第49話「俺、謝礼なんか不要だから、帰って良いかな?」

ファルコ王国王都ネシュラ貴族街区において、豪奢な屋敷が建ち並ぶ中、

最大級の屋敷のひとつが、1,000年の歴史を持つ王国譜代の大貴族リヴァロル公爵家の屋敷である。


まるで王城のような正門前にて、

屋敷を警備するこわもての騎士達から厳重なチェックを受け、

ジョルジエット様、アメリー様、俺を乗せた専用馬車は邸内へ入った。


今回の事件の経過けいか顛末てんまつの報告は、各所へ入っているはずなのだが……

チェックの際、唯一の部外者である俺への視線、尋問、ボディーチェックが厳しかった。

ジョルジエット様、アメリー様が、かばってはくれたが、

武器は一時預かりという事で、

愛用の剣スクラマサクスは、結局、召し上げられてしまった。


「仕方がない」と、ため息をついた俺は、馬車の車窓から、

リヴァロル公爵家邸内の景色を眺める。


広大な敷地は、ここが王都内とは思えないぐらいであり、

庭園はまるで王立の公園並みであった。


正面に見えるのが主屋しゅおくらしい。


まるで官公庁舎なみ、左右30mくらいある5階建ての巨大な建築物だ。

他にも別棟が複数、闘技場大中小、図書館、プール、倉庫などなど様々な施設があると、ジョルジエット様は自慢げにのたまった。


「はあ、そうなんですか」という感じだが、

ここは「凄いですね」という無難な大人の対応をした方が良いと、

俺の中のケン・アキヤマ25歳が言っている。


「ジョルジエット様、素晴らしいお屋敷ですね」


「でしょう!」


「えっへん!」と胸を張る俺ロイクより年上、17歳のジョルジエット様。


そして、にっこりと優しい笑顔を送って来る。


「うふふふふ、ロイクぅ。16歳って言ったよね? 危ないところを助けてくれて、本当にありがとう♡」


俺を結婚相手の候補と決めてから態度がガラリと変わり、全然違う。

もしかしてジョルジエット様は『超ツンデレ女子』?


そういうのも嫌いじゃない。

けれど……ちょっと極端じゃないかなあ。


一方、年下15歳のリスっ娘アメリー様は、ひたすら俺にくっつき甘えていた。


「ロイク様あ! アメリーを助けて頂き、魔法で癒しもして頂き、ありがとうございますう! すっごく嬉しいですう! 何だか優しいお兄様みたいぃぃ!!」


ひとりっ子たる俺の未体験『妹萌え』を、

ガンガンあおるような波状攻撃である。


そうこうしているうちに、玄関へ到着した。

見やれば、ずらりと使用人が並んでいた。

中央に家令らしき老齢の男が居て、俺を鋭い視線でにらんでいた。


おいおい!

騎士も使用人も、「俺が不届き者」みたいな目は、いい加減にしてくれ。

さすがに「いらっ」としたが何とか耐えた。


馬車が停まり……

御者が降り、馬車の扉を開け、ジョルジエット様が優雅な身のこなしで降り立った。


続いてアメリー様が俺の手をぎゅ!と握ってから、離して降りる。


最後に俺が降り立つと、すかさず!

俺の右わきにジョルジエット様が、

左わきに、アメリー様が「ぴとっ」とくっついたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


家令を中心に並んだ使用人の数は50名以上。

そこから俺達へ向かい、老齢の男が一歩二歩と進み出る。


俺へ向ける鋭い眼差しは変わらない。

だから、その視線やめろっつ~に。


老齢の男は、深々と頭を下げる。


「ロイク・アルシェ様。リヴァロル公爵家家令セバスチャンでございます! このたびは、ジョルジエット様、アメリー様をお助け頂きありがとうございました! つきましては……」


と、ここでジョルジエット様が声を張り上げる。


「ちょっと待ってセバスチャン!」


「何でございましょうか、ジョルジエット様。お父上様、グレゴワール公爵閣下からのお申し付けで、ロイク様には用意致しました謝礼金をお渡しし、お引き取り頂くよう命じられておりますが」


俺はそれを聞いて、父親グレゴワール公爵自ら礼を言わず、使用人に任せて金を渡すのが、凄く失礼だと怒った……


否!

全然!怒らない!

大いに喜んだのだ!


え?

何故だって?


だってだって!

想定外のとんでもない展開にはなったが、よくよく考えたら、

上級貴族の令嬢と平民の俺では身分が違いすぎるし、まともな恋愛なんか出来ない。


もしも取り込められたら、杓子定規な生活に縛られるのは必至。

そんな生活を送りたくないから、俺は個人事業主になったのだから。


万が一、恋仲になったとしても、

超ツンデレ女子ジョルジエット様は「俺を支配したい」とか言い出しそうだし。


リスっアメリー様は可愛いけれど、付き合うなんて想像出来ないし、

主ジョルジエット様との兼ね合いもある。


ふたりとも、こちらから、お断りすると、どう転んでも角が立つのは間違いない。


これから王都を中心に商売をする個人事業主ロイク・アルシェとしては、

リヴァロル公爵家やサニエ子爵家と、変ないさかいを起こせば、

とんでもない足かせになりかねない。


ここであちらから、相応の謝礼を受け取って、

そのままフェードアウトすれば、万事が解決する。


しかし!

ジョルジエット様とアメリー様がそうはさせじ!と言う。


「セバスチャン! そんな事は絶対にさせないわ!」

「はい! ジョルジエット様と同じく! 私アメリーも、そんな事はけしてさせません!」


「で、ですが……」


「お父様には私達から説明致します!」

「致しますわっ!」


俺は念の為、ジョルジエット様とアメリー様へ言ってみる。


「えっと……俺、謝礼なんか不要だから、帰って良いかな?」


しかし!


「ダメに決まってるでしょ!」

「逃がしません! ロイク様!」


ジョルジエット様とアメリー様に、

がっつり両方の腕をホールドされてしまったのである。

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