第96話「申し訳ない! 非常事態なんだ!」

放牧地に……家畜が全く居ない!


ルナール・ファームの時同様、俺は結構な違和感を覚える。


……とりあえず話を聞こう!


俺は本館へ、急ぎ足を運んだ。


しかし!

ルナール・ファームと違うのは、社員さん、スタッフさんの姿がない事。


もしかしてほぼ全員が、本館内へこもっているのだろうか?


とんとんとんとん!


俺は扉を軽くノックした。


………………………………


だが、無言。

返事、反応はない。


身元と訪問の趣旨をはっきりと伝える為、俺は肉声で呼びかける事に。

ルナール・ファームで連呼しているので、滑舌はスムーズだ。

当然、声もよく通る……と思う。


「失礼しま~す! 王都本社より警備と魔物討伐の仕事を請け負い、伺いましたあ! 冒険者のロイク・アルシェと申しま~す!」


張り上げた声が聞こえたらしく、扉越しに室内から反応があった。


「な、何!? ウ、ウチの王都本社より警備と魔物討伐の仕事を請け負っただと? ほ、本当か?」


「は~い! 本当で~す! オーバン様からご発注頂きましたあ! 冒険者のロイク・アルシェと申しま~す!」


「な、何! オーバン統括長から! でも、お前、大丈夫か!」


「え? 大丈夫って?」


大丈夫かと問われ、わけが分からず、俺が聞き返すと、

相手はれたように叫ぶ。


「周囲に魔物は居ないか! それで大丈夫かと聞いてるんだ!」


いや、主語がないから、そこまで分からないし、

思いながらも、問われて俺は、念の為周囲を見回し、視認した。


やばそうなモノは居ない。

のんびりした、牧場の光景が広がっている。


「ええっと……」


念の為、ずっと張り巡らした索敵も念入りにチェック。

……魔力感知にも魔物の反応はない。


異常は全くない。

問題ナッシングだ。


なので、


「大丈夫ですよ。周囲に魔物の姿、気配はありません」


俺が答えても、相手はすぐに納得しない。

念には念を入れよとばかりに尋ねて来る。


「本当に、本当か!」


「本当に、本当です」


用心深いというか、相当怖い目にあったのかもしれない。


カチャカチャ、かちゃり!


ようやくカギが開いた。

それも二重カギのようである。


扉がゆっくり細目に開くと、


「お、おい! すぐ中へ入れ!」


扉が開いた中へ居たのは、30代後半くらいの男。

表情に疲れと怯えが同居していた。


「了解っす!」


俺は短く応え、扉を開け、室内へ滑りこんだのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


本館の中には、20名ほどの社員さん、職員さんが居た。

これで、全員なんだろうか?


ここはルナール・ファーム同様、責任ある立場の場長さんに事情を聴くのが賢明だろう。


既に名乗ってはいるが、俺は冒険者ギルドの所属登録証、依頼書を提示した。


「改めまして! 冒険者のロイク・アルシェと申しま~す! 王都本社より警備と魔物討伐の仕事を請け負い、伺いましたあ!」


「確かめさせてくれ!」


短く叫んで、進み出たのが、先ほどやりとりした30代後半くらいの男。


俺から、所属登録証、依頼書をひったくり、食い入るように読み始めた。


何度も何度も見直し、「ふううう~」と大きく息を吐いて戻してくれた。


「申し訳ない! 非常事態なんだ!」


やはりか!

先ほどルナール・ファームでの経緯があったから、俺は比較的冷静に受け止められた。


「了解です。依頼書の内容は理解しておりますが、それ以外に補足説明がおありで必要ならば、お願いしても宜しいでしょうか?」


ここで念の為、依頼内容を記載しておこう。


王都郊外10kmの位置にあるルナール商会経営の牧場、

ルナール・ラァンチュの警備。

人気のブランド牛、豚を、広大な牧場で飼育しているが、

ゴブリン、オークなどが襲い、被害が出ている。


警備をするとともに、牧場周囲の魔物を一定数討伐する。

報酬は種類に限らず、魔物を100体討伐し、金貨100枚。

150体以上討伐すれば金貨50枚が、200体討伐すれば金貨100枚が、

追加で支払われる。


この状況に何か著しい変化があったのだろうか?


いろいろ可能性を考えてみる。

ゴブリン、オークという討伐対象の数が増えた? 

いや、そのふたつ以外に討伐対象の種類が増えた?


襲われた家畜の被害がもっと甚大?

まさか人間に犠牲者が出た?


等々……


あまりにも俺が動じないので、社員さん、スタッフさんは拍子抜けしたみたい。


「おい! 君! 俺達の様子を見て、びびらないのか? 恐ろしくないのか?」


俺から、所属登録証、依頼書をひったくった男が尋ねて来る。


対して俺は、


「いやあ、今、いろいろ可能性を考えましたけど、皆様から詳しく事情をお聞きしないと、何とも言えません。宜しければ、お打合せをさせて頂けないでしょうか?」


「は?」


極めて冷静な俺の言葉を聞き、呆気に取られる男。


そんな男を見て、俺は「にかっ」と微笑んだのである。

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