第47話「私の入り婿候補として、ウチのお父様に検討して頂きますわ!」

俺は、王都の街中で、リヴァロル公爵家令嬢ジョルジエット様、

侍女アメリーちゃんの主従を、愚連隊烏団コルウスの魔手から救った。

その結果、リヴァロル公爵家へむりやり「どなどな」される事になった。


衛兵から連絡が行き、やがて『迎え』がやって来た。

とんでもなく豪華な漆黒の馬車が一台。

そして完全武装した騎馬の騎士達が10人以上。


騎士達は、全員いかめしい表情。

馬上から、ジョルジエット様主従と一緒に居る俺を「ぎろり!」とにらむ。


えええ!?

助けたのに、護衛らしき騎士達に、俺は何故にらまれる?


何か、ヤバく、ややこしい予感しかしない。

下手をすれば死亡フラグが立ちそうな。


俺は再び、フェードアウトを試みる。


「あの~、ジョルジエット様」


「何よ!」


「この陣容だと無事にご自宅へご帰還出来ますし、俺は通りすがりに貴女方をお助けしただけの『がっかり冒険者』です……宜しければ、ここで失礼させて頂けないでしょうか」


「今更何言ってるの? さっきも言ったでしょ! リヴァロル公爵家の令嬢を助けて、はい、ばいばいが通ると思っているの?」


「はあ……」


ここで何と! リスっアメリーちゃんが俺の手を「ぎゅっ!」と握った。


「おわ!」


と驚いた俺だが、ジョルジエット様も驚いた。


「アメリー! ど、どうして!」


しかし、あるじの問いかけを華麗にスルー。


「うふふふふ……逃がしませんよ、ロイク様あ」


アメリーちゃんは、俺の手を握ったまま「にいっ」と笑った。

うわ!

可愛いけれど、ちょっと怖い。


そんなこんなしていると、騎士の中でリーダー役の騎士がやって来た。

年齢は30代半ば、精悍な顔立ちをしている。

叩き上げの騎士という雰囲気だ。


俺の方を見ずに、ジョルジエット様とアメリーちゃんへ視線を据え、言う。


「ジョルジエット様、アメリー様、ご無事で何よりです」


え?

アメリー『様』って何?


俺は手を握ったままのアメリーちゃんへ、尋ねる。


「ええっと……アメリー様って?」


「はい! 私も貴族の娘ですから」


「はい~!?」


侍女なのに!?

貴族の娘!?


そんな俺の心の中を見透かしたようにアメリーちゃん。


「はい! 私、行儀見習い&花嫁修業中という事で、寄り親のリヴァロル公爵家のご令嬢ジョルジエット様に、侍女としてお仕えしております」


な、成る程。

リヴァロル公爵家はファルコ王国譜代の大貴族。


……サニエという名に、聞き覚えがあった理由が判明した。

俺はステディ・リインカネーションをやり込んだ際、

サニエ子爵家の名を聞いた事があったからなのだ。


多分、サニエ子爵家は、リヴァロル公爵家の寄り子なのだ。


補足しよう。


寄り親・寄り子とは、親子を模して結ばれた主従関係である。

保護する側を寄り親と呼び、保護される側を寄り子と呼ぶ。

ステディ・リインカネーションの世界に設定された、

貴族社会における『派閥』なのである。


驚く俺を熱く見つめるアメリーちゃん、いや、アメリー様か!


しかし!

そんな雰囲気を、ジョルジエット様はお気に召さなかったようだ。


「アメリー! いい加減に手を放して! ロイク、さっさと馬車に乗って頂戴ちょうだい!」


いらいらっとした波動とともに、

超美少女の貴族令嬢は、不機嫌そうに言い放ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


馬車に乗り込んだ、ジョルジエット様、アメリー様、俺。

その周囲を騎馬の騎士達が固めながら進む。


このまま俺は、リヴァロル公爵家へどなどなされてしまう。

さすがに「取って食われる」とかはないだろうが、やはりヤバイ予感しかしない。


馬車の車中では、ジョルジエット様と向かい合わせに、俺とアメリー様が座る形。

アメリー様は手は放したものの、俺にぴったり寄り添っていた。


先ほどから、ジョルジエット様、不機嫌真っ只中。


理由は、はっきりしていた。

侍女のリスっアメリー様が、俺に甘えまくっているからだ。


ジョルジエット様は、ずっと無言だったが、耐えきれなくなったらしい。


「アメリー! どうしたの、一体?」


ああ、どうしたの、一体?って、俺も聞きたい。

何故、身分違いの平民の俺に?

それとも、もしかして、アメリー様。

貴女はチョロインだったのでしょうか?


アメリー様は、にっこり微笑み、


「どうしたのって、決まっていますわ、ジョルジエット様」


「決まっていますって? 何よ、それ!」


「ロイク様と私は運命の出会いを致しました! これは創世神様のお導きですわ」


「「はい~!?」」


アメリー様の言葉を聞き、思わず俺とジョルジエット様の驚きが重なった。


更にアメリー様は言う。

俺ではなく、ジョルジエット様へ。


「ジョルジエット様は、先ほどロイク様へ『がっかりぃ!』とおっしゃいました。そうですよね?」


「い、言ったわよ! こいつ、平民の冒険者で『白馬の王子様』じゃないんだもん!」


「ならば! ロイク様はジョルジエット様のご恋愛の対象外という事で、私の入り婿候補として、ウチのお父様に検討して頂きますわ!」


「「はい~!?」」


アメリー様の言葉を聞き、再び、俺とジョルジエット様の驚きが重なったのである。

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