第97話「活動開始と行こう」

極めて冷静な俺の言葉を聞き、呆気に取られる男。


そんな男を見て、俺は「にかっ」と微笑んだ。


そろそろ話を進めよう。


「宜しければ、まずはご挨拶をして頂き、詳しいご説明をして頂けないでしょうか?」


俺がお願いすると、


「う、う~む。分かった!」


了解した男は、軽く息を吐き、


「私は、ルナール・ラァンチュ場長のブリス・ベネトーだ」


と、名乗った。


ここまで来て、ようやく男の名前が分かった。

やっぱり、責任ある立場の『場長』さんだったか。


「はい、ベネトー場長、改めまして、ロイク・アルシェです。宜しくお願い致します」


「いや、ファーストネームのブリスで呼んでくれて構わないぞ」


俺との会話で、毒気を抜かれたというか、

場長のブリス・ベネトーさんは、だいぶ肩の力が抜けて来たようだ。


「それで、ブリスさん。非常事態とは一体何でしょう? こちらへ伺った時、気になりましたが、放牧地に家畜の群れが居なかったようですけど」


俺が単刀直入に指摘するとブリスさんは、いきなりドヤ顔。


「それな!」


「いや、それなって……」


俺が反応に困ると、ブリスさんは我に返り、


「い、いや、コホン。実はな! 想定数以上のゴブリンとオークの大群が時間差で現れたんだ」


「想定数以上のゴブリンとオークっすか? ちなみにそれ、数はいかほどですかね?」


「聞いて驚くなよ! ゴ、ゴブリンが2,000体にぃぃ!! オークが1,000体だぞぉぉ!! それでヤバイと思い、慌てて全てを家畜舎内へ避難させたんだ!」


「ゴブリンが2,000体、オークが1,000体っすか」


「ああ、私達社員スタッフも、本館内へ退避した。だが! このままでは、ろくに仕事が出来ない! 家畜に日光浴も運動もさせられないし、いつ襲われるか、びくびくして過ごす羽目になってる!」


「成る程」


うん!

思ったより魔物の数は多いけど、想定内その1……だな。


「おいおいっ! 成る程って、反応が薄いぞっ!」


「薄いっすか?」


「ああ、薄い! 元々ゴブリンもオークも200体近くも出没していたんだ!」


「はあ、依頼書を見たら、そうみたいっすね」


「そもそも! ゴブリン、オーク200体を! 君みたいな若い子ひとりで、倒せるわけがない! いくら冒険者ランクBだからって! 更にゴブリン2,000、オーク1,000なんて絶対に絶対に無理だ!! 本社も何考えているんだ!!」 


おお、「本社も何考えているんだ!!」って、

ここでも、

「本社がなんだ! 俺達支社の苦労なんか、何も分かっちゃいない!」

みたいなジェム鉱山同様に、本社批判がさく裂か!


でも俺は反論する。


「いや、それくらいの数なら、多分大丈夫っす。使い魔と一緒に倒しますよ。だからお引き受けしたっす」


「いやいや! 絶対無理だろ! そんなの!」


「いや、全然無理じゃないっす」


「どうして、そう言えるんだ!」


「はあ、俺、ジェム鉱山でゴブリン500体を瞬殺で倒しましたし、すぐそこのルナール・ファームでは、窃盗犯5名、オーガ5体を同じく10分以内で、生け捕りにしましたが」


俺の言葉を聞き、ブリスさんは唖然。


「へ?」


「なので、ゴブリンが2,000体、オークが1,000体でも問題ないっす。使い魔と一緒に協力しながら倒しまっす」


「え、え、えええっ!? ば、馬鹿なあっ! そんな事ぉ!? し、し、信じられんっ!」


「論より証拠っす。まあ、見ていて貰えますか」


と、いう事で、俺は所属登録証、依頼書を返却して貰った上で……

ブリスさん始め、社員さん達、スタッフさん達に対し、更に詳しい事情を聴いた。


そして、早速依頼に取り掛かったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


まずはお約束。

いつものお披露目。


召喚サモン!」


俺は冥界の魔獣ケルベロスを召喚。

ルナール・ラァンチュ場長のブリスさん始め、社員さん達、スタッフさん達へ存在を周知する。


いつもの通り、体長2m、体高1mの灰色狼バージョン。

本体を見せたら卒倒されてしまうが、現状でも相当な迫力だ。


案の定。

「えええ!? こ、これが使い魔あ!?」

「可愛くね~! いや、むしろ怖い~!」

「でっかい狼じゃないかあ!」


と、全員が恐れ入ってしまった。


まあ、ステディ・リインカネーションの世界でも、

一般的な『使い魔』といえば小動物。

可愛らしい犬、猫、鳥などが多い。


ほら、某作品なんか、ふくろうじゃない。

なのに、規格外たる巨大な灰色狼が使い魔なんて、違和感しかないだろう。


しかし『使い魔』という禁句が耳へ入る度に、ぴくっと反応するケルベロス。

次回以降、こういった紹介の際『召喚した魔獣』と言う事にしよう。

うん!

平和の為には、それが良い。


さてさて!

社員さん達、スタッフさん達へ周知も済んだし、活動開始と行こう。


但し、注意しなければならない事がある。


一番最初のジェム鉱山、先ほどのルナール・ファームもそうなのだが、

依頼を完遂した現場を担当者に確認して貰う必要がある。


つまり、ゴブリン2,000体、オーク1,000体のどちらも討伐したという証拠を見せる必要があるのだ。


無双し、そのままやっつけて、「はい、終わり、はい、さようなら」ではない。


ブリスさん達に、討伐現場を確認して貰う必要がある。


やり方はルナール・ファームの時と同じ、

ケルベロスに現場を守って貰い、俺が彼ら関係者を連れて行く。


そして「論より証拠」となる。


『くっそ! 腹いせに今までの分まで、思い切り暴れてやる!』


気合が入りまくりのケルベロスを引き連れ……

俺は周囲のパトロール&探索へ出かけたのである。

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