第84話「じゃあ、行って来るっす」
「だ、誰でしょうか? こんな時に……」
げっそりとやつれた表情で扉を開けたのは、ルナール商会社員らしい、
中年の男性だった。
何か、立て込んでいるのだろうか?
しかし俺は粛々と与えられた仕事をこなすのみ。
「あの俺……王都の」
と俺が言いかけたら、
「馬鹿野郎! ダメだ! 今それどころじゃない!」
いきなり切れられ、言葉をさえぎられた。
ええっと……そう言われても。
さっさと持参した書類を渡して、引き換えに宝石を受け取って帰りたいんだけど。
そうしないと、仕事は終わらず、後の予定にも響いて来る。
「あの、俺王都の本社から……」
と言えば、
「本社がなんだ! 俺達支社の苦労なんか、何も分かっちゃいない!」
と、またも切れられた。
「あの、話を聞いてくださいよ」
と言っても、
「うるせ~! ガキ! お前と話してる暇なんぞない! こっちは大変なんだ!」
いやいや、こっちもこんな堂々巡りは困る!
仕方ない。
使いたくなかったが、威圧のスキルを使う。
力の加減が難しいが、軽くジト目くらいでちょうど良いだろう。
俺がジトっと見据えたら、
「ななな、何だ? ももも、文句があるのか、馬鹿野郎!」
社員さんはびびりなから、後退し、捨て台詞のように言い放った。
ここで事務所内に居た他の社員も集まって来た。
全部で3人居る。
まあ良い。
早く仕事を片付けよう。
「立て込んでいらっしゃるところ申し訳ありません! 冒険者のロイク・アルシェと申しま~す! 支社長様宛で、王都の本社から書類お届けの使いで~す! 引き換えに宝石をお預かりする事になってま~す!」
俺が冒険者ギルドの所属登録証を提示し、
要件を告げると、社員3人は顔を見合わせた。
「聞いてるか?」
「俺、支店長からさっき、聞いたぞ。昨日発の魔法鳩便で朝一で連絡が来たって」
「ああ、俺もさっき聞いた! でもさ、王都から来るのが早すぎないか?」
などと話してる。
とりあえず書類を渡してしまおう。
「じゃあ、書類はこちらで~す。お渡ししますので、ご確認の上、受取証にサインをお願い致しま~す!」
無理やりという感じで書類を渡し、確認して貰う。
オーバンさんの手紙も添付してあったので一緒に渡す。
3人全員で書類と手紙を見て、頷いている。
問題はなさそうだ。
まずは依頼の半分終了。
しかし!
「おい! ロイク・アルシェといったな。お前に渡す宝石は残念ながらない!」
と最初に俺に食ってかかったひとりが、吐き捨てるように言ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
お前に渡す宝石は残念ながらない?
いきなり、とんでもない事を言われ、訳が分からない。
はあ?
と俺は思い言う。
「あの、俺に渡す宝石がないって、どういう事ですか?」
「ゴブリンだよ!」
「ゴブリン?」
「ああ、俺は見た! 数百体にもなるゴブリンの大群がジェム鉱山の入り口に押し掛けたんだ」
「そうなんですか!」
よし、索敵っと。
おお、事務所の1km先に魔物の反応が数多ある……これか!
社員さんは更に言う。
「ああ、ゴブリンどもは奴らの巣穴にちょうど良いと、鉱山の入り口に押し掛けたんだろう。中に居る社員が採掘した宝石を持っているが、ゴブリンに阻まれて出て来れない」
「じゃあ、衛兵隊には?」
「ああ、奴らの大群に泡喰った俺はその足ですぐミーヌの衛兵隊本部に駆け込んだ」
「成る程」
「しかし、運悪く100人余り居る衛兵のうち80人が、近郊の山賊退治で出払ってしまっていた。残った衛兵は20人じゃ、数百体のゴブリンには到底敵わないと及び腰だ。支店長に知らせたら、衛兵隊が戻って来たら、談判して鉱山へ出撃して貰うって、衛兵隊に詰めているんだ」
うん!
事情は分かった。
なら、解決するのは簡単。
俺が数百体のゴブリンどもを倒してしまえば良い。
ケルベロスも居るから、連携プレーだ。
「で、宝石を持った中の社員さんは?」
「鉱山内で、上手く中の扉が閉められたら、無事だと思うが……分からない」
了解っす。
人命もかかっているし、あまりグズグズしない方が良いという事だ。
「じゃあ、俺、ジェム鉱山へ行って来ます。仕事を早く終わらせたいんで」
「な、何しに?」
「何しに?って、ゴブリンどもをさくっと倒して来ますよ。それで中の社員さんから宝石をお預かりします」
「さくっと倒すだとぉ!! ば、ば、馬鹿な事を言うなあ!!」
「いや、多分大丈夫っす」
俺はプレオープンでオーク100体を倒した。
その時、「スキル威圧」補正40プラスを習得していないにもかかわらずだ。
今の俺はプレオープン時から更にビルドアップしているし。
ゴブリンの動きを威圧で止め、無双すれば楽勝。
ケルベロスに攻撃させないで、牽制役に徹して貰っても、充分戦える。
万が一、やばかったら、攻撃させればOK!
念の為、さくさくさくっと計算して、出撃決定。
「じゃあ、行って来るっす。そうっすね、1時間後にどなたか、鉱山へ来て貰えます?」
「お、おい!!! ま、待てぇ!!!」
「やめろぉぉ!!!」
「死ぬ気かああ!!」
ルナール商会支社の社員さん達が絶叫する中、俺は一礼し、支店の扉を開け、
外に出て、走り出していたのである。
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