第33話「呆れ、終いには苦笑してしまった」

午後2時30分過ぎ……『召喚術』基礎の講義が終わった。


本日受けた『剣技』『回復魔法』『召喚術』基礎クラスでは、

全て『望んだ以上の結果』が得られた。


『剣技』は、剣さばき、体さばきは標準以上の腕を得た。

物差しはランクAの教官剣士。

模擬戦とはいえ、俺の圧勝だった。


『回復魔法』は、治癒、解毒、回復3つの魔法を習得した。


そして『召喚術』は、

上から目線の、いかにも強そうな『使い魔』を呼ぶ事が出来た。

どう見ても巨大な灰色狼であり、体長は軽く2m、体高は1mを超える。

こいつが居れば、メッセンジャーどころか、戦力として使えるかもしれない。


全ての基礎クラスをクリア、『上級応用』クラスへの受講申し込みも済ませてある。


という事で大満足の俺は、本館1階フロアへ。


何か、こう上手く行くと、学んだり訓練する事がとても面白く楽しくなって来たからだ。


そう、もう1科目か、2科目、科目を増やせないか、業務カウンターへ相談に行く。


午後半ばという事で、業務カウンターは空いていた。


ぱっと見やれば、この前講座の受付をしてくれた職員さんが座っていた。

これは験がいい。

という事で、俺はその職員さんが座るカウンターへ行き、


「こんにちは! 先日はありがとうございました!」


相手がおぼえていなくても構わない。

何故なら、礼を言われ、不快になる者はそう居ないからだ。


しかし、職員さんは俺の事を憶えていてくれた。


「わあ、ロイク・アルシェ君じゃない」


おお、おぼえて貰っていた。


「はい、更に講座の申し込みをしたいとお思いまして」


「更に講座の申し込み?」


「はい、実は『剣技』『回復魔法』『召喚術』基礎クラスを既に修了しましたので、それぞれの『上級応用クラス』受講を希望します」


「わあ! す、凄いですね! 1日で3つの基礎クラスを、全て修了なのですか?」


「ええ、何とか」


「何とかですか?」


「ええ、それでですね。これなら夜間も含め、もっと他の科目を増やして、受講可能だと思いますので、どうスケジューリングすれば、ベストなのか相談に乗ってください」


「わ、分かりました。それでご希望の科目は?」


「はい、『防御』『格闘・殴打』『攻撃魔法』『防御魔法』『シーフ職』の各基礎ってところですね」


「え? 一気に5つも? では『剣技』『回復魔法』『召喚術』の各上級応用クラス以外の科目も5つ受講されるのですか?」


「はい、都合8クラスを、夜間もフルで受けますから」


「は、8クラスですか。……りょ、了解です」


……という事で、職員さんが一生懸命にスケジューリングしてくれた事もあり、

俺は、一度にギルドの講座を8科目受講する事となったのである。  


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ギルドの講座を8科目受講の手続きを済ませた俺。


さてと、時間は3時30分か……

ギルドの図書館で勉強か、またいろいろ買い物イベントにチャレンジか、


と思ったが……1階フロアを歩いていると、


「ロイクくうん!」


俺を呼ぶ声がする


……あ、クラン猛禽ラパスの女子剣士イネスさんか。


そして傍らには30代半ばとおぼしき、たくましいガタイの男子、

リーダーのジョアキムさんが。


イネスさんは微妙な笑顔。

ジョアキムさんは、しかめっ面。


どんな話をされるのか、予想はつくけど。


仕方がない。


俺は一礼し、ふたりの下へ。


「こんにちは!」


俺があいさつすると、ジョアキムさんが開口一番。


「いきなりだが、ロイク君、君に話がある。ギルドの食堂でお茶でも飲まないか?」


やっぱり来た!


幸い、時間はある。


多分、これから、ジョアキムさんがする話は大事な件だし、

彼には紹介状を書いて貰った恩がある。


OKせざるを得ないだろう。


まあ、それはそれ、これはこれ、なんだけどね。


ということで、3人はギルドの食堂へ。


まずは、冒険者未経験、新人の俺がランクBになった事に対し、

『お祝い』を言われた。


ジョアキムさんは、大いに驚き、

イネスさんは呆れていた。


俺はイネスさんへランクBの認定を伝えたが、

ジョアキムさんは、サブマスターのエヴラールさんへ確認したらしい。


しばし雑談の後、話は本題に。


「ロイク君」


「はい」


「君の所属の件だ」


ほうら!

やっぱり来た!

勧誘されていた件。

予想通りだ!


しかし、俺はもう決意している。

『フリーの自営業者』になると決めたのだ。

理由は先述したから、ここでは省きます。


ここは、話を振られる前に、こちらから告げる。

事実関係を全て述べる。

先手必勝である。


こういう時は、危機回避しながら、相手の了解を得るのが鉄則。

営業マン時代に学んでいる。


「申し訳ありません! ジョアキムさん!」


「え?」


「申し上げます! 俺ロイク・アルシェは冒険者ギルド所属とはいえ、『フリーの自営業者』になりますので、宜しければお仕事をご発注して頂き、互いの条件が折り合えば、ぜひ前向きに請け負いたいと思います」


「え? そ、そうなのか?」


「はい! ……という事なので、本当に申し訳ありません。大変、恐縮ではありますが、クラン猛禽ラパスへの入隊というお誘いは、ご遠慮させて頂きます」


「う!」


「俺は、ルナール商会の社員へというお誘いもお断りしましたし、サブマスターのエヴラールさんのお誘いもお断りするつもりです」


ここで俺は、ルナール商会との『取引契約書』も見せた。

ルナール商会会頭のセドリックさんと幹部社員オーバンさんのサイン入りだ。


クラン猛禽ラパスにとって、ルナール商会は大事なお客さん。

ルナール商会を差し置いて、俺を勧誘出来るはずもない。


「な、成る程……そうか……仕方がない、君の我がクラン入隊は諦めるよ」


おお、やった!

円満にお断り出来た。


しかし、もう一回お詫びだけしておく。


「申し訳ありません」


空気がだいぶ重い。


ここでイネスさんが、雰囲気を変えようと、俺へ話を振って来る。


「そ、そういえば、ロイク君。今日講座3つ受けたんでしょ? ど、どうだった?」


「はい! 本日、ギルドの講座『剣技』『回復魔法』『召喚術』基礎クラスを修了、同じ科目の上級応用クラスへ進むのと、『防御』『格闘・殴打』『攻撃魔法』『防御魔法』『シーフ職』の基礎クラスも受講します」


俺が正直に言うと、ジョアキムさんもイネスさんも驚愕してしまう。


「「ええええっっっ!!??」」


しかし、俺が当たり前のように平然としていると、


ジョアキムさんとイネスさんは、顔を見合わせ、呆れ、

しまいには苦笑してしまったのである。

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