第87話「但し、くれぐれも無茶はなさらぬようお願い致しますね」
俺はしょっぱなの依頼、ジェム鉱山のルナール商会支社へ重要書類をお届けして、
宝石100個を受け取って、持ち帰るという依頼を完遂した。
で、現在王都ネシュラ商業街区、ルナール商会本社本館前に居る。
早速オーバンさんへ報告しよう。
受け付けで名乗ると、すぐにVIP室へ案内された。
待つ間に、収納の腕輪から、宝石を出しておく。
支店長さんが書いた、今回のゴブリン襲撃事件の簡易報告書も出しておく。
やがて、オーバンさんがやって来た。
「おお、ロイク様。もうお戻りになりましたか!」
対して俺は、
「ええ、本当はもっと早く戻るつもりだったのですが、いろいろありまして……」
俺の言葉を聞き、オーバンさんは戸惑っている。
「え? え? 本当はもっと早く戻る!? そ、そして、い、いろいろとは?」
「はい、ご報告致します。実はジェム鉱山が、ゴブリンの大群に襲われまして、でも社員さんも宝石も無事です。当然書類もお届けしました」
俺がいきなりしれっと報告すれば、オーバンさんは驚き、絶句する。
「えええええ!!!???」
「はい、まず宝石をお渡ししますのでご確認をお願い致します。それとこれは支店長さんからの簡易報告書です。詳細な報告書が、後日送られて来ると思います」
「し、失礼致しますう! ほ、報告書をくださいっ!」
俺は少し感動した。
オーバンさんは、俺が差し出したうち、宝石よりも、
報告書を先に受け取り、食い入るように読みだしたからだ。
事件の経緯、そしてゴブリンの被害がどれほどのものか気になったに違いない。
そして読み終わると、「ふ~っ」と安堵のため息を吐き、
「よ、よ、良かったあ! ミーヌの町の皆さん、ロイク様、ウチの社員に何事もなく、被害も皆無、安心致しました!」
やっぱり、オーバンさんは良い人だ。
宝石よりも、人命第一。
俺の境遇に同情し、故郷の村から拾い上げ、王都へ連れて来てくれた恩人だものな。
「はい、俺の知る限り、死者は勿論、けが人は居ません。事情聴取した衛兵も何も言っていませんでしたから」
「成る程、本当に良かったです! 支社長も報告書に書いておりますが、私からも、改めてロイク様に御礼を申し上げます。重ね重ねありがとうございました。私達、本社の者だけでなく、ミーヌ支社の者達も助けて頂きました」
オーバンさんは、俺が山賊と戦った事を思い出したように告げてくれた。
「いえいえ、お安い御用ですよ。宝石の方もご確認頂けますか?」
「はっ、はい! 確認致します!」
俺の目の前で、オーバンさんが宝石の種別、数を確認した。
数回繰り返し、大きく頷いた。
「全く問題ありません! 今回の依頼のひとつめは、こちらがお願いした通り、遂行して頂きました」
「そうですか。良かったです」
「……ロイク様」
「はい」
「今回は正規の報酬以外に、ゴブリン討伐の報酬もお支払いしたいので、後日改めてという事で宜しいでしょうか」
「はい、全然構いません。ご配慮頂きありがとうございます」
という事で、俺はオーバンさんと次の依頼の打合せをする事となったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
改めてオーバンさんと、スケジュールの確認を行う。
1件目が王都郊外15kmの位置にあるルナール商会経営の農園警備。
王都で人気のブランド果実を、広大な農園で栽培しているが、
高価な為に、盗難が頻発しているという。
仕事は、ひと晩警備して、報酬は金貨100枚。
賊を捕らえた場合、人数生死にかかわらず金貨50枚が追加で支払われる。
2件目は王都郊外10kmの位置にあるルナール商会経営の牧場警備。
この牧場では、王都で人気のブランド牛、豚を、広大な牧場で飼育しているが、
ゴブリン、オークなどが襲い、被害が出ている。
警備をするとともに、牧場周囲の魔物を一定数討伐する。
報酬は種類に限らず、魔物を100体討伐し、金貨100枚。
150体以上討伐すれば金貨50枚が、200体討伐すれば金貨100枚が、
追加で支払われる。
以上の2件、鉱山から王都へ帰還後の中1日おいての明後日、
農園へ赴き、1日かけて完遂する。
そして農場警備完遂後、そのまま牧場へ直行、1日かけて遂行する。
完遂後、王都へ帰還。
2件をまとめて完遂報告すると。
オーバンさんと少し質疑応答のやりとり。
不明な部分を確認し、提案もいくつかして、了解を取っておく。
今日は帰りに買い物をして、早めにホテルへ戻ろう。
ぐっすり眠ろう。
全てが順調であるとは言えないが、まずは結果良し。
オーバンさんは笑顔である。
「では、ロイク様。ジェム鉱山の件は会頭と相談し、報酬を上乗せし、お支払い致します」
「ありがとうございます」
「そして案件の遂行を引き続き宜しくお願い致します。但し、くれぐれも無茶はなさらぬようお願い致しますね」
「了解です」
最後には心配までして貰い、俺は大きく頷いたのである。
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