第27話「ウチはそんなに器が小さくありませんぞ!」
王都ネシュラの冒険者ギルド総本部において、
『召喚術』『回復魔法』『剣技』の3つの基礎講座を俺は受講する事に決めた。
俺は申し込み金、各講座につき、金貨1枚づつ、都合3枚を手付で支払い、
講座受講手続きを完了した。
引き換えに、受講証3枚を受け取る。
業務カウンターの職員さんから、
「本日申し込み分の講座の受講は明日からだ」と言われる。
そこで俺は、次にルナール商会へ赴く。
とりあえず『フリーの自営業者』になると決めたので、筋を通す為、
経過報告をしようと思ったのだ。
先行き、どうなるかは分からない。
しかし、当面ルナール商会へ就職はしない。
ただ、あの商会経営のホテルに宿泊中、俺は至れり尽くせりである。
ホテルのハイクラスの部屋へ泊まって、散々、美味しい思いをしておいて、
「俺、フリーの自営業者になります。はい、さよなら」
……では、人としていかがなものか。
前世で3年間、ロイクが店員をやって3年間。
俺は計6年間、仕事をして実感した。
結局、最後は『誠実さ』が、一番評価される。
そう考えたからだ。
受付で、ルナール商会の会頭セドリックさん、または幹部社員オーバンさんへ、
面会を申し込む。
革鎧姿という事もあり、
取得したばかりの、冒険者ギルド所属登録証を見せようとした。
だが見せるまでもなかった。
俺が名乗ると、受付の社員さんがすぐに俺を認識し、応接室へ通してくれたのだ。
社員さんから、ふたりとも本日は、商会に在社していると告げられた。
しばし待てば……
やがて、セドリックさん、オーバンさんがやって来た。
ふたりとも、にこにこして、明るい笑顔を向けて来る。
まず俺はあいさつし、ホテル宿泊のお礼を丁寧に伝え、深く頭を下げた。
そして、いきなりノーアポで訪問した事を謝罪し、昨日の経緯を話した。
冒険者ギルド総本部で、所属登録証を取得。
自分のスペックを確認し、様々な適性が判明したので、
「冒険者ギルド総本部で講座受講して修行しながら、『フリーの自営業者』になる」と告げたのである。
その際、サブマスターのエヴラールさん、秘書のクロエさんから、
いろいろギルドがらみで、誘われた事も話しておく。
対して、いきなり『ランクB』の『ランカー』、
上級冒険者に認定されたと聞き、
「凄い!」と驚いたセドリックさんとオーバンさん。
しかし、山賊ども40人以上を単独で倒した実力から、
「さもありなん」と、納得した表情で頷き合った。
ここで俺は再び頭を下げた。
「……という事なので、本当に申し訳ありません。大変、恐縮ではありますが、御社の社員へというお誘いは、ご遠慮させて頂きます」
「……………………」
「……………………」
「俺はクラン『
「……………………」
「……………………」
俺の話をじっと聞く、セドリックさんとオーバンさん。
更に俺は話を続ける。
ここがキーポイントである。
「但し、俺ロイク・アルシェは冒険者ギルド所属とはいえ、『フリーの自営業者』になりますので、宜しければお仕事をご発注して頂き、御社を始め、互いの条件が折り合えば、ぜひ前向きに請け負いたいと思います」
俺がそう告げると、セドリックさんとオーバンさんは納得し、大いに喜んだ。
「今後とも、ぜひ一緒に仕事をしたい! 必ず発注します!」
とふたりとも返してくれた。
よし!
これでルナール商会が、有力な『顧客のひとつ』になってくれた!
それも超が付く優良企業である。
これは大きい!
ランクAの新規取引先ひとつゲットお!
前世のダークサイド企業でも、
営業担当として、散々、新規開拓をやらされたので、少しは役に立ったか……
ルナール商会とは、今後、専属にならない前提で、仕事を請け負う約束を、
会頭、オーバンさんとの連名サイン入りの『書面』で交わしておいた。
多分、念書レベルの、法律的な効力はない契約書だが、無いよりは全然まし。
口約束のみより、全然良い。
こうなると、俺はやる気が出て、「もっと取引先を開拓しよう」と思う。
そういえば、前世のダークサイド企業では、
こうやって新規開拓しても、報奨金もろくに出さなかった。
俺は異世界から、大声で言ってやる!
おい!
ダークサイド企業のわがまま社長! こばんざめ部長!
お前ら、もっと社員を大事にしろ!
俺が務めていたダークサイド企業、
今頃、社長と部長以外、全社員退職してるんじゃないのか?
さてさて!
最後に、こういう状況となったので、
「これ以上お世話になるのは心苦しい。3日以内に、ホテルを引き払いたい」
と、俺は告げた。
「貰ってくれと言われた服なども、受け取れない」とも。
対して、セドリックさんは笑顔で、
「とんでもない! ウチはそんなに器が小さくありませんぞ! 出した条件は一切変えません! ホテルにはそのまま、延泊も数か月、いえ、半年はご自由に! 服だけでなく、何かご要望があれば、何なりとお申し付けくださいませ!」
そして更に、
「良くぞ
……ロイク様は、我がルナール商会の大恩人! ご縁が出来て本当に嬉しいですぞ! 今回の件は、これからも、共に仕事をする為の、ささやかなお礼と懇親の為だと思ってください!」
そう、きっぱりと言い切ったのである。
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