第43話「全てが順調! しかし事件が!」
クロエさんを交え、俺と業務担当者のトリッシュさんは、
今後における段取り等、いろいろな打ち合わせをした。
俺が持つゲーム知識、そしてトリッシュさんの説明によれば、
トリッシュさんの仕事は、いくつかある。
まず俺と随時打ち合わせをし、希望の依頼を確保、
エントリーの打診可否を確認をする事が主となる。
少し分かりにくいかもしれないので、順を追って話そう。
まず、俺とトリッシュさんが打ち合わせをする。
この打合せは現状での俺の状態、考えを把握する為にある一定数行う。
次に俺が受諾を希望する依頼の傾向を、トリッシュさんが把握しておく。
例えば討伐系でどういう敵とか、護衛系で誰を護るのか等々。
そしてトリッシュさんがギルド内へ出されている依頼を随時精査。
俺宛に依頼エントリー希望の打診をする。
依頼は基本は早い者勝ちの、売り違いごめん。
たまに依頼者が期間を設け、エントリー者を選ぶ事もある。
俺が依頼を受諾したら、その後のフォローを行うという感じ。
もうひとつトリッシュさんの大きな仕事は、指名依頼の管理、交渉である。
先述したが、指名依頼とは文字通り、特定の個人やクランなどを指名して、
仕事を請け負って貰う事。
つまり今回のルナール商会のように俺ロイク・アルシェへ仕事を発注したいという名ざしの依頼。
これをトリッシュさんが一旦受付け、受諾の判断を俺に仰ぐという事。
ちなみにこの指名依頼だが、断っても構わない。
条件が折り合わない、発注主との相性が悪い等、断る理由も数多あるのだ。
但し、内容にもよるが、王家からの依頼は断るのが困難であるという。
まあ、王家は冒険者に依頼するなど滅多にない。
大体が王家直属の組織が処理をしてしまう。
「他にも、クラン入隊の強引な勧誘とか、いろいろ雑事がある際も、私トリッシュへ、お気軽にご相談くださいませませっ!」
ここで、クロエさん、トリッシュさんから、
ギルドを介さない直接依頼における注意があった。
直接依頼とは文字通り、ギルドを飛び越え、俺宛に直接オーダーが入る依頼である。
犯罪は勿論、公序良俗に反さない依頼ならば、直接受諾しても可能である。
但し、報酬の支払いを始め、何かのトラブルがあっても自己責任となり、
ギルドは一切関与しないというルールだと念を押された。
また税金の処理等も自身で行い、
直接依頼ギルドの場合、付帯サービスは一切なしだとも言われたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
クロエさん、トリッシュさんを交えた打ち合せは、楽しいやりとりとなった。
仕事の話オンリーのビジネスライク的な会話と思いきや、
ふたりの女子からは、プライベートに近い話もされ、質問もされ、
結構、盛り上がったのである。
年上の女子ふたりから見て、年下の16歳少年ロイクこと俺は、
大人の男子と違い、可愛い弟みたいなものだったのかもしれない。
なので、思いあがったりはしない。
勇み足はしない。
突っ込まれても、当たり障りのない、でも『楽しい答え』だけ戻しておいた。
これで知り合った女子は、クラン
サブマスター、エヴラール・バシュレさん秘書のクロエ・オリオルさん、
俺の業務担当トリッシュさんこと、パトリシア・ラクルテルさんかあ……
それと、ああ、そうだ。
顔見知りレベルで、スペック検査官だというアンジェルさんも居たっけ。
ステディ・リインカネーションにおいて、ヒロインとの出会いは、
突発的に特別なイベントが起こると認識している。
この4人以外にも、運命の想い人候補たる誰かと出会えたら嬉しいなあ。
でも前世のケン・アキヤマならまだしも、俺は9歳若返ったロイク・アルシェ。
時間はたっぷりある。
縁が全くナッシングだった青春時代の恋愛も、これからじっくり楽しもう。
女子ふたりと今日みたいな会話も、初めての体験だし。
良い経験になっただろう。
……という事で、打ち合せが終わり、俺は冒険者ギルド総本部を出た。
すっかり話し込んでしまったから、時刻はもう午後4時。
太陽はゆっくりと、西の地平線へ降りて来ている。
王都ネシュラの街中を歩きながら、俺は嬉しくなり思わず拳を握った。
今のところ順調すぎるくらい順調である。
レベル、スペックはまだまだ上がる。
発展途上の俺はもっともっと成長する。
仕事も順調。
今日、ルナール商会から依頼された案件も、ホテルへ戻り開封するのが楽しみだ。
金銭的な蓄えも結構あるから、生活の心配はない。
というか、今のホテル暮らしをしばらく続ければ、出費はわずかである。
仕事をこなしていけば、更なる貯金も可能だ。
恋愛は……まあ、そのうち何とかなると思いたい。
と、その時!
先の路地で、悪意を持つ野郎の集団が、『女子ふたり』を取り囲むのを感知した。
同時に悲鳴が俺の耳へ聞こえて来る。
「きゃ~っ!」
「助けて~っ!」
やばいっ!
俺は王都市道の床を蹴り、走り出していたのである。
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