のショップを冷やかすなんて優雅に過ごした。
それで、あっという間に休みなんか、終わってしまう。
仕事中より休みの方が、時間が早く過ぎ去ってしまうのは、
リーマン、ケン・アキヤマとして生きていた前世と全く一緒だ。
でもその間、ホテルフロントから連絡があり、冒険者ギルドにおいて、
トリッシュさんと打合せする時間が確定。
2日間たっぷり休んだ俺は、3日目の朝、いつものように、レストランにおいて、
ビュッフェ形式の朝食を摂ると、冒険者ギルドへ出かけた。
依頼を求める冒険者達で混雑するラッシュ時間を過ぎた、午前9時45分、
本館受付に赴き、トリッシュさんを呼び出して貰う。
ちなみに今日の約束は午前10時である。
しばらくして、業務担当者のトリッシュさんがやって来た。
念の為、トリッシュさんは愛称。
本名はパトリシア・ラクルテルさん
彼女は金髪碧眼で短髪、やや長身でスタイルの良いスレンダー。
少しボーイッシュな感じの可愛い女子。
16歳の俺ロイク・アルシェより3つ年上の19歳。
「ロイク様! おっはよ~ございま~っす!」
「おはようございます、トリッシュさん!」
ああ、相変わらず可愛いし、元気だなあ。
でも若いって良いなあ……って!
俺だって、ガワは16歳の少年だった!
中身は25歳の良い大人だけどね。
「調子はいかがですか?」
「ははは、まあ、ぼちぼちですね」
などと、会話をしつつ、
トリッシュさんとともに、俺は2階の応接室へ移動したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
応接室で向かい合う、俺とトリッシュさん。
にっこり笑ったトリッシュさんが、いきなり開口一番。
「……そういえば、ロイク様の噂をお聞きしましたよ」
「え? 俺の噂……ですか?」
どんな噂だろう?
変な話とか、悪口じゃなきゃ良いけれど。
「それもいろいろです」
いろいろって……
何か、こちらの不安を
「先日、とある冒険者が目撃したのは、休みの日、早い時間に、職人通りを女子を4人も引き連れ、イチャイチャ『移動ハーレム』してたとか」
「イチャイチャ!? い、移動ハーレム!?」
それな!
いやいや、それな! じゃないって!
心当たりはある。
確かに先日、ジョルジエット様、アメリー様の貴族令嬢ふたりに、
護衛役の女子騎士のアンヌさん、ジュリーさん、俺ロイクの計5名が連れ立って歩いた。
でも、それがイチャイチャの『移動ハーレム』って、いかがなものかよ。
信じて貰えないかもしれないが、一応弁明はしておこう。
「いやいや、トリッシュさん。それ誤解です。仕事ですよ」
「誤解? お仕事ですか?」
「はい、いろいろ経緯や事情がありまして、ギルドからではなく、直依頼で、貴族令嬢おふたりの護衛を引き受けました」
「直依頼で、貴族令嬢おふたり?」
「はい、もうふたりは、俺と同じ立場で、護衛の女子騎士です」
「へえ、そうだったんですか」
「はい」
「成る程。模擬戦とはいえウチのサブマスター、バシュレに勝利された事。また、いきなりランクBに認定された事で、若干16歳のロイク様は各所からご注目されております」
成る程。
講習を受けている時も、聞いたなそれ。
俺が噂になってるって。
「口さがない者が、あることない事を、広める事もありえますので、充分お気を付けください」
成る程。
トリッシュさんの忠告って事だ。
俺はまじめに仕事をしているし、後ろめたい事はナッシング。
でもありがたいし、彼女が告げている事はもっともである。
「はい、心得ておきます」
素直に返事をした俺へ、トリッシュさんは再びにっこり。
「では、ロイク様へ、私がまとめた依頼候補の中で、特におすすめの案件をお伝え致しましょう」
好意の牽制球を投げられたような形となったが……
俺とトリッシュさんは、じっくりと依頼案件の打合せを行ったのである。
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