第28話「あの彼は今頃どうしているのだろう?」

「冒険者ギルド総本部で講座受講して修行しながら、『フリーの自営業者』になる」


そう告げたが、「筋を通した」とルナール商会会頭セドリックさんには、

大いに気に入られてしまった。


「仕事も発注する」と言われ、今後は顧客という形で取引して行く事となった。


それゆえ、宿泊も含め、全てのサービスを遠慮したのだが、

現状のままで、約束を完遂すると言われてしまったのだ。


有無を言わさないという感じで、セドリックさんには押し切られたが、

その後、ランチもごちそうになった俺は、お礼を伝え、ルナール商会を辞去。


事前に立てた予定通り、王都探索へと出かけた。


本来なら、もっと早く探索しようとも思っていた。

実際、思い立ってから少し時間が経っていた。


しかし、今回の用足しは時間が経っていても全然問題なし。

ノープロブレム。


え?

何が何だか分からない?


まあまあ、すぐ分かりますって。


前世のアランことケン・アキヤマの俺が勝手知ったる王都の全通り。

目をつぶっていても、どこがどこだか、どう行けば良いのか分かる。


まず俺が訪問したのは、一軒のとある古道具屋。


店内には古めかしい家具や調度品が置かれていたが、俺はそこには目もくれず、

装飾品コーナーへ。


え?

何だ、それ?

おしゃれでもするのかよ?


と、おっしゃった方。

当たらずととも遠からず。


しかし俺は並べられている、高価な装飾品には目もくれず、

追いやられたように片隅にあった、いかにもなワゴンへ。


そのワゴンに山盛りになっていた『処分品』は……

『ひとつ、どれでも銅貨5枚!=500円 激安!! 早い者勝ち!」

と書いた札がついていた。


積み上げている宝飾品を、俺は「がちゃがちゃ」と無造作にあさる。

実は丁寧に、丹念に探し物をしているのだが。


店内には従業員が何人も居るが、

「こんなワゴンを漁る客など貧乏人に決まってる」と、ばかりにスルーされている。


今の俺なら……見つけられるはず。


「お、おお! あ、あった! ま、間違いない!」


思わず声が出た。


慌てて口を押える。


俺の手がつかんだのは、長年使い込まれた感のある古めかしい腕輪である。

魔法で劣化防止処理をした、暗褐色の渋く地味な銅製腕輪だ。


大事な事だから、心の中でもう一度言おう。

心の中なら、いくら大声を出しても聞こえない。


あったあ!!!

あったぞぉぉ!!!


超レアな『魔法の収納腕輪』だあああ!!!


この魔法収納腕輪は、『失われし、古代魔法王国の遺品』ともいえる品物である。


そして空間魔法により、この王都ネシュラがまるまる入るくらい、

広大な亜空間が、腕輪内部に設定されているのだ。


これさえあれば、どんなものでも運搬出来る。


冒険者のみでなく、誰もが羨望の眼差しを投げかけ、

所有を熱望するウルトラ超レアな貴重品なのだ。


しかし見た目は、処分品である暗褐色の渋く地味な銅製腕輪なのだ。


そして……

この俺アラン・モーリアが、愛用した品物でもある。


本当に懐かしい!!


値段は貴重すぎて、つかない。

いわゆる『超プライスレス』という奴だ。


どうして、そんな超貴重な魔道具が、

古道具屋の叩き売りワゴンに埋もれているのか?


そう!

実はこれ、『ステディ・リインカネーション』の、

『超レアなイレギュラーイベント』なのだ。


この腕輪は、常にこの店で販売されているわけではない。

『万にひとつ』の超低確率で、しれっと銅貨5枚、たった500円で売り出されるのだ。


今の俺はパラメーターのLUK:ラッキーが最高値の10,000《MAX》。


なので、もしかしたら腕輪をゲット出来るかもしれない!

……と思って来店したら、まさにビンゴぉぉ!!であった。


ちなみに……この時点で、収納の魔法腕輪は機能を封じられている。


だから、そんなに貴重な品物として古道具屋には認識されていない。

但し『あるキーワード』を唱えると、腕輪は機能が回復し、使えるようになるのだ。


そしてこのイベントは、ステディ・リインカネーションにおいて、

公式発表されていない。

超裏イベントでもある。


皆さんが気になる情報元だが……

俺はマニアックな某ステディ・リインカネーション攻略サイトで知り合った、

ヘビーユーザーから、こっそりと教えて貰ったのである。


アバターが強くなる前の困った序盤はお互い様。

当たれば、もうけもの。

試して損はないぜとSNSメールで教えて貰った。


お返しに俺も、自分の持つ『マル秘の攻略情報』をメールでいくつか教え、

とても喜んで貰った。


ネット上の付き合いだったから、素性はどこの誰とも分からない。


本名も当然知らない。


お互いにハンドルネームしか知らなかった……


でも確かに、『ステディ・リインカネーション』のプレイを通じ、

心の絆を結んでいた。


『あの彼』は今頃どうしているのだろう?

元気でやっているだろうか?


俺は今、君も熱中したステディ・リインカネーションの世界で転生し、生きている。

多分、元の世界には戻れず、この世界で人生を全うする。


もしも可能ならば、大恩人の彼へ、

「また君の情報が凄く役に立った! 本当にありがとう! もう二度と会えないだろうが、元気でなあ!」

という大きな感謝の気持ちと、

「俺は前世より、絶対、1億倍、幸せになるぞ!」と強固な決意を伝えてやりたい。


いかん!

少し感傷的になった。


俺は、平静を装い、魔法の収納腕輪をしっかりと持ち、代金を払った。

領収書を受け取り、そのまま左腕にはめた。


店員は、上得意ではない俺を冷ややかな目で見つめていたが、

歓びに満ち溢れた俺はメンタルに、全然ダメージを受けない。


こうして……

ウルトラ超レアな貴重品『魔法の収納腕輪』をゲットした俺は、

古道具屋を出て、他の店を何軒か、そして市場もめぐった。


そして思惑通り、運がMAX最高値の俺は……

イレギュラーイベントの連続。

次々と格安で、掘り出し物という、超レア商品をゲット!


意気揚々と、ホテルへ戻ったのである。

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