第30話「『本気』で行こう」

俺は、


「おはようございます!」


とクラン猛禽ラパスのイネスさんへ、元気よく、丁寧にあいさつをした。


すると、イネスさんもにこやかに、俺へ挨拶。


「おはよう! ロイクさん! この早い時間に居るって事は? もしかして、うちのリーダーの紹介で、登録が無事終わったから、良い依頼でも探しに来たのかな?」


イネスさんの質問はもっともだ。


しかし、違うんだな、これが。


「いえ、違います。ギルドの講座を受講しに来たのですよ」


「ギルドの講座を? へえ! 凶暴な山賊を40人以上倒しておいて、今更、勉強するとか、鍛えるんだ?」


「はい。俺、自己流とか多いんで、一昨日、剣技、回復魔法、そして召喚術の講座に申し込みました。今日、これから受講します」


「成る程! 感心感心! それで3つも受けちゃうんだあ」


「はい、とりあえずは」


「え? とりあえずって、もっと受けるの?」


「はい、受講するのは全て基礎クラスなので、上級応用クラスも受けたいです」


「上級応用クラス!? へええ! 本当に勤勉なんだあ! でさでさ!」


「はい」


「ロイク君のランク判定は? 何になった? Eくらいには、なったかなあ?」


ほら来たあ!

これは予想していた質問だあ。


ともに戦い、山賊を数多倒した俺が、どのくらいのランクに認定されるのか?


そして、自分の所属するクランのリーダーが推薦状を託したから気になる。


……そういうところだろう。


とすれば、まだクラン猛禽ラパスのジョアキムさんも、

出た『結果』を知らないのかもしれないなあ。


まあ、俺のランク判定の結果よりも、やらなきゃいけない大事な用事がいっぱいあるだろうからなあ。


後で俺から会いに行き、ルナール商会同様筋を通して、

クラン猛禽ラパス入隊を断らないといけない。


でも、ここは、とりあえず、イネスさんへは正直に言う一手。


「ランクBっす!」


「ほお! ランクBかあ! え!? ええええ!!?? ラ、ランクBぃぃ!!?? ラララ、ランカーああ!!??」


あはは、やっぱり驚いたか。

まあ、未経験のド素人が、いきなりランカーなんて、

常識的にはありえないからなあ。


でも俺は、ただ肯定するしかない。


「はい、そうっす」


「ど、どうしてぇぇ!!??」


「いえ、『どうしてぇ』と言われても、困ります。サブマスターのエヴラールさんにしっかりと認定して頂きましたので」


「わ、私だって、ランクCなんだよぉ!」


いやいや、私だってとか、それこそ、俺へ言われても困る。


イネスさんとやりとりしていたら、結構な時間が経った。

ここで俺は1階フロアの魔導時計を見た。


午前8時50分……おいおい、ヤバイ!

もうそろそろ、最初の講義が始まってしまう。


「イネスさあん! 講義始まるのでぇ、失礼しま~す!」


俺はぺこりと頭を下げ、本館1階フロアを出て、

最初の講義『剣技』の行われる闘技場『中』へ向かったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


講義開始に遅れたらヤバイ。


どひゅん!


と、弾丸のように駆け、闘技場『中』へ入った俺。


1階フロアを走ったから。後で怒られるかもしれないな。


まあ、いいや。

今後気を付けよう。

ちなみに、遅刻はしないで済んだ。


そんなこんなで……やがて、講義が始まった。


何か、体育の授業みたいだ。

学生時代へ戻ったみたいで新鮮。

素直に嬉しい。


まあ、剣技は講義というか、簡単な話があって、準備体操……ストレッチの指導だ。

身体をほぐしてから、素振りという事である。

その後、足さばき、体さばきの練習という順番。


おお、成る程。

DEX:デクステリティー:10,000《MAX》

命中率抜群は勿論、器用さが最高値というお陰だろうか。


教官による指導がすぐ身につくのが実感出来る。

初期設定『刀剣』スキル初級も影響しているに違いない。


『ステディ・リインカネーション』はアクションRPG。

ボタン操作でアクション対応したが、技を極めたが、

実際に身体を動かすのはまた別物。


そう!

やはり受講して良かった!


俺の身体の動きが滑らかに巧みになり、更に切れも増して行くのが、

しっかりと実感出来るのだ。


さてさて!

基礎訓練が終わり、実戦へ。

まあ実戦と言っても、講習生同士の模擬戦。


例の雷撃剣を使ったポイント戦である。


たった10分ではあるがエヴラールさんと戦って勝ち、試合のコツはつかんでいる。

更に今の基礎訓練の応用が加わっている。


相手次第なのだが……

よほどの超天才でも居なければ、俺に負ける要素はない。


あっという間に、30人居る講習生相手にひとり1分かからずに全勝した。

つまり30連勝!


まあ、当たり前なんだが。


しかし、ここで教官がご出馬。

彼はランクAの冒険者で、剣士である。


「ロイク君、さすがだな、講習生相手とはいえ、30連勝とは」


「はあ……」


「君の事は、サブマスター・バシュレから聞いている」


ええ?

おいおい何?

何を聞いているの?

エヴラールさん、変な事、言ってないよね?


「模擬戦とはいえ、剣聖に勝ったようだな」


おおおおお!


どよめく講習生達。


わお!

エヴラールさん、正直に申告してくれたんだ。

偉い!


まあ、クロエさんがしっかりと釘を刺していたし、公式記録に残るから、

逆に、ごまかす方がまずいか。


となれば、俺は『大人の処世術』で言葉を戻すしかない。


「はあ、まあ……たまたまで、運が良かったんです」


「運が良かったか……では、私と戦ってその運が通用するか、実際にやってみよう」


という事で、教官と雷撃剣の模擬戦。


果たしてこれはどれくらいの力加減で、戦うべきなのか?

ぱぱぱぱぱ!と俺は考える。


まず……

俺が勝っても、教官の恥にはならない。


何故ならば、俺がすでに剣聖エヴラールさんに勝っているから。

そんな俺に負けても、納得するに違いない。


そして、ここは良い機会だから、カウンター狙いではなく、正攻法。

『本気』で行こう。


どしゅ!「あつ!」

どしゅ!「あつ!」

どしゅ!「あつ!」

どしゅ!「あつ!」

どしゅ!「あつ!」


一方的に5ポイント先取!

こちらはノーダメージ!


講習生よりは上であったが……

やはり2分30秒で倒した。


おおおおおおおおお!


更に大きくどよめく講習生達。


教官さん、悔しかったらしく、もう一戦。


どしゅ!「あつ!」

どしゅ!「あつ!」

どしゅ!「あつ!」

どしゅ!「あつ!」

どしゅ!「あつ!」


またも一方的に5ポイント先取!

こちらはノーダメージ!


ちなみに、どしゅ! は当たった衝撃音。

あつ! は雷撃ショックを受けた教官の悲鳴である。


おおおおおおおおお!


更に更に大きくどよめく講習生達。


「更にもう一戦!」と教官が望み、戦いは3回目を迎える。


どしゅ!「あつ!」

どしゅ!「あつ!」

どしゅ!「あつ!」

どしゅ!「あつ!」

どしゅ!「あつ!」


やはり3度目の正直でも、一方的に5ポイント先取!

こちらはノーダメージ!


「ふうう……負けだ。完敗だ」


さすがに闘技場『中』は静まりかえってしまう。 


でも3度戦い、完敗した教官は潔く負けを認め、『基礎』クラスの卒業を認めてくれた。

これで俺は『上級応用』クラスへ進める。


そして、俺には更なるメリットが。


初戦こそ勝ちにこだわったが、2戦目、3戦目は、余裕をもって戦う事が出来た。


それゆえ、

教官の攻撃防御、体さばき足さばきをしっかりと参考にさせて貰い、習得。

『自分のもの』とする事が出来たのである。

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