第54話「君はたったひとりで戦う事となる!」

グレゴワール様はひどく真剣な表情で俺をまっすぐ見据え、


「気に入った!!!」


と大声で叫んだ。


おいおい!

いきなり、気に入ったって、どういう事だ?


もしも……

くそバカ! ゴミ野郎! 汚物! 人生の負け犬! 恥さらし! 

意気地なしの面汚し……などと言葉の暴力を喰らったら、ダメージは半端ない。


立ち直れなくなるかもしれない。


だから、「気に入った!」と言って貰える方が、罵倒されるより全然良い。


……しかし、何か、引っ掛かる。


そんな俺の予感はビンゴ。

大当たり!


更に、グレゴワール様は、とんでもない衝撃発言をのたまう。


「ジョル! アメリー! 約束しないという先ほどの言葉は撤回する! お前達が希望する、ロイク君との交際だが、……条件付きでOKしよう!」


えええええ~~~!!!???


ジョルジエット様、アメリー様が俺と交際するのを条件付きでOK!!??


な、な、な、何それぇ!!!!!


おいおいおい!

そりゃないぜ!


せっかく俺が、グレゴワール様のメンツをつぶさないよう、

上手く幕引きをして、収めようと頑張ってセッティングしたのに……

これじゃあ、完全にぶち壊しだよ。


あ~あ!

はしごを外されたって気分だ。


俺はがっかりしてしまい、大きなため息をついた。


一方、ジョルジエット様、アメリー様といえば、意外であった。


こういう場合は、ひとまず要求が通った!

万々歳! やったあ! と狂喜乱舞するのが常である。


しかし!

ジョルジエット様、アメリー様は落ち着いており、ひどく冷静である。


「お父様」

「グレゴワール様」


「おう、何だ? お前達の要求が通ったんだ、素直に喜ばないのか?」


グレゴワール様が尋ねると、

ジョルジエット様、アメリー様は、ふたりとも、首を横へ振る。


「いいえ、単純にぬか喜びなど出来ませぬ。お父様は条件付きだとおっしゃいました」

「ジョルジエット様のおっしゃる通り、グレゴワール様のお出しになる条件をお聞きしないと、素直には喜べませんわ」


おお!

凄いな!


ジョルジエット様も、アメリー様も。

単に可愛い女子だけではない。


沈着冷静で聡明だ。


「ふむ、さすがだな、ふたりとも。では私の条件を話そうか」


「はい、お願いします」

「お聞き致しますわ」


「緊急で作成した調査報告書を読み込み、緊急で呼び寄せた当家御用達、ルナール商会会頭セドリック・ルナールの証言を、私は聞いた」


グレゴワール様は、そう言うと軽く息を吐き、話を続ける。


「そしてロイク・アルシェ君の生い立ち、経歴、幅広く深い知識を有する事を知った。そして、更に本人といろいろと話してみて、ロイク君の真面目で誠実な人柄、けしておごらない奥ゆかしさも良く分かった。持ちうる胆力だって大したものだ!」


え?

調査報告書、セドリックさんの証言はともかく……


短いやりとりだけで俺の真面目な人柄、

けして驕らない奥ゆかしさが良く分かったって何?

胆力も大したものって、何?


この人間観察眼、決断力が、王国『鬼宰相』の神髄、底力なのか。


そんな俺の疑問も華麗にスルー。


グレゴワール様は、話を続ける。


「ふむ、人柄OK、知識OK、胆力OK。後ロイク君に不足しているのは、ちまたで、外野に四の五の言わせないくらい圧倒的な『強さ』! その実証のみ! それを私に示してくれたら、ジョルジエット、アメリーとの交際を許そう!」


グレゴワール様は、にっこり笑い、はっきりと言い切ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


グレゴワール様の話を聞いた、ジョルジエット様、アメリー様は、

ハイタッチ!


「ロイク様の強さなら、問題なし!」

「楽勝ですわ!」


可愛い女子の手が合わさり、軽い音を立てた。


あの~、そこまで確信させるほど、

俺、強さを見せていないと思うけど……ま、いっか。


ジョルジエット様、アメリー様が喜ぶのを受け、グレゴワール様は女子達へ言う。


「ふむ……今日、ロイク君が愚連隊どもを軽く戦闘不能にしたのは、衛兵とジョルジエット、アメリー、お前達からも聞いた」


「はい、ロイク様は軽くにらんだだけで、愚連隊どもを動けなくしましたわ」

「威圧の技だと、衛兵からは聞きました」


「ふむ、調査書とセドリックの証言によれば、剣聖に模擬戦で勝ち、山賊数十人を倒したそうだ。その力を私の目の前で見せてくれれば、交際を許す!」


きっぱりと言い切った、グレゴワール様。

……もう、後戻り、路線変更は不可能。


「わお! 聞いた、アメリー。セバスチャンも聞いたわね?」


「はあ~い! ジョルジエット様!」

「は、はい、確かにお聞きしました、ジョルジエット様」


……ああ、何か良かったね、セバスチャン。


と俺が思う中……グレゴワール様は、壁にかかっている魔導時計を見た。


「うむ……もう午後8時を過ぎてしまったか。本当は今日、決着をつけたかったが、仕方がない。……明日以降にしよう」


ああ、もうそんな時間だったか。


夕方にジョルジエット様、アメリー様をお助けし、衛兵に取り調べを受け、

リヴァロル公爵家でいろいろ話し込んでいたら、結構な時間が経ったのだ。


「うむ……ではこうしようか。明日は土曜日で学校も休み。私も公休日だ。よって明日朝から、ロイク君の強さを検証するとしよう」


明日かあ……

いろいろ考えていた事もあったけれど、

この件を最優先で対応しないとダメだろうなあ。


ここでジョルジエット様、アメリー様が声を張り上げる。


「それでお父様、どうやってロイク様の強さを検証されるつもりなのですか?」

「はい! いかにロイク様の強さを強さをはかるのでしょうか?」


おお、それ、ぜひ俺も知りたいっす。

何を、やらされるのでしょうか?


「うむ! 全て1対1の勝負となるが、ひとつはロイク君が剣聖と行った雷撃剣の模擬試合、もうひとつは純粋な力と力の勝負! 私も大好きな腕相撲だあ!」


ああ、模擬戦と、グレゴワール様も大好きな腕相撲かあ……

とりあえず、決闘みたいな、命を懸けた果し合いとかではなくて、ホッとした。


「わお! それは楽しみですね!」

「ぜひ、拝見したいと思いますわっ!」


ジョルジエット様、アメリー様も大盛り上がり。


「ロイク君、君の方はいかに」


「はあ、異存ありません」


「ふむ! 試合開始は、明日午前9時。場所は当家大闘技場。門番に話は通しておく。支度が必要だから、午前8時前には来てくれたまえ。革鎧だけ着用でな」


「了解です」


「ちなみに……ロイク君と戦う相手は当家の護衛を務める精鋭騎士50名、そしてこの私だ! 君はたったひとりで戦う事となる!」


はあ!!??

騎士50名にグレゴワール様が相手ぇぇ!!??


……俺ひとりで51戦するのか?


「ふふふふふ、ロイク君、私に君の強さと根性をしっかりと見せて貰おうか」


最後の最後に、とんでもない条件を出して来たグレゴワール様は、

俺を見て、にやりと笑ったのである。

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