第55話「修行の一環、良き腕試しとして挑んでみよう」
いろいろあった長い一日がようやく終わった……
グレゴワール様の好意で、リヴァロル公爵家専用馬車で送って貰い……
何とか、ホテルに帰った俺。
熟考した結果、ルナール商会の依頼を記載した書類には目を通さない事にした。
受諾の可否に関して、ゆっくり考えてくれと言われていたし、
明日の試合にまずは集中すると決めたからだ。
俺は、開き直ってぐっすり眠り……
翌朝、6時に起きて、ホテルで朝食を摂り、身支度をし……
約束通り、翌日の土曜日午前8時少し前、リヴァロル公爵家へ赴いた。
正門で騎士へ取次ぎを頼むと……
グレゴワール様のおっしゃった通り、話は通っていて、
俺は敷地内にある1,000名収容の一番大きな闘技場へ案内された。
この闘技場において、俺の強さ、根性?を見るという、腕相撲と、雷撃剣を使用した模擬戦が行われる事となったのである。
戦う相手は何と! リヴァロル公爵家、護衛担当の騎士50名。
そして、グレゴワール様ご本人。
はああ~という、大きなため息が出そうなトンデモ展開だが……
こうなったら、やるしかない!
もしも勝ったら……
ジョルジエット様、アメリー様という貴族令嬢……ふたりの美少女と、
グレゴワール様公認の交際スタート。
ふたりの性格はいろいろと微妙だが、基本的には良い子……のはず。
そう信じるしかない。
そして、今回の事が縁となり……
ふたりの実家、リヴァロル公爵家、サニエ子爵家からも仕事が依頼されるかもしれない。
戦った騎士に対しても、俺の名前を「出来る奴だ」と好意的に、
また、もしも負けたとしても……
ジョルジエット様、アメリー様とはこれっきり。
しがらみから解放され、俺は自由の身になれるだろう。
負けたら……何だよ、この期待外れ! カスの冒険者風情が!
この場の全員から、ひどく
そうなったら、俺は割り切る。
今後、貴族階級の方々とはかかわらず、
そして勝つにしろ負けるにしろ、どちらの結果でも、
報奨金2億円という大金を
つらつら考えながら、闘技場へ入ると、
「ロイク様! 大変でしょうが、頑張ってください」
と聞き覚えのある男性の声がかかる。
おお、ルナール商会会頭のセドリックさんだ。
フィールドの片隅に置かれた椅子に座っていた。
俺の事をいろいろ弁護してくれて感謝したい。
「ああ、セドリックさん、お疲れ様です。いろいろとありがとうございます。頑張ります」
セドリックさんへ頭を下げ、礼を告げた俺は、更につらつら考える。
ルナール商会は、運よくリヴァロル公爵家御用達の商会であった。
そのおかげで、セドリックさんから熱く擁護して貰い、
平民で冒険者の俺は怪しまれずに済んだ。
やはり俺の設定、LUK:ラッキーが10,000《MAX》のお陰だ。
今日セドリックさんが来たのは……
昨日、緊急招集を受け、俺の素性等を聞かれ、帰された後、
グレゴワール様から、「本日試合実施」の連絡がルナール商会へ行ったからだろう。
考える俺の目の前で、闘技場フィールド中心に大きな酒樽が運ばれた。
まずはこの酒樽の上板部分を『リング』にして、腕相撲を行うというのである。
しかし!
俺は少し気楽に考えて過ぎていた事に気が付いた。
グレゴワール様から今回の趣旨を伝えられ、俺の相手を命じられた、
護衛の騎士達50名は「激しい嫉妬と羨望、そして蔑みと殺気」を込め、
ほぼ全員が俺をにらみつけていたのである。
まあ、当然だろうなあとは思う。
俺が王都の街中で、ジョルジエット様、アメリー様を助けた
だが、それはそれ。
「たまたま」その場に居合わせた俺が、「たまたま」助けた事から、
ふたりに大いに気に入られ、
終いには、「父親公認で交際する」という話にまでなっていると見ているだろう。
リヴァロル公爵家警護の騎士達にとって、
ジョルジエット様、アメリー様は、守るべき主家の麗しきお姫様。
憧れの対象である。
そのふたりを、どこの馬の骨か分からない平民の俺が、
「ふらちにも、横から、かっさらおうとしている」
と彼らの目には映っていると思う。
そんな事、絶対に阻止してやる!!
こんな平民の生意気ガキは許せない!!
少しでもこいつにスキがあれば、事故に見せかけ、ぶち殺してやる!!
と決意しているのは想像に難くない。
まあ、仕方がない。
さっき考えた通り、どうころんでも俺にリスクは少ない。
それに腕相撲、雷撃剣を使った模擬戦とはいえ、
「王国の精鋭騎士達と戦う」なんて滅多にない機会である。
『修行の一環、良き腕試し』として挑んでみよう。
俺はそう決意し、気合を入れなおしたのである。
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