第95話「放牧地に……家畜が全く居ない!」

メロン畑における現行犯確保、本拠地の洞窟を急襲しての確保。

都合、窃盗団人間族8名、オーガ8体を捕縛。

奴らを衛兵隊に引き渡し、ルナール・ファーム……農場の依頼を完遂した。


俺は、衛兵隊の指揮官へ、今回の事件解決の一報を、

ルナール商会本社宛へ入れるよう依頼する。


場長のマルタン・ボンフィスさん、副場長のエンゾ・オフレさんからも、

本社のオーバンさんへ、報告が行くだろうから、行き違いなしのダブルチェックだ。


後は、マルタンさん、エンゾさんと事後の打合せと書類の手続きだけ。


という事で本館応接室において3人で話し合う。


衛兵隊の取り調べと本拠地の洞窟に残されていた記録から、

ルナール・ファームにおける一連の犯行は奴らの仕業だと判明した。


周辺約5kmを丹念に探索した結果、奴ら以外、人間の痕跡はなかったから、

やはりそうだったのかと、納得である。


奴らは盗んだ農作物を王都に居る仲間に引き渡し、市価より安い価格で売りさばき、

ぼろ儲けしていたようだ。


王都に残っている仲間とやらも、衛兵隊が居所を突き止め、捕縛し、

裁判にかけられるという。


被害金額が莫大なのと、使役していたオーガが、別の場所で人間を何人も喰い殺していた事もあり、重罪は絶対に免れられないと衛兵は言っていた。


一時は、楽して濡れ手で粟のぼろい商売だったかもしれないが、

結局は割に合わなくなるという典型的な結末とあいなった。


これにて一件落着。


しかし、油断大敵。


このたび捕縛した窃盗団以外にも、また盗難の被害が出る可能性はある。

今後は警備体制に関しては、本社と相談するという事に……


厚く礼を言われた俺は、依頼完遂書へサインをして貰い、ルナール・ファームを後にする。


来た時は、俺に全くの無関心だった社員さん達、スタッフさん達も、

マルタンさん、エンゾさん以下、全員で見送りしてくれた。


全員、手を大きく打ち振ってくれ、笑顔であった。


俺は冒険者として、請け負った仕事は責任を持って完遂する。

労働に見合う報奨金も、ちゃんと貰う。


だけど事務的、ドライに仕事を遂行するよりは、相手を思いやりたい。

そして、金を払うから仕事をして貰うのが当たり前と対応されるより、

こうやって感謝される方が、全然嬉しい。


俺は一旦立ち止まり、振り向いた。


見送るマルタンさん、エンゾさんに深く一礼すると、踵を返し、

次の目的地へ向かったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


さてさて!

今回ルナール商会から請け負った3件目、最後の依頼に取り掛かる。


王都郊外10kmの位置にあるルナール商会経営の牧場――ルナール・ラァンチュの警備だ。


ルナール・ラァンチュでは、王都で人気のブランド牛、豚を、広大な牧場で飼育しているが、ゴブリン、オークなどが襲い、被害が出ている。


警備をするとともに、牧場周囲の魔物を一定数討伐する。

報酬は種類に限らず、魔物を100体討伐し、金貨100枚。

150体以上討伐すれば金貨50枚が、200体討伐すれば金貨100枚が、

追加で支払われる。


ルナール・ファームとルナール・ラァンチュはそんなに離れてはいない。

街道をはさみ、反対側という位置にある。


ルナール・ファームを出てから5km歩き、王都から10km地点の街道へ出た俺。


天気は今日も快晴。

空には千切れ雲がいくつか。

さわやかな風が頬を撫でるのが心地よい。


心が弾み、足取り軽く、更に5km王都側に向かって歩き、反対側の脇道へイン。


ここから再び5km歩けば、王都から10kmの距離にある、

ルナール・ラァンチュへ到着するのだ。


脇道へ入ると、ルナール・ファームへ行った時とほぼ同じような風景が見えて来る。


聞いた話によると、ルナール・ファーム、ルナール・ラァンチュの所在地の土地を購入し、開拓したのは若き日のセドリック会頭だという。


会頭には、王都に近いこれらの土地で、付加価値の高い食品を生産し、

販売する事が、ビッグビジネスにつながると判断した先見の明があったのだ。


たったったっと、歩いて行けば、やがてこれまた広大なルナール・ラァンチュが見えて来た。


まず視界へ入ったのが、柵に囲まれたでっかく緑鮮やかな放牧地。

これがいくつもある。


放牧地の一番奥には、ルナール・ファームと同タイプで、

屋根がスカイブルーの本館がでん!と建っている。


更に宿舎らしき建物と家畜小屋らしき建物がいくつも点在。


そして牧草をしまうらしい巨大な倉庫もある。


思わず声が漏れる。


「おお! 凄いな!」


しかし!

俺はすぐ異様な雰囲気に気が付いた。

とんでもない違和感を覚える。


放牧地に……家畜が全く居ない!


もしかして魔物の襲撃から守る為、敢えて退避させているのだろうか?


でもそれって、日光浴が出来ないし、運動不足にもなるし、

家畜の生育に支障があるのでは?


……とりあえず話を聞こう!


俺は本館へ、急ぎ足を運んだのである。

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