第61話「究極の選択に迷っていた俺は、グレゴワール様に、 助けられた形となった」
グレゴワール様はそう言い、俺を見据え、
「そして! もうひとつ問題がある!」
ときっぱりと言い切った。
問題?
一体、何だろう?
ええっと、何か根本的にシンプルな話だと思うんだけど……
貴族家養子入りの話を聞き、結構な衝撃を受けた俺は、上手く頭が働かない。
ふと、見やれば……
ジョルジエット様、アメリー様がひどく真剣で厳しい表情をしている。
ここで、あ!
と俺は気が付いた。
「ふむ……もうひとつの問題とは、ロイク君。ジョルジエット、アメリー、どちらと交際するのか? という問題だ。さて……君は、どちらを選ぶのかね?」
グレゴワール様から問われ、俺は考え込んでしまった。
そうだよな!
いくらステディ・リインカネーションの世界で、
一夫多妻制を認めているとはいえ、限度がある。
何せ、相手はふたりとも、上級貴族の令嬢だもの。
ほいほいと、二股かけるわけにはいかないぞ。
これは究極の選択だ!
俺は、即答出来ず思わず無言となる。
「…………………」
そんな俺に対し、ジョルジエット様、アメリー様は、「私を選んで!」と、
すがるような『うるうる眼』で見つめて来る!
これは困ったぞ!
ふたりは全然タイプが違う女子だもの。
出会いの時こそ、いろいろあったし、
ジョルジエット様もアメリー様も、まだまだ分からない部分が多いけど……
ふたりの『素』は、良い子だって、分かってる。
俺の為に、大きな声で応援し、早起きしてお昼ご飯も作ってくれた。
もしも俺が計算高く、出世欲のみに染まる男ならば、
すぐに公爵家令嬢のジョルジエット様を選ぶに違いない。
彼女と結婚すれば、
リヴァロル公爵家の後継者となり、権力と富を得て、
ファルコ王国の国政にも携わる可能性が大きいから。
目指す人生の大目標、……俺は絶対!前世より1億倍!幸せになる!
……へ、大きく大きく近づくだろう。
しかし……
先に俺へアプローチしたのは子爵家令嬢のアメリー様。
だから、誠意をもって、ちゃんと筋を通すならばアメリー様を選ぶべきだと思う。
そもそも、ジョルジエット様が、こうなったきっかけは、
女子として、アメリー様への対抗心と意地だったかもしれない。
だが……
現在は、俺を振り向かせる為に、一生懸命、努力している。
でも!
俺を振り向かせる為に、一生懸命、努力しているのは、アメリー様も同じ!
ふたりの気持ちは、俺の心にしっかりと響いた。
うう~ん!
「俺を好きだ」という女子ふたりのうち、
ひとりだけ選ばなくてはならないなんて……
爆発しろ!
と言われそうだが……
こんな経験など、人生において皆無だった。
悩む!悩む!悩む!悩む!悩む!悩む!悩む!悩む!
「…………………」
ここで、グレゴワール様が「にやっ」と笑った。
ジョルジエット様、アメリー様も柔らかく微笑む。
「うむ! やはりな! ロイク君は誠実な男だ!」
「ええ! お父様、その通りですわ!」
「私……ロイク様がますます好きになりました♡」
え?
どういう事?
「にこにこ」する3人の反応を見て、俺は呆然としてしまったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
???マークを飛ばす俺に、グレゴワール様は言う。
「ロイク君。君を改めて見直したよ。もしも君が、単に出世だけを考える男ならば、即座に我が娘ジョルジエットを選んでいただろう」
「…………………」
「しかし、君は思い悩んだ。アメリーが先に君を好きだと言ったから、筋を通すべきだと考えたからだ」
「…………………」
「だが、君に対し、懸命に尽くすふたりの気持ちをおもんばかり、ジョルジエットか、アメリーか、すぐに答えを出せない……と、いうところだろう?」
ああ、さすが百戦錬磨の『鬼宰相』
俺の心の内は、すっかり見抜かれていた。
しかし、見抜かれたのは良しとして、一体どうすれば良いのだろう?
引き続き、思い悩む俺を救ったのは、グレゴワール様からの新たな提案である。
「私はな、ロイク君! 改めて君を気に入ったぞ! 先ほどの貴族家養子入りの件、同様に、こちらも少し時間をかけよう」
「す、少し時間をかけるのですか?」
「うむ! まだロイク君はジョルジエット、アメリーと出会ったばかりで彼女達を熟知しているわけではない。ジョルジエット、アメリーも同じ、ロイク君の事をまだまだ知らない」
「確かにそうです」
「うむ、だから、時間をかけ、コミュニケーションを取りながら、互いを理解し合った方が望ましい。先の事は、その上で考えるのが得策だ」
「成る程ですね」
「うむ! そこでだ! 冒険者ロイク・アルシェ君へ仕事を発注しよう」
「冒険者の自分へ? 仕事? どういう事ですか?」
「ふむ。月に数回、私が君を、ジョルジエット、アメリー、ふたりの護衛役として雇用する」
「護衛役?」
「ああ、基本は休日勤務、ふたりと時間を共有してくれ。外出する際には必ず同行。ボディーガードを務めて欲しい」
「時間を共有し、ボディーガード……ですか。成る程……分かりました。条件等をお聞きして、前向きに検討します」
「うむ! 条件は既に決まっている」
「え? もうですか? 宜しければ、詳しくお聞かせください」
「ふむ、契約書は作成したし、確認をして欲しいが、とりあえず口頭で伝えよう」
「お願い致します」
「……うむ、出勤、退勤は当リヴァロル公爵家にて。勤務場所は当家と王都市内。拘束時間は前日の午後5時から、翌日夕方の5時の24時間。女子騎士をふたりを助手につける。休憩時間は睡眠、トイレ以外は基本なし。日給は金貨500枚。残業代、諸手当有り。3食付き、経費は別途請求OKだ」
立て板に水の如く、一気に告げられたが、食事つき、手当付き等で日給500万円ならば、大いに好条件。
「……分かりました。お受けします」
でも仕事内容を聞き、グレゴワール様の意図は分かった。
ジョルジエット様、アメリー様と、屋敷と王都市内で1日一緒に過ごし、
外出する際は俺が、助手の女子騎士とともに、
ボディーガードを務めながら、懇親をはかるというものだ。
そしてお互いの理解を深め、恋愛感情の変化を見ながら、
将来どうするかの判断材料とする。
本来の護衛役の趣旨を考えれば、反則的なやりかただが、
まる1日コミュニケーションをとりながら、
安全な場所でのみ、フレンドリーに接するようにという事だろう。
究極の選択に迷っていた俺は、グレゴワール様に、
助けられた形となった。
感謝しかない。
グレゴワール様は、ジョルジエット様へ言う。
「今回の件、普通の父親なら、実の娘であるジョルジエットに肩入れするが、私は、やらない。こういう事は、特にフェアにいかないと。ジョル、分かるな?」
おお、グレゴワール様は、本当にフェアな人だ。
俺は結構感動した。
対して、ジョルジエット様。
「はい! 承知しております、お父様。私もフェアな条件でアメリーと戦いたいですから!」
きっぱり言い切ると、俺に向かってにっこり笑い、
傍らのアメリー様も、嬉しそうに頷いたのである。
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