第60話「オファーと問題」

腕相撲、模擬戦は俺の完全勝利に終わった。


「やったあ! アメリー! ロイク様が勝ったあ!」

「やりましたね、ジョルジエット様! それも完璧な勝利でございましたあ!」


抱き合って大喜びするジョルジエット様、アメリー様主従。


精鋭騎士50人、そして騎士以上の能力を持つグレゴワール様にも圧勝。

レベル、各種パラメータもあがり、万々歳。


試合後……

礼儀正しい、リヴァロル公爵家警護主任騎士、バジル・オーリクさんは、


「ロイク・アルシェ君、君には全てにおいて完敗した。部下達とも話したが、今後は君を目標として敬意を表し、切磋琢磨して行きたい。そして大いに仲良くもしたい。今後とも、宜しく頼む!」


と仲直りの握手をし、

俺を信頼する、ルナール商会会頭セドリック・ルナールさんからも、


「ロイク様! おめでとうございます! 素晴らしい強さ! 素晴らしい試合でした! いろいろおありでしょうから、当商会の依頼はじっくり考え、受諾の可否をお答えください。今後とも宜しくお願い致します。では失礼致します」


ねぎらわれた。


改めて、勝利の実感が湧いて来る。


しばらくは勝利の余韻に浸っていたいのだが、そうもいかない。


最大の問題……が残っているからだ。


ここで、『鬼宰相』グレゴワール・リヴァロル公爵閣下が、

愛娘ジョルジエット様、サニエ子爵家令嬢アメリー様とともに現れる。


「うむうむ! おめでとう! ロイク・アルシェ君、私は約束を果たそう! 話があるから書斎へ来るがよかろう」


「はい」


ここは俺のステディ・リインカネーション世界における人生の岐路、

ターニングポイントとなる。


そんな予感がする。


「おめでとうございます! ロイク様!」

「ロイク様は、見事、私達の愛を勝ち取りましたわ!」


満面の笑みを浮かべるジョルジエット様に、アメリー様。


しかし、全く分からない部分もある。

確かにアメリー様は、最初からノリノリでアプローチして来た。


けれど、あんた呼ばわりして、冷淡だったジョルジエット様までも、

何故、俺にここまで熱くなるの?


そして、可愛い貴族女子ふたりから、猛烈にアプローチされるこの状況。


結局お前、どうするんだよ?

そんな天の声がいくつも聞こえた気がするが……


まあ、仕方がない。


ふたりの恋や愛の感情を、相手とはいえ、俺がこうしてああしてなど、

都合良く制御するなど不可能に近い。


身分格差、しきたりなど、いろいろしがらみもあるし、なるようにしかならない。


ちなみに、ステディ・リインカネーションの世界では一夫多妻制を認めている。


けっ!

所詮はハーレム展開かよ、とさげすまれそう。


まあ、あくまでも私見だが、禁断の恋や許されぬ愛以外なら、

「あり」だと俺は思うよ。


「さあ! ロイク様! 一緒に参りましょう!」

「私達も当然、お供致しますわ!」


先導するグレゴワール様の後を……


俺はジョルジエット様とアメリー様に、がっつり両方の腕をホールドされながら、

またも「どなどな」されていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ところかわって、グレゴワール様の書斎……


応接の長椅子に4人で座っている。

内々の話という事で、セバスチャンも護衛の騎士も居ない。


グレゴワール様は、ご機嫌である。


「ロイク・アルシェ君、君の強さは完全に規格外、剣聖に勝ったのも頷ける。私が求める要因を全て満たしたわけだ。本当に凄いし、素晴らしいな君は!」


「グレゴワール様に、そこまでおっしゃって頂き、光栄です」


「うむ、ついてはジョルジエット、アメリーの件を話す前に、まず私からオファーを出させて貰おう」


「グレゴワール様から? オファーですか?」


「うむ! ジョルジエット、アメリーの件とも関連のある話だ」


「え? ジョルジエット様、アメリー様の件とも関連のある話? なのですか?」


「ああ、そうだ」


ええっと……

オファーって、条件販売提案の事だ。

提供、申し出、提案の意味もある。


グレゴワール様は、俺に何のオファーをどういう条件で提案するのだろうか?


「ふむ。少し前置きをさせて貰えば……我々、貴族家は王国の繁栄を第一に考え、日々、仕事に励んでいる。同時に自家の繁栄も考えているのだ」


「成る程」


「王国、貴族家の繁栄は長きにわたり、理想を言えば、未来永劫、永久に続いて欲しい。王族、貴族ならば誰もがそう願う。その為には、王国なら国王、貴族なら当主が、その地位を、良き後継者に受け継がせる事が肝要なのだ」


そんな事、平民の俺に語られてもと思うが、ここは同意するのが賢明だろう。


「確かにそう思います」


「うむ! それで単刀直入に言おう。ロイク君を、いくつかの有力貴族家の養子に推薦しようと思っておる!」


ええええ!!??

俺を、いくつかの有力貴族家の養子に推薦!!??


うわっと!

いきなり、直球が来た!


さすがに俺は驚いた。


「えええ!!?? お、俺が!?……い、いえ、自分が養子ですかあ!! き、貴族家の!!??」


「うむ! 私グレゴワール・リヴァロルは、我がファルコ王国において、貴族家のまとめ役を担っておる」


「グレゴワール様が、貴族家のまとめ役を……」


「ああ、そういう立場上、ひんぱんに相談を受ける。良き後継者が居らず悩んでいる数多の貴族家当主から、どこかに卓越した人材……養子候補は居ないか、とな。まあ逆の場合もあり、優秀な貴族家の次男三男を、他の貴族家へ、入り婿や養子へ出す算段にも協力している」


「成る程」


「でだ! 話を戻せば、私が大器と見込んだ平民のロイク君が養子入りして、貴族家の子弟になれば、ジョルジエット、アメリーと交際、婚約、結婚するのも、全く問題はなくなる」


ああ、そうか。

俺がグレゴワール様が求める全ての要因を満たしたと言いながら、

やはり、貴族、平民の身分格差が大きいというわけね。


ジョルジエット様、アメリー様は、その話は通っているらしく、

「うんうん」と頷いていた。


まあ、納得は出来るけど、びっくりしたよ。


「大器などと、とてもお褒め頂き、恐縮ですが、……そういう事なのですね?」


「うむ、ロイク君、そういう事だよ」


グレゴワール様のオファーは理解したが、すぐに返事は出来ない。


「……ええっと、話は理解しましたが、さすがにすぐにはお答え出来ません」


「ははははは! まあ、それはそうだろう。私のオファーは人生の分岐点だからな。少し時間をあげるから、熟考するが良かろう」


グレゴワール様はそう言い、俺を見据え、


「そして! もうひとつ問題がある!」


ときっぱりと言い切ったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る