第48話「恋と結婚に関しては主も家臣もありません!」

「私の入り婿候補として、ウチのお父様に検討して頂きますわ!」


「「はい~!?」」


アメリー様の言葉を聞き、再び、俺とジョルジエット様の驚きが重なった。


いやいやいや!

待ってください、アメリー様。


貴女と俺は今日会ったばかり、全くの初対面。

縁もゆかりもない他人同士だったじゃないですか。

それなのに、いきなり私の入り婿候補なんて、どこまでチョロインなんですか?


しかし!

アメリー様は、小リスのような可憐さを思い切り前面に押し出し、

うるうるした瞳で、俺に迫る!


「ロイク様!」


「はっ、はい!」


「今日! 貴方様と私アメリー・サニエは、創世神様のお導きにより、運命の出会いをしたのです! もしくは奇跡の邂逅かいこうです!」


「は、はあ……ええっと……」


だが、ここで放置プレー状態だったアメリー様の主ジョルジエット様が吠える!


「アメリー! 何言ってるの! 平民の冒険者をサニエ子爵家の入り婿にする!? そんな事! 貴女のお父様が許すはずないじゃない!」


対して、主に対して従順なはずのアメリー様が堂々と切り返す。


「ジョルジエット様!」


「な、何よ!」


「ご心配の件は問題ありませんわ」


「問題ない? どういう事よ! アメリー!」


「ウチのお父様は、私の婿は人柄重視! 才能重視! と日ごろから申しておりますわ。身分は関係ありません」


人柄重視! 才能重視! 身分は関係ないって……


あはは、やっぱり『顔』はないんだ……


俺、ロイクに転生しても平凡な容姿で、イケメンじゃないからなあ。


「それに、当サニエ子爵家はまだ300年の歴史しかない新参者。1,000年近い歴史を誇るジョルジエット様のリヴァロル公爵家とは違いますから」


「な、何よ! アメリー! ど、どこがどう違うのよ」


「はい! 王国譜代として、背負っていらっしゃる歴史が違いますわ。リヴァロル公爵家には、ふるき伝統と格式を重んじる気風がございます。その点、サニエ子爵家は新興の貴族、古いしきたりには縛られません」


ええっと……

1,000年近い歴史を誇るジョルジエット様のリヴァロル公爵家が、

歴史ある家柄は勿論だけど……

300年歴史があれば、

サニエ子爵家が新参者とか新興貴族とかって、いかがなものよ。


俺が「つらつら」考える中、アメリー様、ジョルジエット様の会話は続く。


「ちょっと! アメリー、言葉が過ぎるわ!」


「申し訳ございません。しかし、ジョルジエット様がご懸念される事は皆無とだけ申し上げます」


「むうう……」


「それに私は女として、この方に抱かれてしまいました」


「「はい~!?」」


アメリー様の言葉を聞き、またまた、俺とジョルジエット様の驚きが重なった。


「私アメリー・サニエは、生まれて初めて肉親以外の男性に、この身を任せてしまいました。私はもう他の男性の妻になどなれませんわ」


おいおいおい!

アメリー様、なんちゅう事を言うんだ!

俺は無実だあ!


案の定、ジョルジエット様の矛先が俺へ向けられる。


「ごら! ロイク・アルシェ! あんた! この子に何したの? まだ15歳なのよ!」


「何もしてないっすよ! 愚連隊の奴らに殴られ倒れていたアメリー様を、そっと抱き起こしただけですから!」


アメリー様の年齢が判明した上で、

俺は、精一杯、無実を主張した。


だってその通りだし!


あんなに野次馬がいっぱい、公衆の面前で、

貴族のお嬢様に、俺はどんな『ふらち』が出来るというんだ!


すると!


「はい! ロイク様のおっしゃる通りです。次の機会には、優しくお姫様だっこをして貰いますわ、うふふふふ」


「「はい~!?」」


アメリー様の言葉を聞き、今度は俺とジョルジエット様は、

あぜんとしてしまったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


アメリー様のコメントで俺の疑いは晴れた。

そしてリヴァロル公爵家専用の馬車は、軽快に走っている。


その車内で、相変わらずアメリー様は俺に甘えていた。

隣に座り、俺の手を再びしっかり握り、リスっ娘全開で、身体をすりすりしていた。


一方!

アメリー様のあるじ、リヴァロル公爵家の令嬢、ジョルジエット様といえば、ず~っとしかめっ面で、俺をにらんでいた。


おいおいおい!

勘弁してくれ!

俺はふたりを悪漢どもから助けただけなのに。


そして何と何と!!

ジョルジエット様から衝撃の発言が!!


「アメリー!」


「何でしょう、ジョルジエット様!」


「貴女のロジックで言うのなら、私も全く同じよ!」


「え? 私も全く同じとは?」


「私もアメリー、貴女と全く同じ状況だって事! あの愚連隊どもから助けて貰った時、私も、このロイク・アルシェに抱かれてしまったわ! 生まれてから17年、初めて肉親以外の男性に、この身を任せてしまった! 私だってもう他の男性の妻になどなれない!」


「はい~!?」


とんでもないロジックと展開に、今度は俺ひとりがあぜん!

ちなみに、ジョルジエット様が俺よりひとつ年上の17歳だと判明した。


すると、アメリー様は俺をスルーし、ジョルジエット様へ言う。


「だから、私、最初に確かめましたわ。そして申し上げました。ジョルジエット様は、白馬の王子様ではなく、『がっかり』などとロイク様へ、大変失礼な事をおっしゃったと! ご恋愛の対象ではないと!」


しかし、ジョルジエット様はしれっと。


「考え直したわ」


「……考え直したとおっしゃいますと? どういう事ですか?」


「だって! 悪漢どもから助けて貰うなんて、私の人生で、二度とないかもしれないじゃない? アメリーの言う通り、とっても運命的よ!」


「……まあ、ジョルジエット様は外出の際、通常は強~い護衛がたくさんついていらっしゃいますからね。悪漢など襲うどころか、近づいても来ませんわ」


「でしょ? だから、助けてくれたのが白馬の王子様でなく、平民の冒険者でも良しとするわ。ロイクは強そうだし、顔も我慢出来る範囲内だし」


「いえいえ! ロイク様はかっこいいし、強いし、凄く優しいですよ! 私は大好きです!」


おお、生まれて初めて女子から、賞賛して貰った。

凄く嬉しい!


と思ったら、ジョルジエット様までも。


「まあね! ロイクは強いし、性格は素直そうだし、顔も許容範囲内! どこかの性格最悪なわがまま貴族と見合い結婚するより、助けてくれた優しい冒険者と大恋愛して結婚した方が、女子として、全然素敵な人生よ!」


「はい! でも、リヴァロル公爵家のご当主グレゴワール様は、平民のロイク様を婿になど、絶対お認めになりませんよ」


「大丈夫! お父様は私の言う事、何でも聞いてくれるから! いざとなったらウソ泣きしちゃうし!」


「は~、そこまでします? ……仕方がないですね」


「うふふ、アメリー、私が出張でばるから諦める?」


「とんでもない! 戦います! 恋と結婚に関しては主も家臣もありません!」


何だか、俺を置いといて話が一方的に盛り上がり、進んでいる。


……俺は大きな不安を持ちながら、引き続き、どなどなされていたのである。

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