第89話「まずは、詳しい話を聞こう。」

翌日は、完全休養日とした。

さすがに身体能力が人外レベルの俺も、

目に見えない感じない疲れが溜まっているやもしれない。


明日から農場、牧場と連ちゃんで仕事。

夜勤もあるし、無理は禁物。

ホテルに引きこもって過ごした。


こういう時、ホテルはとても便利。

3食を含め、外出せずとも全て用が足せる。

独身男子にとって面倒な洗濯だって普通の服は勿論、肌着なども洗ってくれる。

それらも全てルナール商会持ちだ。


まあ、完全休養日とはいえ、ストレッチは入念にやっておく。

昨日使った筋肉のリフレッシュもあるからね。


本を読んだりもして、うだうだしていたら、あっという間に1日が終わった。


フロントへ問い合わせたが、手紙、伝言もないのでひと安心。


夜は早めに、そしてぐっすり眠って、さあ仕事を再開。


一昨日ほど早起きはせず、起床は午前7時過ぎ。


シャワーを浴び、ブリオーに着替え、

階下のレストランでビュッフェ形式の食事を摂る。


また、いろいろな状況となって、先方で食べれない場合の事を考え、

昼飯用として、テイクアウトの弁当も購入する。


以降の食事が更に食べられない場合は、収納の腕輪にしまってある、

水、保存食の出番だ。


部屋へ戻り、革鎧に着替え、装備品、持参品を確認し、いざ出撃。

時間は午前8時過ぎ。


フロントには2日、ないし3日で戻ると伝えておく。


ホテルを出た俺は王都ネシュラの街中を歩き、昨日と同じ南正門へ。


南正門の門番は、俺の顔を憶えたらしい。


「おはよう! 俊足あんちゃん!」


と声をかけられた。

俊足あんちゃん……微妙な仇名だが、俺は笑顔で、


「おはようございます!」


と元気に返し、南の街道へ。


昨日は急ぎの行程だったが、今日は余裕。

まずは、ゆっくりと歩いて行く。

景色を楽しむ余裕もある。


天気は今日も快晴。

空には千切れ雲がいくつか。

さわやかな風が頬を撫でるのが心地よい。


しばし歩き、都合10km。


時間は午前10時前。


そろそろ農場へ通じる横道が見えて来る。

大きなたて看板もあり、ルナールファームと記されていた。


横道から5km歩けば、農場……ルナール・ファームだ。

ちなみに次の仕事場、牧場はルナール・ラァンチュという名称なので、念の為。


よし!

ここから、5km。

少しギアを上げて行くか。


街道から横道へ入った俺は、ジョギングレベルから少し速いくらいの時速10kmで、たったっつたっ! と走り……


午前10時30分過ぎ、無事、農場ルナール・ファームへ到着したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


農場……ルナール・ファームは初見の場所である。

アラン・モーリアだった俺は、世界の隅々まで、丹念にフィールドを歩いた事はあるが、今生きているこの世界は、若干の違いもある。

このような広大な農場はなかったはずだ。


さてさて!

地図で分かっていたが、ルナール・ファームは、

イメージしていたよりも、広大である。


カラフルな屋根を持つ大きな建物がいくつか点在し、果樹園を始めとし、

様々な作物が栽培される農地が広がっていた。


カラフルな建物の屋根と濃淡の緑色の対比が美しい光景である。


これは改めて場内と状況説明をして貰い、下見をしておくのが賢明だろう。


でも、いきなりよそ者の、しかも冒険者がでかい態度で訪問するのはいかがなものか。

警戒された上、嫌われたら、仕事がやりにくいことこの上ない。


そこで、俺は元気よく挨拶して名乗った上、低姿勢で行く事にした。


「失礼しま~す! 王都本社より警備の仕事を請け負い、伺いましたあ! 冒険者ロイク・アルシェと申しま~す!」


問題となっている泥棒、盗賊は夜中にこっそりと来るだろうから、

逆手で行く方が良いだろう。


当然、泥棒、盗賊はあいさつしたり、名乗ったりはしないもの。


作業中の社員、スタッフが俺を見るが、すぐに顔を背け、ほぼスルー。

自分のやるべき作業に集中しているようだ。


ただ、ピリピリしている気配が伝わって来る。

農作物の盗難が、影響しているのだろう。


まあ良い。

俺が怪しくないと認識してさえすれば。


念の為、俺は地図でもう一度確かめる。


正面にある赤い屋根の最も大きい建物が農場の本館。


俺がやりとりをする農場の場長さんが居るはずだ。

昨日のうちに、オーバンさんが連絡を入れてくれているから、話は通っていると思うけど。


……大丈夫かな?

ジェム鉱山みたいに、突発的なアクシデントがなければ良いんだけれど。


本館のそばにも、何人も社員さん、スタッフさんが居る。

やはりピリピリしている。


ここは、先ほどと同じ作戦だ。

怪しまれない為、敵意を持たれないよう、ひたすら低姿勢。

あいさつだけはしっかりと。


「失礼しま~す! 王都本社より警備の仕事を請け負い、伺いましたあ! 冒険者ロイク・アルシェと申しま~す!」


すると!

何人かいた社員さん、スタッフさんの中で、俺の声を聞き、反応を示した人が居た。


ハッとした感じで、俺の方へ向かい、駆けて来る。

年齢は30代半ば、日焼けしていて精悍な雰囲気の男性だ。


男性は叫ぶように声を張り上げる。

切羽詰まったという感じだ。


「冒険者のロイク・アルシェ様ですかっ!」


「はい、そうですが」


「お待ちしておりましたっ! 私、副場長のエンゾ・オフレと申します! 本館で場長のマルタン・ボンフィスもロイク様の到着を心待ちにしておりました! ささ! どうぞ中へ!」


良かった!

話は通っているみたいだ。


しかし、この雰囲気、何かあったのだろうか?

まずは、この副場長、そして場長から詳しい話を聞こう。


「エンゾ・オフレ様。了解致しました。ご案内をお願い致します」


俺は一礼し、そう言葉を戻したのである。

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