第85話「皆さん、論より証拠っす」

「お、おい!!! ま、待てぇ!!!」

「やめろぉぉ!!!」

「死ぬ気かああ!!」


ルナール商会支社の社員さん達が絶叫する中、俺は一礼し、支店の扉を開け、

外に出て、走り出していた。


ジェム鉱山へは約1km。

常人ならば徒歩10分。

俺の走力ならば、あっという間に到着するが、その間に作戦を考える。


まずケルベロスを召喚する。


「ビナー、ゲブラー、召喚サモン!」


俺が言霊を詠唱し、召喚魔法を発動すると、魔方陣が現れ……


一体の灰色狼風の巨大な犬が飛び出して来た。


ケルベロスは相変わらず不愛想である。


『うむ、あるじ、来たぞ』


『お疲れさん』


『ふむ……今日は、どうする?』


『ああ、早速だが、ゴブリンを倒すから協力してくれないか』


『ゴブリン? 以前相手したオークよりも弱いぞ。雑魚の極みだな』


『まあ、そう言わないでくれ。人命もかかってるし、獅子搏兎ししはくととも言うじゃないか』


補足しよう。

獅子搏兎ししはくととは、簡単なことでも全力で取り組む事を言う。


「獅子」はライオン、「搏兎」は兎を捕まえる事であり、

ライオンはウサギを捕えるにも、妥協しないという事から由来する4字熟語だ。


『ふむ、主の言う事も一理ある。但し、我は獅子ではなく冥界の魔獣だがな』


『あはは、まあ頼むよ』


『ふむ、命令なら従おう』


『助かる』


『だが主よ。常に上を目指す事を忘れてはならぬぞ』


相変わらずケルベロスは教師然として接して来るな。


ここは素直に返事をしておこう。


『了解』


そんな会話を続けているうちに、現場へ到着した。

時間は、午前9時を少し過ぎた。


おお!

ジェム鉱山の出入り口をゴブリンどもが取り囲んでいる。


ええっと。

数は500体以上居るだろう。

この数だと常人は突破出来ない。


こちらと奴らの距離は200mほどだが、俺は『隠形』と『忍び足』の効果、ケルベロスもず~っと気配を消している。

だから、奴らはこちらへ気付いていない。


ええっと……索敵で確認したら、鉱山内の社員さん達は、幸い無事らしい。

多分、ゴブリンどもを見て、慌てて扉を閉め、侵入を防いだのだろう。


しかし、洞窟外はゴブリンどもが満ちているから、絶望的だと思っているに違いない。

早く助けてやらなければ。


ケルベロスが、ゴブリンどもを一瞥し、言う。


『ふむ、あるじよ。まずは我の咆哮で奴らを麻痺させる。その上で、存分に無双するが良かろう』


『ああ、俺も威圧を習得したから、合わせ技で行く』


『うむ、主が威圧をか? さすがだ。では気合を入れておけ、我の咆哮に麻痺しないようにな』


『了解』


『そろそろ戦闘開始と行こう。他の人間が来る前にさっさと片付けるぞ』


ケルベロスはそう言い捨てると、ジェム鉱山の入口へダッシュ!!

ゴブリンどもの前にて、気合を入れて、咆哮した。


うおおおおおおおおおおんんんんんんんん!!!!!


すると!


ばた!ばた!ばた!ばた! ばた!ばた!ばた!ばた!

ばた!ばた!ばた!ばた! ばた!ばた!ばた!ばた!


ドミノ倒しのように、ゴブリンどもが倒れて行った。


スタンバイしていた俺も、愛用の剣を抜いてダ~ッシュ!!


あはは、無双なんてものではない。

単に一方的に倒すだけだ。


倒れているゴブリンどもの急所をめがけピンポイントに、さくさくさくっさくっと、

俺は丹念に1体ずつとどめを刺して行く。


500体少し居るから、若干時間はかかったが、討伐が完了した。


「ふ~」


と息を吐いた、その時。


「おお~い!」

「早まるなあ!」

「若い命をいたずらに散らすなあ!」


大きな声を上げ、ルナール商会支社の社員3人が、鉱山前に到着したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺とケルベロスが、ゴブリンどもを全て倒したのが午前10時少し前。

そのタイミングで後を追って来た社員さん達が、ジェム鉱山前に到着したのだ。


「はああっ!!?? 何じゃ!!?? こりゃ!!??」

「ば、ば、馬鹿なあっ!!??」

「し、信じられないっ!!??」


俺を心配し、駆け付けた社員さん達の前で見えている奇跡ともいえる光景。


16歳の少年がたったひとり……つまり俺が剣を持って立っている。

傍らには灰色狼風の巨大な犬が1体。


そして、そして、そして!!

何と何と何と!!


地に伏し、こと切れている500体以上のゴブリンども。


対して俺は、


「皆さん、論より証拠っす。この犬は、ちょっと大きいですが、召喚した俺の使い魔っす。協力して一緒に倒しましたっす」


しかし、俺が説明しても

社員さん3人はまだ信じられないらしい。


「「「え~~~!!??」」」


と絶句している。


ここで俺は索敵で改めて確認。

洞窟内の社員さん達は無事だ。

多分、俺が預かり王都へ持ち帰る宝石も所持してくれている。


念の為、確認すると、

鉱山の出入り口から入った通路にまだゴブリンが数体居た。

なので、ケルベロスに勢子をやらせ、追い出すと、社員さん達の目の前で瞬殺。


自身で倒した!というアピールをした後、

駆け付けた社員さん達と鉱山内へ一緒に入り、

閉じ込められていた社員さん達を、俺は無事に救出したのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る