第44話「これが個人事業主の冒険者ロイク・アルシェのデビュー、初仕事だ!」

「きゃ~っ!」

「助けて~っ!」


やばいっ!


女子ふたりの悲鳴を聞いた俺は、王都市道の床を蹴り、走り出していた。


速度を抑えて走ったとはいえ、すぐ『現場』へ到着した。


人だかりが出来ている。

いわゆる野次馬だ。

やはり、何か事件らしい。


改めて索敵を行ったが……魔力感知で把握出来た。

こういう時、すぐ来て欲しい衛兵は居ない。

反応はあるのだが、この街区からだいぶ離れた場所に居る。


まずは、現状を把握しよう。

それにもう少しで習得出来そうなスキルがある。

試してみる絶好の機会だ。


野次馬をかきわけ、前に出てみれば、事件の全貌がほぼ認識出来た。


悪意を持つ野郎の集団イコールいかにもがらの悪そうな愚連隊十数人。

年齢は十代後半らしき女子ふたりイコールどこかの貴族令嬢とその侍女。


金髪碧眼の貴族令嬢が、さらわれそうになっていて、

阻止しようとした侍女が、愚連隊の男どもに殴られたか何かをされ、

市道へ倒れ、うめいている。


野次馬は、後難を怖れたのか、誰もかかわろうとせず遠巻きにしていた。


成る程!

そういう事ですか。


前世の無力な俺なら、勇気がない野次馬のひとりとなっていただろう。

哀れな被害者に何もせず、同情だけするか、

陰でこそこそと、くそな愚連隊どもをののしるくらいだっただろう。


しかし転生した俺は、がわこそ平凡な少年ロイク・アルシェだが、

中身は伝説の魔法騎士アラン・モーリアの初期設定プラスアルファ。

こんな屑の愚連隊どもなど、敵ではない。


昨日瞬殺したオークどもも雑魚だったが、愚連隊など比べれば更に雑魚。

倒すなど、指先ひとつで楽勝である。


だが、単にこいつらを倒すだけだと、過剰防衛で牢屋行きとなってしまう。

そんなのはまっぴらごめんだ。


という事で、貴族令嬢の拉致を阻止しなければならないが、

被害者の言質げんちに裏付けられた名目と事実、伴う段取りが必要である。


まず俺は、倒れている侍女ちゃんを助け起こす。

栗色髪のリスみたいな可愛い女子だ。

襲う苦痛に耐え、目を閉じ苦しそうに唸る、

彼女のほおは赤くれていた。


ああ!

愚連隊の奴らめ!

可哀そうに何て事をするんだ!


「う、うううう……ジョルジェット様を、た、助けないと……」


ジョルジェット様?

ああ、さらわれそうになってる貴族令嬢の名前か。

ステディ・リインカネーションのキャラは、入れ替わりがあるから、

俺が知らない場合もある。


まずは、この子の治療だ。

ほい!

全快っと!


治癒魔法『全快』をかけると、ほおの腫れがあっという間に引き、

侍女ちゃんは「ぱっ」と目を開けた。


これで良し!


魔法の効果で痛みが去り、目を開けた侍女ちゃんは、一瞬混乱した。


俺に抱きかかえられている事にようやく気付いたらしい。


「え? ど、どうして、私……」


しかし、拉致らちされつつある主人へ視線を向け、


「あ! そ、そうだ! こうしてはいられないっ! ジョ! ジョルジェット様あああ!!!」


と絶叫した。


俺は侍女ちゃんへ言う。


「落ち着いてくれ。君のご主人様は俺が助ける」


「え!? あ、貴方様は!? わ、私を助けてくれたのですか!?」


「ああ、そうだ! それより時間がない! 君が、冒険者の俺を、護衛役として、臨時で雇うと決めてくれ」


「……貴方様が冒険者!? 護衛役として臨時で雇う!? ……は、はいっ!! どなたでも構いません!! 貴方様を雇います!! どうか! ジョルジェット様をお助けくださいっ!!!」


よっし!

契約完了!


これで、ジョルジェット様を助ける名目が出来た。

多少派手に暴れても大丈夫だ。

証人だって、一杯居るし。


これが個人事業主の冒険者ロイク・アルシェのデビュー、初仕事だ!


ルナール商会様、先に依頼を頂いたのに、申し訳ない!

緊急事態だから、許してくれ!


そうだ!

俺が離れている間、ケルベロスに侍女ちゃんを護らせよう!


召喚サモン


回復魔法同様に神速!

召喚魔法発動!

光り輝く魔方陣が形成され、異界から、すぐに魔獣ケルベロスが現れた。


体長2m、体高1mの灰色狼風の姿である。


俺と抱きかかえられている侍女ちゃんを鋭い眼光で一瞥いちべつする。


『呼んだか、主』


『ああ、この子をまもっていてくれ。俺は敵を倒し、この子の主人を助ける! 終わったら戻る!』


『心得た!』


打てば響けと、やりとりはすぐに済んだ。

異界から見ていたのか、それとも俺の心を瞬時に読み取ったのか、

ケルベロスは、すぐに状況を認識したようである。


「ひゃあ!? な、何ですかあ、この犬!? お、狼ぃぃ!!??」


「大丈夫、俺の使い魔だ!」


本当は使い魔ではなく、怖ろしい魔獣なんだけど、その方が大騒ぎにならない。

そういう事にしておこう。


俺は、ケルベロスに驚く侍女ちゃんへ指示を出す。


「よし、君をこいつに護らせる! ここで待っていてくれ! 俺がジョルジェット様を助けるから!」


「お、お願い致しますっ!」


「立てるかい? 手を放すよ」


「はっ、はいっ!」


「すぐ戻る!」


貴族令嬢を捕まえ、遠ざかる愚連隊の奴らを目指し、

再び俺は、王都市道の床を蹴り、走り出していたのである。

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