第91話「腹いせにオーガを全て皆殺しにしてやる!」

「オーガ5体をけしかけられた我々は、逃げ帰るしかありませんでした。そして翌朝、全員で武装し、桃の果樹園に行ったら、収穫前の桃が全て盗まれていたのです」


マルタンさんはそう言うと、悔しそうに歯ぎしりした。


「しかし、あのままその場に残って抵抗しても、同じ人数の荒くれ者どもに加え、オーガが5体も居たら、到底敵うわけがない。捕まって喰われるのがオチですから……」


うん!

マルタンさんの話には納得だ。

戦い慣れてるっぽい同数の相手に対し、こちらはいくら鍛えて武装しているとはいえ、一般の農民。


戦っても勝てる可能性は極めて低い。


「農作物は我々の血と汗の結晶……盗難にあうのは、身を切られるほど痛いですが、社員、スタッフに犠牲者が出るよりはましです」 


更にマルタンさんは、


「魔導警報装置も備えておりますが、あまり過敏なものは、虫が入ってしまうだけで反応してしまい、大変でした。結果、度重なる誤報の為、社員、スタッフが眠れませんでした。なので現在は柵を壊されたら鳴るようにしていますが、犯行時間が短く、警報が鳴って、駆け付けても逃げた後というパターンばかりです」


……場長マルタンさんの話が終わると、


「ロイク・アルシェ様! この状況を打開する為にはどうしたら、宜しいでしょうか!」


絞り出すように悲痛な声で、副場長のエンゾさんが叫んだ。


俺は、ぱぱぱぱぱぱ!と考えを巡らせる。


幸い、この状況は、想定内ではある。

打つ手はちゃんとある。


「まずは落ち着きましょう。奴らの人数、オーガの個体数も含め、調査をします。俺と使い魔で」


「え? ロイク様と?」

「使い魔?」


「はい、オーガとは戦った事がありませんが、まあ何とかなるでしょう」


そう、アラン・モーリアでプレイした時、オーガとは散々戦ったが、

リアルで相まみえるのは初めてなのだ。


「何とかなる!? ほ、本当ですか!?」

「ロイク様が山賊を数十人倒したとは、お聞きしましたが!」


「はい、山賊どもを倒した時は単独でしたが、その後、使い魔とともに、オーク100体、そして御社の依頼でジェム鉱山において、ゴブリン500体以上を倒しました」


俺が『実績』を告げればまさに論より証拠。

とりあえず、『弱い俺』が無謀な行為をするという懸念はなくなったようだ。


「おお!」

「行けますか!」


……行けますよ。

ケルベロスの咆哮、俺の威圧で相手全ての動きを封じ、無双する。

オーガに捕まりさえしなければ、全然大丈夫だろう。


またかよ!

ワンパターンな戦い方だと非難の声が上がりそうだが、まずは勝つ事が第一。

基本的にはケルベロスとのチームプレイで、余裕があれば、新たな戦い方も試す。


「では早速、周辺の調査に入ります。戸外で使い魔を呼び出しますね」


という事で、全員で本館を出て、使い魔こと魔獣ケルベロスをお披露目する事に。


「ビナー、ゲブラー、召喚サモン!」


俺が言霊を詠唱し、召喚魔法を発動すると、少し先の地面に輝く魔方陣が現れ……


一体の灰色狼風の巨大な犬が飛び出して来た。


体長2m体高1mを超える堂々とした体躯、

これでも擬態しているが、そんなケルベロスを見たマルタンさんとエンゾさん。


「おお! 凄い!」

「こ、これが使い魔ですか! とても強そうだ!」


と感嘆。


「では早速調査を開始し、そのままパトロールへ入ります。何かあれば、本館へ連絡を入れますので、どなたか詰めるようにしてください」


という事で、俺は早速仕事を開始したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


周辺の調査をする前に、俺とケルベロスは農場内を一周する事にした。


本館に居らず、作業中の社員さん、スタッフさんも多い。

改めて、俺とケルベロスの『お披露目』をしておくのだ。


どう見てもケルベロスは単なる使い魔の犬には見えない。

魔物と思われてもおかしくはない。

賊どもがオーガを使役しているから尚更だ。


あとひとつ、

「俺は、足が速いので、驚かないでくださいね」とも断っておく。


準備が出来たので早速出発。

農場の各所をジョギングレベルでで回る。

存在の周知とともに、農地各所の勝手もしっかりチェックし、把握しておく。


「失礼しま~す! 王都本社より警備の仕事を請け負い、伺いましたあ! 冒険者ロイク・アルシェと申しま~す! 使い魔の犬も一緒で~す!」


同じセリフをこれでもかというぐらいに連呼する。

あまりにも『使い魔』を連呼したから、プライドの高いケルベロスはへそを曲げたようだ。


『おい、あるじ


『何だ?』


『念の為言っておくが、我は使い魔などという低俗な存在ではない。誇り高き冥界の魔獣だ』


『分かってるって! 使い魔と言っているのは、対外的な便宜上だから。いずれは、カミングアウトして、正式公開するって』


『ならば、すぐカミングアウトし、公開せよ』


『いやいや、今回はナシだって!』


という押し問答があった後……


『賊どもが使役しているのは、オーガ5体と言ったな』


『ああ、言った。でも見つけても、いきなり犯人をぶっ殺しちゃダメだぞ』


『何故だ? 容赦なく悪即斬あくそくざんであろう』


『いや、容赦なく悪即斬はダメだって。今回は窃盗の現場を押さえ、現行犯として、捕縛する予定だからな。そして裁判にかけるんだ』


『ふん! まどろっこしいな! くそ! いらつく! 人間を殺すのがダメならば、腹いせにオーガを全て皆殺しにしてやる!』


『まあまあまあ……』


焦れてヒートアップ気味のケルベロスをなだめつつ、俺達は農場を走り回ったのである。

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