第45話「地味な技だけど、とんでもなくでかいぜ!!」

貴族令嬢を捕まえ、遠ざかる愚連隊の奴らを目指し、

再び俺は、王都市道の床を蹴り、走り出していた。


ステディ・リインカネーションをやり込んだ俺は良く知っている。

王都にはいくつもの愚連隊どもが存在し、裏稼業と暴力で生計を立てている。


そして奴らは皆、ずるがしこい。

多分、衛兵が周囲に居ないタイミングを計って、この誘拐を実行に移したのだ。


もしかしたら、計画的な犯行?

目的は何だ?


しかし、その確認は後で構わない。


奴らはもう誰もとがめず、追跡して来ないと判断したのか、

馬車も使わずゆっくりと歩いている。


なので俺はすぐに追いついた。

装着した『大盗賊の指輪』の威力は抜群。

気配消し、忍び足の効果で、愚連隊の屑どもは俺に気付いていない。


さらわれた金髪の貴族令嬢ジョルジェット様はといえば、

愚連隊の集団の真ん中辺りに居た。

ひげ面のリーダーらしき中年男がにやにやしながら、ジョルジェット様を抱えている。


気になる様子はと見れば、ジョルジェット様は、意識を失っていた。

しっかりとした生命反応は感じるから、無事ではあるが、

魔法睡眠薬をかがされたか、当て身を喰らったのだろう。


さあて!

状況は把握した。

作戦も決まった。

奴らが俺に気付かないうち、急襲、奪還あるのみ。


通常ならば、声をかけ、解放しろなどと言うが、

この状況では愚の骨頂。

ジョルジェット様を人質にされ、余計な手間がかかるだけ。

いろいろとリスクも生じる。


ここでいきなり、俺は身体能力のギアをトップに上げた。

最高速の身体能力であれば、常人は俺と戦うどころか、捉えるのも無理だ。


ダッシュ! ダッシュの弾むような走法で、

あっという間にリーダーの左わきにいる奴に取り付き、

腕をつかみ、ぽいっと後方へ投げ飛ばす。


何が起こったのか分からないという感じで、ごろごろ市道へ転がる愚連隊の男!

更に俺は、ジョルジェット様を抱えているひげ面中年男リーダーへ肉薄!


どご!


と軽く脇腹へ当て身を入れ、くらくらと倒れ行くリーダーから、

ジョルジェット様を華麗に奪還! 

しっかり抱えると、ばばばっつと、後方に5m飛び退すさった。


気を失ったままのジョルジェット様を抱え、立つ俺。


いきなりひとりを転倒させ、リーダーを倒された愚連隊の奴らは、

しばらく呆然としていたが、俺がジョルジェット様を助けたのを認識。

わあわあと騒ぎ出した。


ここで俺は試してみたい『技』を使う事にした。

オークが巣くう砦において何度も経験したのだ。


俺がにらみつけるだけで、

オークどもは身体が硬直して動くなくなったり、怯えて逃げたりした。

これはもしかして格下の相手を委縮させる『威圧』では?

と思って、試す機会を待っていたのだ。


ジョルジェット様を助け出した今の状況ならば、そのトライアルが実行可能。

もしも『威圧』が発動しなかったり、効果がなければ、このまま退避すればOK。

時速100km超えの俺の脚力について来れるはずもない。


「てめえら! 俺を見ろ!」


俺は叫び、注目させると愚連隊どもを、思い切りにらみつけた!

強烈な魔力が、愚連隊どもへ放射される。


すると!

愚連隊どもは、ばたばたばた!と全員市道に倒れ伏してしまった!!


まるで蛇に睨まれた蛙である。


うん!

外道な奴らだが、生命反応があるから死んではいない。

これで過剰防衛回避、完全確定!


やったあ!

『威圧』大成功!


瞬間!


ぱららら、ぱっぱ~!!

ファンファーレが鳴り渡り、心の内なる声が、

新たなスキルの獲得を告げてくれた。


『ロイク・アルシェは「スキル威圧」を獲得しました。特別補正により、プラス40が現レベルに補正されます』


おお!

やったあ!!!!


「スキル威圧」をゲットぉぉぉ!!!

それも補正プラス40?

じゃあ、俺のレべル10に補正が40プラスされ、レベル49までの相手なら、

戦わずして委縮させる事が出来るって事か!


そして多分格上の相手も、少しひるませるくらいは出来そうだ。


おいおい!!

これはでかい!!

地味な技だけど、とんでもなくでかいぜ!!


今後、こういう事は多々あるから、使いどころは多そうだ。


「ふう!」


まさに瓢箪ひょうたんからこまが出る。

もしくは、情けは人の為ならずか。

意味は検索して確かめてくれ。


ジョルジェット様と侍女ちゃんを助けた事に、とんだおまけがついて来やがった。


少し大立ち回りをしたから、

俺とジョルジェット様、倒れ伏した愚連隊どもの周囲にも、

大勢の野次馬が集まって来ていた。


誘拐未遂事件はとりあえず解決!

もう大丈夫だ!


俺は念の為、気を失っているジョルジェット様へも『全快』の魔法をかけておいた。

改めてジョルジェット様を見やれば、透き通るような肌、端麗な顔立ちで、

とんでもない美少女だと分かった。


まあ、ジョルジェット様が美少女なのはともかく、

心配してるであろう侍女ちゃんを、早く安心させてやりたい。


俺は、ケルベロスへ命じ、侍女ちゃんをこの場へ連れて来させた。

ケルベロスは、侍女ちゃんの袖を引っ張るという意思疎通をしたようである。


俺に抱かれ気を失っている主ジョルジェット様の無事な姿を見て、

侍女ちゃんは嬉し泣き。


「わああああああ!! ジョルジェット様あああ!!!」


思い切り号泣したのである。

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