第81話「俊足を活かし、スルーを心がけよう」

冒険者ギルド総本部の後、ルナール商会を訪問した俺。

セドリック会頭、オーバンさんはともに在社しており、双方と一緒にお会いする事となった。


あいさつの後、応接室へ通され、長椅子に座るよう勧められる。

昨日のVIP室とは趣きが異なるが、こちらも結構豪華な部屋だ。


まずはセドリック会頭へお礼を伝える。


昨日、ジョルジエット様、アメリー様と一緒に、

こちらへ来た時にはいらっしゃらなかったし。


今回、ジョルジエット様の父、鬼宰相グレゴワール様が、俺の身辺調査をした際、

関わりのあったセドリック会頭は、『緊急招集』され、根掘り葉掘り、聞かれたからだ。


ご多忙なのに、余計な時間をとらせてしまった旨を、俺はお詫びするとともに、

弁護して頂いた事を、改めて礼を告げる。


この弁護のお陰で、俺はグレゴワール様に好印象を持って頂いたから。


「会頭、先日はありがとうございました。お忙しいのに、いろいろご迷惑をおかけ致しました」


「いえいえ、とんでもない! ウチはリヴァロル公爵家の御用達商会ですからね。こういう事は日常茶飯事です。しかし、オーバンから報告を受けましたが、昨日は上手く行って何よりです」


セドリック会頭、全てを知ってるみたい。

まあ、当然だろうな。


会頭へお辞儀をした俺は次にオーバンさんへ、


「昨日はオーバンさんにも急なお願いをお聞き届け頂き、ありがとうございました。グレゴワール様以下、皆様とてもお喜びになっておりました」


「いえいえ、何の! 騎士のバジル・オーリク様よりご連絡を頂き、ロイク様が、お嬢様方の警護に就かれるというので、すぐ対応させて頂きました。売り上げも立ちましたし、お礼を言うのはこちらですよ」


オーバンさんは笑顔で応え、更に言う。


「我々商人は、対応力と解決力、そして臨機応変さは必須ですから」


対応力と解決力、そして臨機応変さか!


良い事を言う。


でもそれって、商人に限らないな。

何にでも通じる言葉だ。


「成る程! オーバンさん、勉強になりますね」


「はい! いくつになっても日々修行、そして精進ですよ」


「ですね! おかげさまでジョルジエット様、アメリー様の警護は無事完遂しましたし、しばらくおふたりの警護はありませんから、早速こちらから頂いた依頼をお受けしたいと思います」


俺がそう言うと、セドリック会頭とオーバンさんは、


「おお、それはそれは」

「ありがたい事ですね!」


発注主なのに、腰を低くし、喜んでくれた。


会頭からは手紙を貰っていたし、先に依頼を受けたのに、

放置したり先送りは宜しくない。

私見だが、個人事業主は特に信用が命、第一と言って過言ではないと思う。


さてさて!


このルナール商会から依頼された3案件、


1件目は……王都郊外10kmの位置にあるルナール商会経営の牧場警備。

2件目は……王都郊外15kmの位置にあるルナール商会経営の農園警備。

3件目は……王都から南方100㎞の町ジェム鉱山へ重要書類の配達と折り返しの宝石運搬。


この3つを全て受けるスケジュール、段取りはもう考えてある。


3件目の……王都から南方100㎞の町ジェム鉱山へ重要書類の配達、折り返しの宝石の運搬をまず実行。

所要時間は『日帰り』もしくは『最大2日』で王都へ戻り、完遂報告。


次には、2件目を……王都郊外15kmの位置にあるルナール商会経営の農園警備を実行。


スケジュールは鉱山から王都へ帰還後、中1日おいて、農園へ赴き、1日かけて完遂する。


最後に、1件目……王都郊外10kmの位置にあるルナール商会経営の牧場警備を実行。

農場警備完遂後、そのまま牧場へ直行、1日かけて遂行する。

完遂後、王都へ帰還、2件をまとめて完遂報告。


「スケジュール、段取りをこのようにして、3件全てを請け負いたいのですが、いかがでしょう?」


と俺は段取りを説明した。


対して、


「普通なら絶対に無理なスケジュールですが、ロイク様なら大丈夫でしょう」

「期待しております。何卒宜しくお願い致します」


と、ふたりからOKが出た。


俺は依頼書にサイン。

双方が同じものを2枚持ち、今回の3案件の契約は成立。


最初の案件、鉱山行きを明後日出発にする事で合意した。


更にスケジュール調整等、細かい打合せとやりとりをし、

鉱山に届ける書類、手紙を預かり、ルナール商会を後にしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


という事で、3件の仕事をルナール商会から請け負った俺。


買い物をしてからホテルに帰る事に。


この買い物も、先ほど冒険者ギルド総本部で加入したシステムを試験的に使う。


冒険者ギルド総本部との提携店だと、所属登録証のみで買い物が可能。

プールしてある金額内ならば、ミスリル製の所属登録証を専用の端末にタッチするだけで、

精算が済んでしまう。


まるでこれは現代のカード決済。


中世西洋風異世界では違和感がありありだが、ここはゲーム異世界、

ステディ・リインカネーションが具現化した場所。


こういう事も『あり』なのだ。


買い物をして、ホテルに帰った俺は、ルームサービスで料理と飲み物等を取り、

ランチをしながら、依頼書の資料と地図に目を通す。


最初に遂行するのは、王都から南方100㎞の町ジェム鉱山へ重要書類の配達という仕事だが、移動は徒歩というか、高速走破する。


廃棄へされた砦へオークを倒しに行った時は、往復30km以上を走破した。

疲れは全くなかった。


だから多分大丈夫だとは思うが、

100kmの往復、計200kmの走破は未知の世界だ。


俺は日帰りするつもりだが、1日余裕を見て、最大2日のスケジュールでOKを貰っている。


まあ、何とかなるだろう。


それよりも問題は、賊や魔物の害をいかに避けるか。

特に帰路は高額の宝石を運搬するから要注意だ。


よほどの奴でなければヤバイ状況にはならないだろうが、索敵を最大に発揮し、

出来る限り戦わず、俊足を活かし、スルーを心がけよう。


そんなこんなで、俺は全ての依頼の資料と地図を丹念に読み込み、

依頼遂行までをじっくりとシミュレーション。


という事で、夕食もルームサービスで。


……最後に、必要な武器防具、道具、魔法薬、ポーションの在庫を確認した後、

ベッドに潜り込み、就寝したのである。

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