第57話「おふたりの為にも、頑張ります」

「開始!」


と、セバスチャンの声がかかった時。


どむ!


「うっ!」


「STRはな、オーガ以上、6,500を軽く超えるぞ!」

と、荒ぶるグレゴワール様も、俺はあっさり倒した


同時に!


ジョルジエット様、アメリー様から絶叫に近い声援が!


「やったあああ!! ロイク様ああ!! 素敵ぃぃ!!」

「ロイク様あああ!! きゃ~っっっ!!」


ああ!

黄色い声援なんて、生まれて初めてだあ!


女子ふたりの黄色い声援に包まれ、俺は最高の高揚感に酔いしれた。


しかし、俺に瞬殺された瞬間、

グレゴワール様はショックのせいなのか、しばらくの間、動かずに固まっていた。


それを見て、俺はハッとした。


ついグレゴワール様からあおられ、絶対に負けじと、

むきになり、勝ちに行ってしまったのだ。


怒りのあまり、「全ての約束を取り消す、反故にする」とか、

グレゴワール様から言われたらどうしよう。


うつむくグレゴワール様。

表情が分からない。


やばい……かな?


と思ったら、グレゴワール様は、パッと顔を上げた。


気になる表情はといえば……晴れやかな笑顔である。


俺と目が合うと、目を輝かせ、声を張り上げる。


「うむうむうむう!! ロイク君!! この私にも完璧に勝ったのかあ!! 大いに!! 気に入ったああ!!」


はあ~あ。

良かったあ。

機嫌が良いままだった。

最悪のケースは免れたかあ。


そのままグレゴワール様は、身を乗り出して俺へ話しかける。


「ロイク君!」


「はい」


「STRが6,500を軽く超える私に完勝するとは、君のSTRは7,000オーバーなのか?」


グレゴワール様は、ひどく真剣だ。

ここは素直に告げた方が良いだろう。


「いいえ、7,000を少し切るくらいですよ」


「おお! オーバーはしないがほぼ7,000か! やっぱりな! 51連勝も納得だ! しかし!」


と言い、グレゴワール様は腕を伸ばし、俺の腕を「むにむに」と触って来る。


「見かけはこんなに細いのに、ほぼ7,000とは凄い。素晴らしい膂力りょりょくだ!」


そんなやりとりをしていると、

周囲は試合を見守っていたギャラリー達で囲まれていた。


そのギャラリーの中から、30代半ば過ぎのベテランの騎士が一歩、二歩と踏み出す。

この人にも俺は腕相撲で勝っている。


騎士はグレゴワール様へ、話しかける。


「失礼します、閣下。ロイク君に話があります。宜しいでしょうか?」


グレゴワール様は笑顔で頷き、少し引き下がった。


「おお、構わないぞ、バジル。存分に話してくれ」


「ありがとうございます」


グレゴワール様へお辞儀をし、騎士は俺へ言う。

ず~っと真面目な顔つきである。


「ロイク・アルシェ君」


「はい」


「自分は、リヴァロル公爵家警護主任騎士、バジル・オーリクだ。君への非礼を謝る。平民という身分、冒険者という職業、16歳の若造という年齢、……愚かな先入観で、君を見誤っていた」


ベテランの騎士……バジルさんは俺へ向かって、深く一礼した。


「そんな……」


「いや、自分達の完敗だ。自分以下、全員がなめていた事もあり、抵抗する事も全く出来なかった。……だが、次の模擬戦では、全力で行かせて貰う」


おお、バジルさんって、礼儀正しい騎士だな。


「いえ、とんでもありません。こちらこそ、全力で戦わせて頂きます」


俺はそう言い、バジルさんより深く頭を下げたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


腕相撲では、俺が瞬殺の連続で、騎士とグレゴワール様を倒したので、

正味3時間強しかかからなかった。


というわけで、現在の時間は午後0時過ぎ。


騎士達により、腕相撲のリングだった酒樽が片付けられ、

次の模擬戦の準備が行われる。


昼食用の椅子とテーブルも、数多出された。


俺は手伝おうとしたが、グレゴワール様に止められる。

「椅子に座り、昼食を摂りながら、休憩しろ、次の模擬戦に備え、英気を養え」

と言われた。


俺は『お客様』だし、たったひとりで51人と戦う。

だから、気をつかって貰ったらしい。


またセドリックさんも来て、嬉しそうに俺をねぎらってくれた。


と、そこへ、笑顔のジョルジエット様とアメリー様がやって来た。

ふたりの手には、昼食用の料理であろう包みと水筒が抱えられている。


「ロイク様、ぜひご一緒にランチを致しましょう」

「さあさあ! 焼きたてのパン、温かい料理、冷たい飲み物をお持ちしましたわ」


そしてふたりは、料理の包みと水筒をテーブルに置くと、いきなり超接近。

俺の右手、左手をがっつり握った。


ジョルジエット様、アメリー様の表情はといえば、

笑顔が更に進化して、満面の笑み、目がうるうる、頬は紅潮していた。


おいおいおい!

どうしちゃったの、ふたりとも。


「凄いですわ! ロイク様! 私、感動致しました! 私のお父様にも勝って51連勝なんて! それも全て瞬殺! 何てお強いんでしょう! 次の戦いも期待致します!」


「本当に! ロイク様はお強いですわ! 次の模擬戦にも全てお勝ちになって、私達のハートをびしっと射止めてくださいまし!」


熱く語り、俺を励ますジョルジエット様、アメリー様。

どうやら、腕相撲の熱戦を見て、ふたりとも興奮しちゃったみたいだ。

そういえば、「格闘技好きの女子は多いぞ」って、話を聞いた事がある。


改めて見ても、ふたりは本当に美少女。

その上、貴族のお嬢さんなんだものなあ。


はああ~……でもこれで絶対に勝たなきゃいけない雰囲気になってしまったか。


大いに励まされたのか、凄いプレッシャーをかけられたのか、どっち?


でも……さっきは、ず~っと熱く応援してくれていたから、素直に嬉しかった。

上手く勝てたのは、女子ふたりの声援も大きかったと思う。


俺の手をしっかりと握り、嬉しそうに、

むにむに動かすジョルジエット様、アメリー様。


強引とか、巻き込まれたとか、思うところは、いろいろある。

だがここは、ちゃんと声援と昼食のお礼を言うべきだ。


「応援して頂き、そしてお気遣い頂きありがとうございます! おふたりの為にも、一生懸命頑張ります!」


麗しき女子ふたりへ、俺は、はっきりと告げたのである。

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