第80話「あいさつはしっかりとがモットーの俺」

ぐっすり眠った俺は、翌朝6時30分過ぎに目を覚ました。


今日は冒険者ギルド総本部、ルナール商会の訪問という予定は入っている。

だが、契約する際の確認事項が主なので、あまりプレッシャーはない。


シャワーを浴びて、さっぱりし、こざっぱりしたブリオーに着替えたら、午前7時。


階下のレストランで、いつものビュッフェ形式の朝食をゆったり摂り、午前8時に部屋へ戻った。


え?

またまたビュッフェ形式ばかりで飽きないかって?

うん、大丈夫。

ホテルのメニューは、ひんぱんに変わるしね。


そして前世の俺、ケン・アキヤマは、

元々同じメニュー10食連続でも全然平気だったから。


さてさて!

ブリオーを脱ぎ、たたんで新しい革鎧に着替え、俺は8時30分にホテルを出た。


まずは冒険者ギルド総本部へ。

ランクBの俺には、専任ではないが業務担当者がついている。


その担当者トリッシュさんこと、本名パトリシア・ラクルテルさんに会う。

昨日ホテルへ届いた連絡は全て、彼女を経由しているはずだ。


ちょうど今は、ラッシュ時間。

業務カウンターの喧騒を見ながら、申し訳ないと思いつつ、

本館1階の受付でトリッシュさんを呼び出す。


不在や別件で対応して貰えなさそうであれば、時間を潰すか、

ルナール商会訪問を先に回すつもりだ。


受付のスタッフさんが確認するのをしばし待つ。


……幸い、トリッシュさんは在席していた。


さらに待つと、1階フロアにトリッシュさんが現れた。


金髪碧眼で短髪、やや長身でスタイルの良いスレンダー。

少しボーイッシュな感じの可愛い女子の登場である。


「ロイク様! おっはよ~ございま~っす!」


「おはようございます、トリッシュさん!」


ああ、相変わらず可愛いし、元気だなあ……


でも、どぎまぎせず、普通にあいさつ出来た。


今までと違い、結局相手にされないからと諦めているのとは違う感覚。

少し余裕が出て来て、普通にやりとりが出来る感じ。


生来は、女子が苦手だった俺も、転生してからは接する機会が大幅に増えたし、


ジョルジエット様とアメリー様と3日間を過ごした事で、

だいぶ女子慣れしたみたいだ。


「休日は、ゆっくり出来ましたかあ?」


「ははは、まあ、ぼちぼちですね」


などと、会話をしつつ、

可愛く元気なトリッシュさんとともに、2階の応接室へ移動。

扉を閉め、向かい合って座る。


うん!

密室に女子とふたりきり……だが緊張しない。

やはりジョルジエット様、アメリー様と過ごした経験が役に立っている。


まずは、簡単に済む話から終わらせるか。


クラン『猛禽ラパス』のリーダー、ジョアキム・ベイロンさんからの手紙は直接なので、話す必要はないだろう。


「トリッシュさん」


「はい」


「まず大手クランからのメンバー勧誘ですが、多忙なのでしばらくはお断りしてください」


「ご多忙なので、しばらくは、お断りするのですか、成る程……」


「はい、実は既に1件、不定期ですが大口の仕事を受注しました。そしてルナール商会からも3件、仕事の依頼が来てまして、昨夜確認しましたが、基本的に全部請け負う予定です」


「わお! ロイク様、超・売れっ子ですねえ」


「いや、たまたまです。こういうのは波がありますからね」


「そうですよね~。さしつかえなければ、ロイク様が受注された大口の仕事ってお教え頂きますか?」


トリッシュさんが、尋ねて来た。

しかし、いくらギルドの担当とはいえ、契約内容を明かすわけにはいかない。

加えて契約相手は、鬼宰相グレゴワール様だし。


但し、言い方は気を遣う必要がある。


「いや、トリッシュさん。申し訳ないです。契約に関しては、守秘義務がありますので、次回クライアントにお会いした際、冒険者ギルド総本部へ伝えて構わないか確認しておきます」


「わっかりましたあ! 犯罪や問題行為等でなければ、冒険者ギルド総本部は関知致しませ~ん」


「はい、問題ない仕事です。ありがとうございます」


「はい! ご事情は理解しますよ。それとロイク様がメンバー加入を断ったクランから指名依頼が来るかもしれませんね~。まあ受注するかは、任意ですが」


「理解しました、了解です」


という事で、その後俺は、トリッシュさんから冒険者ギルド報奨金支払い新システム加入の説明を受けた。

所属登録証にキャッシュカード機能が付き、報奨金をチャージする事が可能となるらしい。


現金引き出しは、冒険者ギルド総本部の他、いくつかの提携店舗で。


俺の泊まっているルナール商会のホテルでも大丈夫なんだと。

もうこれは文句なしで、加入決定。


という事で、手続きをし、俺はトリッシュさんとの打ち合せを終えたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


トリッシュさんとの打ち合せが終わったのが、午前10時30分。


次に訪問するのはルナール商会。

すぐに訪問するか、少し待って早いランチを摂ってからか、迷ったが、

結局、すぐに訪問する事に決めた。


という事で、昨日に引き続き商業街区ルナール商会の本館へ。


受付で名乗る前に、


「ああ、ロイク・アルシェ様、おはようございます!」


とか言われちゃった。


まあ、昨日の今日だからな。


で、俺が尋ねる前に先手を打たれた。


「ロイク様。会頭、オーバン、両名とも在社していますが」


え?

ふたりとも在社?


こういう場合、まずは上席のセドリック会頭へお礼を告げ、依頼の件はオーバンさんと話します……というのが正解だろう。


逆は……ないだろうから。


と、俺が考えていたら、また先手を打たれた。


「では! 両名、一緒に呼びますね」


え?

両名一緒?


それは全く予想していなかった。


やがて……

セドリック会頭、オーバンさんが現れた!


とか言うとRPGの敵出現みたいだけど、このふたりは俺にとって、クライアント。


まあ、良い。

お礼と依頼の相談をしよう。


「おはようございます!」


あいさつはしっかりとがモットーの俺。


大きな声で、しっかりとあいさつをしたのである。

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