第82話「最高の身体能力を持つ俺は、走るだけでも楽しめる」
冒険者ギルド総本部、ルナール商会でじっくり打合せをし、
必要な買い物をし、依頼遂行のシミュレーションをした俺。
……翌日は、9割がたの完全休養日に充てた。
100%の完全休養日ではないのは、
前日同様、明日からとりかかる依頼の『下準備』を行ったからだ。
昨日とは違って、俺は外出せず、ホテルに引きこもる。
朝昼晩3回の食事の合間に、依頼書、資料、地図をじっくりと読み込む事に終始した。
明日の朝は、階下のレストランがオープンする時間前の早朝に出発する事にした。
なので、朝食、昼食分として、レストランで、
テイクアウトの弁当を2食購入しておく。
夕食後、明日の100km走破に向け、念入りにストレッチ。
早めに就寝し、ジェム鉱山への出発日を迎えた。
……午前4時に起床。
シャワーを浴び、さっぱりしたところで身支度を整えた。
ホテルのフロントには、仕事で、
本日もしくは明日以内へ戻ると告げて午前5時に出発。
早朝で人通りが極端に少ない王都ネシュラの街中を抜け、
『南』正門を出て、最初はジョギングレベルで慣らし運転。
周囲の景色を眺めながら走る。
ステディ・リインカネーションの世界では、
地形は、草原、森林、湿地帯、原野、砂漠、そしてら雪の降り積もる高山まで、
様々な自然環境が存在する。
また10の国、数多の都市、町村、宿場、遺跡、洞窟、廃坑、砦等、
数えきれないほど、特殊地点が存在する。
太陽光、風、木々や草花、水面の揺れは、天候によって左右され、物理エンジンの計算によって自然な動きを見せる。
その為、俺みたいなプレイヤーは、ワールドマップを隅から隅まで丹念に散策し、
景色を楽しむことも可能であった。
俺が今いるこの世界は、ステディ・リインカネーションの世界を、
忠実に再現しており、最高の身体能力を持つ俺は、走るだけでも楽しめる。
さてさて!
今日は快晴。
見上げる空は雲ひとつなく、真っ青だ。
南の地平線を見やれば、高い山脈が連なり、山頂には雪があるのが分かる。
この山脈の手前のふもとに、目指すジェム鉱山がある。
王都の南正門を出て、森や雑木林、草原などが点在する王都近郊だが、
街道には旅人の為の郊外店が結構ある。
森の更に奥や未開の原野には俺がトレーニングしたような廃棄された砦、古代遺跡、自然の洞窟も数多あり……
ゴブリン、オークなど人喰いの魔物、
頻繁に出没……襲撃される危険がある。
だから、住民は剣や斧などの物理系は勿論、
魔法系などの武装を欠かさない。
そして俺が今回頼まれた重要書類の配達だが、
ステディ・リインカネーションの中世西洋風異世界においては、
伝書鳩に形態が近い魔法鳩で手紙をやりとりするのが主である。
但し、魔法鳩便では運べるのは手紙レベル。
大きな荷物を運ぶ事が難しい。
それゆえ、大きな荷物や貨物は、
武装した人間の飛脚が走ったり、ロバや馬に乗り運ぶ。
もしくは荷車、馬車などの乗り物で運ぶ。
ちなみに、川、海では当然船便となる。
何を言いたいのかというと、街道では旅人、巡礼、商人、武者修行の騎士などに混じり、武装した飛脚もある程度走る。
だから、剣を提げた革鎧姿の冒険者が走っていても、あまり目立たないという事。
但し、それはジョギングレベルの時速7km前後で走っていての話。
もしも人外的な、時速100kmで走ったら、目立つなんてもんじゃない。
このステディ・リインカネーションの世界でも、魔物や動物はともかく、
そんな速度で走れる人間は、身体強化の魔法を行使したってほとんど居ない。
でも、単に早い速度で走るだけ。
害を及ぼすわけではないのだから、
走る事を目撃されても、畏怖されるぐらいだと思う。
よほど思い込みの激しい者以外は誤解する事はない。
とんでもない禁呪を使うとか、恐ろしい悪魔を召喚するとか、
異端なる者、邪悪な存在として、罰するべきだ! と通報されるほどではないのだ。
むしろ「素晴らしい脚力だ!」と称賛され、
冒険者として名前が凄く売れるから、俺みたいな自営業者は、
戦闘能力だけでなく、こういう走る仕事が、もっと舞い込んで来るだろうと。
そんな事を考えながら俺は軽やかに走って行く。
王都から30kmほど走ったが、周囲は人工物が極端に少なくなり、
街道を行き交う人も、徐々に少なくなって来る。
ちなみに疲れは全くない。
索敵を張り巡らせているが、こちらに悪意を向けて来る者も居ない。
但し、油断は禁物。
警戒しながら、慎重に行こう。
……頃合いだと思い、俺は少し速度を上げた。
ジョギングレベルの時速7kmから、20kmへ、
更に30km、40kmへと上げて行ったのである。
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