第90話「大人数と同じようなもの?」
王都ネシュラを出発し、農場……ルナール・ファームへ到着した俺だが、
怪しまれない為、敵意を持たれないよう、ひたすら低姿勢。
あいさつだけして、本館前に到着したら……
副場長のエンゾ・オフレさんが血相を変え、俺に向かい、すっ飛んで来た。
エンゾさん曰はく、本館で場長のマルタン・ボンフィスさんも俺、ロイクを心待ちにしているという。
もしかして、ジェム鉱山の時みたいに突発的な事件でも発生したのか?
よし!
気合を入れ直した俺は、エンゾさんに先導され、赤い屋根の本館へ。
この本館が中枢の建物、事務所機能を持つ、ルナール・ファームの本部である。
本館の外、周囲もそうだったが、
内部もものものしい雰囲気に満ちていた。
扉を開け、室内へ入り、エンゾさんが、声を張り上げる。
「場長! ロイク・アルシェ様がいらっしゃいましたあ!」
「おお、ロイク様がか! 助かったあ!」
エンゾさんの声に応え、立ち上がったのは一番奥の立派な机の席に座っていた、
50代前半とおぼしき男性。
この人もエンゾさん同様、日焼けして精悍。
衣服に隠されているが、シャツから出た腕はむっきむき。
たくましい身体をしていると分かる。
でも何か、凄く期待されているみたいだけれど、何故に?
込み入った話かもしれない。
俺はふたりに誘われ、別室である応接室へイン!
俺が入ると、エンゾさんが応接室の扉を閉め切った。
まずは室内に居た50代男性がお辞儀をする。
「ようこそ! ルナール・ファームへ! 初めまして! 私は場長のマルタン・ボンフィスと申します!」
やっぱり、この人が場長か。
マルタンさんか。
続いて、エンゾさんがあいさつ。
「改めまして! 副場長のエンゾ・オフレでございます!」
最後に俺が、
「初めまして! 冒険者のロイク・アルシェと申します。今回、王都の本社より、警備の仕事を請け負いました。何卒宜しくお願い致します」
という感じで、それぞれあいさつが終わり……
とりあえず、俺は現状の確認、及び情報収集を行う事にした。
「場長、副場長、今回、ご依頼の件は、本社から依頼書を頂き、認識しておりますが、現状の説明をして頂けますか?」
「はい」
「分かりました」
後、俺は先ほどから醸し出す尋常ではない雰囲気の理由も問う。
「それと、皆様、とてもピリピリされておりますが、何かとんでもない事件が起きましたか?」
俺が問いかけると、
「は、はい!」
「場長!」
マルタンさんとエンゾさんは、顔を見合わせ、とても悔しそうな表情となってしまったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この悔しそうな表情……やはり、『何か』があったのだ。
「宜しければ、お聞かせください」
俺が促すと、場長のマルタンさんが口を開く。
「はい、昨夜ショッキングな事件が起こったのです」
「ショッキングな事件……ですか?」
「はい、最近、更に農作物の盗難が多発していたので、我々社員、スタッフは武装し、交代で、毎夜パトロールを行っておりました」
「成る程」
「これまでは、夜半こっそりと盗難にあうという事が多かったので、5人くらいで隊を組み、とっ捕まえてやろうと巡回していたのです」
「そして、衛兵を呼んで突き出すと」
「はい、おっしゃる通りです。しかし……」
「しかし?」
「はい、ご覧の通り、我がファームは広大です。5人程度でパトロールをしても盗難の現場に遭遇する事がなく、中々犯人を捕まえられませんでした」
「成る程」
「しかし、昨夜、遂に現場を押さえたのです。犯行現場は桃の果樹園でした。よし! と思いました」
「捕まえたのですか?」
もし捕まえたのなら、このようにピリピリしてはいない、と思いながら、俺は尋ねた。
答えは……やはりノーである。
「ざ、残念ながら!」
「そうですか。でもどうして? 相手が大人数で武装していたのですか?」
「お、同じようなものです、大人数と!」
「大人数と同じようなもの?」
「はい。賊の人数は、我々と同じ武装した5人でした。しかし奴らは全員が巨大なオーガを連れていたのです」
「オーガを!?」
補足しよう。
オーガとは、神話や伝承で語られる妖精、もしくは魔物である。
姿は人間に似ているが、はるかに大柄で、とんでもない怪力の持ち主。
身長5mに達する個体もある。
とがった耳、鋭い牙を持ち、性格は残忍、狂暴で人間を捕食する。
ステディ・リインカネーションの世界で言えば、ゴブリンの5倍の強さがオーク。
オークの5倍の強さがオーガと言われるくらい強力な魔物である。
「オーガ5体をけしかけられた我々は、逃げ帰るしかありませんでした。そして翌朝、全員で武装し、桃の果樹園に行ったら、収穫前の桃が全て盗まれていたのです」
マルタンさんはそう言うと、悔しそうに歯ぎしりしたのである。
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