第32話「良いだろう。主《あるじ》、我はお前に従おう」

『剣技』『回復魔法』の基礎クラスを修了。

次回からは両講座の上級応用クラスを受講する事となった俺。


申し込み手続きも、基礎クラスを修了した場で、済ませる事が出来たので、問題ない。


……現在、時間はお昼の12時過ぎ。


残る『召喚術』の講座の開始は午後1時から。

その間は昼休み。

ランチタイムである。


俺は別棟を出ると、冒険者ギルド内にある別棟の食堂へ。


この食堂は、「安くて、早くて、美味い!」という、

どこかの某店のようなうたい文句がぴったり来る店だ。


食堂といっても、おしゃれな居酒屋ビストロみたいな雰囲気で、

食事が楽しめる。


食堂はそこそこ混んでいたが……

すぐにランチを確保する事が出来た。


豚肉のミートパイ、きのこと豆のラグー、野菜サラダ、紅茶という軽めな感じで。


今の俺は16歳の育ち盛り、本当は、腹いっぱい食べたい。


しかし、午後も講義があるし、眠くなったらヤバイからだ。


ランチを摂りながら、午後の講義の事を考える。


召喚術の基礎……つまり召喚魔法の習得である。

申し込みした際、教材に護符の『ペンタグラム』が必要だからと言われて、銀製のペンタグラムを購入していた。


ペンタグラムとは、五芒星ごぼうせいが刻まれた護符である。

五芒星とは、互いに交差する同じ長さの5本の線で構成されており、

中心に五角形が現れる図形を指す。


日本では、安倍晴明が使った祈祷呪符として有名である。


西洋・東洋において、五芒星は魔術や魔除けの記号の1つとして使用されるのが殆どだが……

五芒星を上下逆にしたものはデビルスターと呼ばれ、

邪悪の象徴として悪魔を呼び出したり、

対象者を呪う黒魔術などで使用する事となるので、使用の際は注意が必要である。


俺はつらつらと考える。


剣技、回復魔法同様に、基礎を速攻でクリアしたい。

まずは、忠実な『使い魔』が欲しい。


文字通り、メッセンジャーを務める使い魔だから、戦闘能力はあまり望めないだろうけど、そこそこ強いのが良いなあ。


使い魔は、犬、猫、鳥など小動物が多いけど……

犬なら、狼みたいな犬が欲しい!


ランチを食べ終わり、俺は『召喚術』が行われる別棟の、

召喚祭儀室へ赴いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


召喚術イコール召喚魔法なので、準備運動は回復魔法と同じである。


まず体内魔力を高め、精神を集中、安定させる為の『呼吸法』を行う。


呼吸法で体内魔力を高め、精神を集中、安定させた後は、

使い魔を呼ぶ召喚魔法を発動する言霊ことだまの詠唱訓練である。


更にただ詠唱するだけでなく、発動した際のイメージトレーニングも行う。

今回の課題は召喚魔法が発動し、対象が異界から呼び出され、

召喚が成功した事をイメージするのだ。


呼吸法で、体内魔力が高まり、精神が集中、安定。


俺は、召喚魔法の言霊を詠唱し続ける。


「ビナー、ゲブラー、我に忠実なるしもべを与えたまえ!」


回復魔法同様、詠唱を30回で手ごたえを感じ、

魔力を込めた発動訓練は、やはり車のエンジンが一発でかかるような気持ち良さ。


召喚魔法が成功した!!


俺の前方にぱっと光が浮き上がる。


召喚魔法の発動成功とともに、現世まあ、ここもゲーム異世界だけどと、

異界がつながったのである。


やがて……

光った床に『魔法陣』が表れた。


魔法文字が浮き上がった魔法陣は、現世と異界をつなぎ、

出入ではいりが可能な『異界門』なのである。


よし! 

強き使い魔よ!

現れよ!


「うおん!」


俺が念じたのが通じたのか、魔法陣の中から、

一体の灰色狼風の巨大な犬が飛び出して来る。


で、でっけえ!

眼光鋭いぞぉ!


すげ~迫力だ!

犬っていうより、巨大狼!?

まさか、フェンリル!?


体長は軽く2m、体高は1mを超えていた。


おお!

これならバッチリ!

希望通りの使い魔だ!!


召喚した使い魔とは、魂の契約を結び、服従を誓って貰う。


心で念じ、呼びかけるのである。


『我が使い魔よ! 良くぞ来た! 我に従え!』


俺の呼びかけに対し、


『………………ふむ。興味深い』


重く低い声で犬は答えた。


興味深い?

何じゃ、そりゃ?


こいつ、やっぱり、普通の使い魔じゃないのか?


俺は再び呼びかける。


『我が使い魔よ! 良くぞ来た! 我に従え!』


すると、召喚された灰色狼風の巨大犬。


俺を値踏みするように見つめた。


そして、しばし沈黙の後。


『……………うむ、良いだろう。あるじ、我はお前に従おう』


ええっと……

何か、微妙な感じだが……


魂の契約が為されたらしい。

俺の心と犬の心がつながるような感覚にとらわれる。


よし!

何か、不愛想で偉そうだけど、強そうだし、目的は達成した。


巨大犬を召喚したの俺が、講習生の中で一番乗りであった。


講習生達が大きく拍手。


剣技、回復魔法の講義で一緒だった者も居た。


「やっぱりな、凄い才能だよ」

「そうだ、あいつだよ、新人で、いきなりランカーって」

「ロイクっていう、天才らしいぜ」

「とんでもない奴だ」


などという、『うわさ話』が俺の耳へ入って来る。


まあ、良いか……悪評じゃないしね。


という事で、俺は楽々と召喚魔法が行使出来るようになり、

教官からは、合格のお済み付きを貰った。


当然俺は召喚魔法も、『上級応用』の講座を受講する事を決めたのである。

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